第16話 決着

「お前は俺の炎に焼かれて死ね。さもなくばあの女を殺す」


 オルトは最後の最後で、卑劣な手段に訴えた。

 彼らしいと言えば彼らしい。


 オルトはあらゆる可能性を常に想定し、最適な対策をとる慎重な男だ。

 ただし、そのためなら卑劣な手段も辞さない。


「良いのか? 大勢が見てる前だぞ?」

「それがどうした? 伯爵家に反逆した貴様を葬れば、民衆も文句は言わん」


 オルトは多少の非難も覚悟の上のようだ。


「どうやら俺に勝てない可能性を見込んでいたようだな」

「黙れ。どちらの立場が上か分かっていないようだな」

「……やれやれ」


 俺の加護は相手の魔法を吸収するというものだが、限界はある。

 オルトが本気を出せば、あるいはということもあっただろう。


 しかし、オルトは真っ向からの対決を諦めた。

 恐らく、俺とオルトの決着が前倒しになったことが影響しているのだろう。

 いずれにせよこれは好都合だ。


「さて、まずお前にはここでじっくりと指を咥えて見ていてもらおうか」


 完全に勝利を確信したオルトは、勝ち誇った表情を浮かべる。


「さて、ラフィリア伯。先ほどご覧頂いたように、哀れな〝加護なし〟共は武器を持ち、反抗の意思を示しました。当然、ここですべきことはお分かりですね」

「うむ……致し方あるまい。よもやここまで大それた準備をしていたとは。わしが間違っていたという事じゃ」

「ご理解いただけて感謝いたします。では、これより〝加護なし〟の殲滅を始めるとしよう」


 オルトが騎士に指示を出そうとする。


「ぷっ……」


 しかし、俺はその様子がおかしくて、つい笑ってしまう。


「貴様、何がおかしい!!」

「いや、〝加護なし〟を殲滅するって言ったが、どこに〝加護なし〟が居るんだ?」

「何を言っている……?」


 〝加護なし〟を使って、ラフィリア伯爵を扇動した後、彼らによる暴動が起こることは分かっていた。

 だから、先んじて手を打たせてもらった。


「ハル様!! 頼まれていた任務は完遂させましたぜ!!」


 〝加護なし〟の人混みの中から、三人の大男達が現れた。


「我ら、愛の伝道師。ハル様より授かった力で、〝加護なし〟の方々に力を授けてきました」

「私達の熱い口づけでね!!」


 以前、リヴィエラが俺の頬に口付けをした時、彼女に加護を与えることに成功した。

 粘膜による接触があれば、それが可能なのでは無いかと試したところ、俺は再び加護を付与することに成功した。


 そして、俺の加護魔神喰らいよりも性能は下がるが、限定的に「加護を付与する力」を他人に授けることが出来ると知った。

 そこで俺は、前に命を救った三人の冒険者達にその力を付与し、〝加護なし〟の居住区で、加護を付与して回るように頼んだ。

 方法は任せていたのだが……


「似合ってやすでしょう? 三人ともお揃いのシスター服ですぜ」


 なぜか三人ともパツパツのシスター服を身に纏っていた。

 お前達のようなシスターが居るのものかと疑いたくなる。


「〝加護なし〟の居住区で炊き出しを行ったんですよ」

「そして、熱い口付けとセットでプレゼントしたのよ」


 それはまた……随分と賢いやり方をとったものだ。


 いきなり口付けだけをするというのはハードルが高すぎる。

 だから、聖職者を装い、炊き出しもセットにすることで祝福という形で口付けを行ったのだ。

 彼らの容姿がムキムキのシスターらしからぬ巨漢であるという点を除けば、驚くほどに合理的だ。


「ということであなた達、魔法を使ってみなさい」


 エリザベスの合図で、〝加護なし〟達が魔法を発動させた。

 俺が付与できる加護のバリエーションは少ないが、俺とリヴィエラの扱う炎と治癒の他、ゴンザレスの自己強化魔法、ローレンスの風の魔法などが見られた。

 俺が直接付与したわけではないので、発動できる魔法のランクは低いが、今は彼らが〝加護なし〟でなくなったという事実さえあれば十分だ。


「ど、どういうことだ。どうして〝加護なし〟が魔法を??」

「彼らは〝加護なし〟じゃなかったってことか?」

「い、意味が分からん……」


 あり得ない現象を前に、市民達が混乱し始める。


「さて、オルト。この街に〝加護なし〟は居なくなった。それで一体どうやって、〝加護なし〟を殲滅するつもりだ?」

「ぐ……き、貴様……一体、どんな術を使った?」

「俺の加護だよ。頭の良いお前でも、俺が加護を他人に与えられることは知らなかったようだな」

「ば、馬鹿な……そんなデタラメな加護、あるはずが……」

「デタラメな加護なら、お前の身近にもあるだろう?」


 俺以外にも加護に干渉できる存在が居る。クライドだ。


「ふ、ふざける……な……僕は《炎帝》を継いだんだ……それなのに、お前の様なゴミクズにこんな……ああああああああああああ!!!!」


 怒りが頂点に達したのか、オルトは絶叫しながら地団駄を踏み始めた。

 ありったけの魔力を込めたからか、地面が徐々にひび割れていく。


「さて、お前の計画は滅茶苦茶にしてやったぞ。どんな気分だ?」

「黙れ!! 黙れぇえええええ!!!!」


 既に半狂乱となるオルトだったが、俺は容赦しない。

 なにせ、こいつは俺の全てを奪った。原作ではアイリスを苦しめ、死に追いやった。

 人生二人分の恨みを晴らさないと気が済まない。


「さあ、今度こそ決着を付けよう。お前が泣いて許しを請うまで、存分にやり合おう」

「調子に乗るな……!! こっちにはまだ人質がいるんだぞ」

「どこにだ?」

「え……?」


 オルトは慌てて、アイリスを捕らえていた方へと振り返る。

 そこには昏倒させられた騎士達と、アイリスをかばうように立つリヴィエラの姿があった。


「な、なんだ、その女は……!!」

「アイリス様は解放させていただきました」

「やってくれたか」


 リヴィエラには俺の持つ全ての加護を授けた。

 そして、オルトがアイリスを人質にすると読んだ俺は、全力で彼女を助け出して欲しいと頼んだのだ。

 リヴィエラは与えられた全ての加護を駆使して、俺の願いを叶えてくれた。


「さあ、もう逃げ場は無いぞ」


 人質の解放を確認した俺は拳に白炎を纏わせた。


「お前は負けたんだよ。計画は全て台無しにされ、保険も潰され、何一つとして俺を超えることは出来なかった」

「馬鹿な……馬鹿な……」

「だが、お前は《炎帝》の後継者だ。それは認めよう。お前こそが父上を継ぐ者だ」


 まああんな男の後なんて継ぎたくもないから、何の名誉でも無いが。


「だから、最後は正々堂々戦ってみろ」


 俺はオルトを挑発すると同時に、拳を構えて走り出した。


「な、嘗めるなぁああああああああああ!!!!」


 同時に、オルトが渾身の大魔法を放った。

 だが、決着は一瞬だ。


「かはっ……」


 俺はオルトの魔法を全て吸収して見せ、渾身の拳をオルトの腹部に見舞ってやった。

 凄まじい衝撃で吹き飛ばされたオルトは、旧王城の城門に叩き付けられた。

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