第17話 再会
「これ……は、どういうことじゃ……」
自分の想像を超えた出来事に、ラフィリア伯は完全に混乱していた。
「全てはオルトとボーマンの計画だったというわけです。レックスに毒が盛られたのも、ミレイユが襲われ掛けたのも、あそこで気絶しているオルトが仕組んだからです」
「ま、まさか、そんな……」
「知らなかったとは言え、まんまと乗せられましたね」
立て続けに身内に不幸が降りかかったからとはいえ、頭に血を上らせて短絡的な行動に出たのは事実だ。
「わしも……老いたという訳か」
既に彼は80を超える高齢だ。
息子夫妻、ミレイユの両親をヨトゥン教団の手で亡くしたのも、判断力を鈍らせた原因だろう。
「ま、待て。馬鹿なこれは一体どういう事だ!?」
その時、訳が分からないと叫び散らかす一人の男がいた。ボーマンだ。
「今回の騒動が、私の計画だと? そんな証拠がどこにある!!」
どうやらボーマンはこのまま言い逃れをするつもりらしい。
確かに、俺の手元に証拠は無い。それを見付けるのはクライドとミレイユの役目だったからだ。
それを良いことに、ボーマンは強引にこの場を押し切ろうとしていた。
「証拠ならあります、叔父上」
「なに?」
しかし、思わぬ助け船がミレイユから出された。
「あのライが毒を盛ったのが信じられず、エリナの婚約者であるベリルの周辺を探りました。その結果、叔父上から毒物が提供されたことを自白しました。レックスの遺体を調べれば、恐らくあなたの屋敷から同種の毒物が見付けられるはずです」
「ば、馬鹿な……ジーク君が証拠は隠滅しておくと……」
恐らく、オルトは加護を失ったボーマンに価値はないと見限ったのだろう。
そうであれば、証拠隠滅などという手間の掛かることをするはずがない。
「いずれにせよ今の言葉で、叔父上の関与は証明されましたね」
「あ……」
ともかくこれで、事態は終結へと向かうだろう。
後始末に関しては、ラフィリア伯達に任せよう。
「あの……」
ボーマンが騎士団に連行された直後、ミレイユが俺を引き留めた。
「俺のことは許せないんじゃなかったか?」
先ほどミレイユは俺のことが許せないとはっきりと言った。
てっきり、オルトのことを信じ込んでいたのかと思ったが……
「あなたとは言っていません。飽くまでも〝オルト〟という方が許せないと言っただけです」
それはまさか、俺が本物だと実は見抜いていたと言うことなのだろうか?
「もちろん、あなたのことは最後まで信用していませんでした。ですが、それはあのオルトという方も同様です」
「どういうことだ?」
「あんな不確かな言葉だけで、信用するなんて無理な話です。ですが、あなたと同じ顔の人が二人居るのだろうと言うことは分かりました。なので、両方の可能性に備えたんです」
つまりミレイユが言うには、彼女はどちらが本物で偽物なのか見分けが付かなかった。
そのため、演説の場で俺を捕らえるか、オルトの方を捕まえるかを見極めることとし、一方で、先に起きた事件の証拠も探っていたということらしい。
それはミレイユらしい合理的な選択だ。
やはり、彼女はその慎重さから最善の道を選んでくれた。
おかげで、オルトを完全に追い込むことが出来た。
「それで君の目から見て、どっちが本物なんだ」
「あなたです。間違いなく」
ミレイユは迷いなく俺の方を指した。
「俺がオルトを倒したからか?」
「いいえ、彼女の視線がずっとあなたの方を追っていたからです」
ミレイユに釣られて、俺は視線を移した。
そこには、俺が待ち望んでいた人が居た。
「ジーク……ジーク!!」
蒼い髪の愛しい人、アイリスが勢いよく俺の胸に飛び込んできた。
「ごめんなさい、ごめんなさい!! 私ずっと、あなたとあの人を間違えてた。こうして見比べたら一目瞭然なのに……ごめんなさい!! 私、婚約者失格だわ!!」
大声をあげてアイリスが泣き出す。
彼女は随分と自分のことを責めているようだった。
「そんなことない。元を正せば、俺が君の前から居なくなったのが悪いんだ」
俺はなんとかそれを否定する。
第一、俺ですら見分けが付かないレベルなのに、それを一目瞭然と言い切るアイリスは、むしろ婚約者としてこの上ない人だ。
「でも、あなたにはきっと、何か事情があったんでしょう?」
「ああ、そうだな……色んな事があった」
元はといえば、あの傲慢な父上が俺を殺そうとしたことが発端だ。
それから色々なことがあった。だが、何とかオルトの野望を阻止して、こうしてもう一度アイリスをこの手に抱きしめることが出来た。
前世の記憶が蘇ろうと、アイリスは俺にとって、長い時を一緒に過ごしてきた大切な人だ。
もう二度と、オルトなんかには渡さない。
俺は心ゆくまで、彼女を抱き締め続けるのであった。
第二章 了
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