第6話 霊亀の加護

「どこから話したものか……」


 俺にそっくりの男、エルンストは顎をさすりながら思案していた。


「なら、俺とあんたの関係を教えてくれないか?」


 エルンストが話しやすいように話題を振ってみる。

 実際、原作でも明かされなかった部分だしかなり気になる。


「さあ? 子孫なんじゃないか?」

「えぇ……」


 あまりにも適当な物言いに呆れてしまう。


「仕方ないだろう。俺だって気付いたらお前の中にいたんだ。多分、顔が似てるから子孫なんじゃないか? まあ、俺の方がイケメンだが」

「そんなことありません。ジークの方がイケメンよ」


 アイリスがエルンストに噛み付いた。

 隣でリヴィエラもうんうんと頷いている。


「ちなみに俺に取り憑く前は、どんなことをしていたんだ?」


 なんだか就職の面接みたいになってきた。


「そうだな。俺は元々この世界で魔王と戦っていたんだ。多分、千年前ぐらいだろうか?」

「えっ、それって十二英雄のことですか?」


 リヴィエラが驚いたような表情を浮かべる。

 十二英雄とはかつて、魔王を滅ぼし、この世界を救った戦士達だ。

 この世界の者なら誰でも憧れる英雄で、我がレイノール家は《炎の公女》と呼ばれる者の血を引いている。


「ん……あれ? 俺の先祖様は《炎の公女》プリシラのはずだが……」


 妙な話だ。

 エルンストは俺の先祖だと言ったが、そもそも俺の先祖はプリシラと言うことになっている。


「そう。つまり、プリシラは俺の嫁だ。お前はプリシラと俺の血を引いてるって事だな」

「いやいや、待て待て。そもそも、エルンストなんて十二英雄の中には居ないぞ」

「……そういえば、俺の仲間は俺も込みで十三人だったな。もしかして俺、ハブられたのか!?」


 エルンストはがっかりとした表情を浮かべる。自称英雄の割には威厳がない。


「まあ、その辺りはあれだ。歴史が捏造されたんだろう。色々あったからな。俺も死んだ後と、お前の中に居着くまでの記憶なんてないし」


 よく分からないが、十二英雄は本当は十三英雄で、このエルンストこそがその歴史の闇に葬られた英雄らしい。


「ともかく重要なのは、魔王はまだ完全には滅んでいないということだ」


 原作でも、闇堕ちしたジークに魔王が取り憑いた。

 そして、そのトリガーとなったのがこの霊亀だ。つまり……


「そしてこのゴルディオンは魔王を封印する神獣の内の一匹だ。今じゃすっかりぼけてるみたいだが、彼がここにいるだけで、魔王封印の結界が維持されるって訳だ」


 原作のクライドはそうとは知らずに、封印の要を殺害したということになる。

 いやいや、ゲームにおいて隠しボスは定番だが、バッドエンド直行のためのトリガーにするなんて、本当にあのゲームはぶっ飛んでいるな。


「なるほど。この霊亀の役割は分かった。この世界の平和のためにも、なんとしても彼を守らないといけないって事もな」


 俺自身は魔王堕ちは回避したが、《魔王の核》自体はクライドに受け継がれた。

 魔王の封印が解除されたらどんな事態に陥るか分かったものじゃない。


「でも、待ってジーク。それなら、地震の件はどうなるの?」

「あー、それがあったか」


 一応、依頼は地震の原因の調査だ。

 俺的には、霊亀に会うためのクエストって認識だったが、依頼である以上そこはどうにかしなくては。


「ぶえっくしょい!!!!!!! ぶえっくしょい!!!!!!! ぶえっくしょい!!!!!!!」


 直後、霊亀が立て続けにくしゃみを発し、空間を激しく振動させた。


「うおっ!?」


 俺たちは、空中に投げ出されないように何とかバランスを取る。


「花粉……つらい……」


 霊亀が涙ながらに訴えた。

 恐らく、地震というのは彼のくしゃみが原因なのだろう。


 元の世界でも花粉、辛かったし気持ちは分かる。


 しかし、それにしても、神獣が花粉に悩まされているなんて妙な話だ。

 原作では毒耐性も特別高くなかったし、花粉が効くのもおかしな話ではないと言えばそうなのだが。


