魔剣砕きと狩人殺し~チート無しの一人と一匹はニッチに生きる~

大黒天半太

一 一人と一匹

  魔剣砕きソードブレイカーと王国軍に呼ばれる亜人の戦士と、狩人殺しハンターキラーと周辺の猟師達から恐れられる魔獣が、出会ったのは、戦場からかなり離れた森の奥だった。



 魔剣砕きは戦場で、狩人殺しは森の中で、それぞれ傷つき逃走し、休息できる場所を求めて彷徨った挙句に、期せずして森の奥深くのトネリコの大樹の陰に、身を横たえた。



 魔剣砕きソードブレイカーは獣の臭いで、狩人殺しハンターキラーは血の臭いでお互いに気付いたが、己の強さのみを頼りに生きて来た両者は、目先の小さな危険よりも、今すぐの休息と回復を優先した。


 いつでも、相手こいつを殺すことはできる、と。



 魔剣砕きソードブレイカーは考えた。

 この強烈な猛獣の臭いの近くに来れば、負傷した兵士が無事でいられるわけはないと追手は思うだろう、と。

 見通しも利かない森の中で、不用意に猛獣の狩場に入りたがる兵士は、追跡部隊にも多くはないはずだ。


 狩人殺しハンターキラーは考えた。

 手負いの兵士が無事なのを見れば、猟師たちに追われた獣は、兵士を獲物にする暇もなく逃げ去ったと思うだろう、と。

 人と人が殺し合う兵士は、獣を狙う猟師より御しやすい。

 そして、手負いの人を見ると、人はなぜか、助けるかとどめを刺すかするものなので、獣より兵士の方をかまうだろう。



 気は抜かないと心には決めながらも、疲労とダメージの蓄積の中、一人と一匹の意識を泥沼のような眠りが捕らえ、その奥底へ引きずり込んで行った。

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