「ゴルディオン、お前は昔から背中に生えた木の花粉にやられてたりしたが、今は一層、酷くなってるな?」


 エルンストは何か違和感を抱いたようだ。

 やはり、霊亀が花粉に苦しみ続けるのには理由があるのだろうか。


「最近……背中に……変な幻獣が……取り付いた……そのせいで……花粉……止まらない……力も……出ない……」

「そうだな。お前が本気出せば、すぐに治癒できるはずだからな」

「今は……普段の……十分の一しか……力出ない……」


 十分の一……そうか。こんな強大な相手を良く倒せたものと思ったが、デバフが入っていたのであれば納得だ。


「よく分からんが、その幻獣を倒せば、地震は収まるのか?」


 俺はエルンストに尋ねてみる。


「ああ。力が元に戻れば、こいつは霊薬を自ら生み出すことが出来る。花粉の症状もすぐに治まるだろう。ちなみに俺は、一時的に現出しているだけだから戦うことまでは出来ない」


 なら、やることは決まっている。


 ここで霊亀に力を貸せば、彼は本当の力を取り戻す。

 そうすれば、魔王を復活させようと企む者が現れても、簡単には倒されることもないだろう。


「分かった。なら、俺たちでそいつの討伐を引き受けよう」


*


 それから、俺たちは霊亀ゴルディオンの背に乗った。

 その巨体とあちこちに生えた樹木から、背自体が一つのダンジョンのようになっていたが、何とかそれを突破し、俺たちは植物型の幻獣と対峙した。


「いや……多すぎないか???」


 てっきり一匹だと思っていた寄生生物は、数百匹居たのだ。


「これだけいたら、確かに神獣でも花粉にやられるかもね」

「少し、気持ち悪いです……」


 うねうねと触手をくねらせる食虫植物のような幻獣が無数に闊歩するのは、確かになかなかしんどい光景だ。

 とはいえ、依頼達成にはあれらをどうにかするしかない。

 俺たちは得物を取ると、幻獣の群れに突入するのであった。


*


「ジークの炎とリヴィエラの癒やしで瞬殺だったわね」


 俺たちは幻獣を始末して、先ほどの場所へと戻っていた。


 植物型の幻獣は、花粉のようなものをばらまいて相手の状態異常耐性を下げ、猛毒の息を吹きかけて何種類ものデバフを掛けてハメ殺しにしてくるいやらしい敵だ。

 しかし、それらはリヴィエラの持つ《聖女の加護》で完全に無効化でき、炎にも弱いために一瞬で討伐することが出来た。

 背中に寄生されていたゴルディオンもこれで、元の力を取り戻すだろう。


「早かったな。流石は俺の子孫だ」

「それで、花粉の方はどうなんだ」

「ああ、今からゴルディオンが薬を精製してくれるだろう」

「……………………………………………………………………」


 エルンストが期待の目でゴルディオンを見るが、ゴルディオンは沈黙したままだ。


「どうした、ゴルディオンは?」

「くしゃみしすぎて……疲れた……エルンスト……お前が……作ってくれ……」

「いや、今の俺は霊体みたいなもんだから無理だって。仕方ない。ジークにやらせるか」


 そう言うと、エルンストは俺をゴルディオンの前に連れて行った。


「待った。何をするつもりだ?」

「見てれば分かる」


 直後、ゴルディオンが高らかに雄叫びを上げた。

 同時に、無数の魔力の奔流が俺を襲う。



――――――――――――――――――――


【加護解放】

《霊亀の医術》New!!


【スキル習得】

《調薬:S》New!!

《医術:A》New!!


――――――――――――――――――――



「ゴルディオン由来の医術の加護だぞ。どうだ?」

「どうだって……」


 原作では、ただゴルディオンを倒して終わりだったが、まさか霊亀から加護を授かるとは……


「ゴルディオンの背に生える木はどれも、高い薬効を持つ樹液が採取できる。試しに調薬してみてくれ」

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