第6話 これからのこと

「っ……死ぬかと思った」


 瓦礫をどけて人心地付く。

 辺りを見回すと、大規模なクレーターが出来上がっていた。


「加護がなかったら死んでたな」


 ヨトゥン教団のアジトは跡形も無く消し飛び、後に残ったのは更地だけだ。

 加護で魔力を吸収しなければ、どうなっていたことやら。


「っと、それよりもリヴィエラ、無事か?」


 咄嗟に彼女を抱きかかえて爆発からかばったのだが、果たしてあの爆風から守りきることは出来たのか。


「外傷はない。息は……してる。どうやら気絶しているだけだな」


 腕の中のリヴィエラの様子を見て安堵する。

 俺の加護は魔力を吸収するものだが、それを利用すればこういう風に他人を庇うことも出来るようだ。


「ん……あれ、ここは……?」

「起きたか、リヴィエラ」


 やがて、リヴィエラが目を覚ます。

 声の感じから、これといってダメージは負ってないようだ。


「ここは一体?」

「教団のアジトだよ。今は見る影もないけどな」


 おかげで、父と教団の繋がりを示す証拠も、それを知る指導者も失われてしまった。

 何事も予定通り行かないものだ。


「それにしても、本来の流れと少し変わってきてるな」


 結果としてリヴィエラの命は救えたが、どういう訳か主人公クライドは人が変わってしまったような残忍な性格となっていた。

 加護の覚醒も前倒しになり、父上が消し飛ばすはずだったアジトも彼が消失させた。


 俺の介入のせいか世界の歴史が変わり始めていた。


「だが、放っておけばリヴィエラの命もなかった」


 そう。俺の目的はあくまでも、この世界で幸せな人生を掴むことだ。

 そのためなら、俺はどんなことでもする。


 たとえその結果、歴史が変わろうとも構わない。

 仮に、歴史が変わったことで、俺の人生に支障が出るなら、またどうにかしてしまえば良いだけだ。


 俺はリヴィエラを連れて街へと歩き出す。

 次に救うべきは、婚約者アイリスだ。


 ジークの生存を知ったオルトは、ジークの心を完全にへし折るため、アイリスの心と身体を徹底的に弄ぶ。

 そして、ジークとオルトが入れ替わっていたことを知らされたアイリスは、自ら死を選んでしまうのだ。


「そんな未来は避けないとな。一刻も早く、帝都に戻ろう」

「帝都に帰れるんですか?」

「ああ、リヴィエラもクライドに会いたいだろう?」


 先ほどはちらっと顔を見ただけで、感動の再会を果たしたとは言えない。

 あのクライドの様子は気になるが、リヴィエラの姿を見れば落ち着くかもしれない。

 やはり、帝都に帰ることが最優先になるだろう。


「ちなみに、ここはどこなのでしょう?」

「ああ、確か旧都エルドリアの郊外だったはずだ。ほら、あっちの方にレイヴェリア宮殿が見えるだろう?」


 記憶を探って今いる場所を思い出す。

 エルドリアと言えば、帝都から東の方、かなり離れた場所にある都市だ。

 一体、帝都に行くまでにどれぐらい掛かるだろう。


「馬車だと三週間はかかる距離ですね……」

「さ、三週間?」


 答えはあっさり出たが、それにしても掛かりすぎる。


「それに、路銀は大丈夫でしょうか?」


 それもあった。なにせ無一文で誘拐されたので、金目のものなどなにもない。

 こんなことなら教団のアジトから、換金できそうなものを奪っておけば良かった。


「この本は……さすがに売り物にならないよな」


 ヨトゥン教団が開発した《ヨトゥンの書》。

 ゲームでは入手不可の激レアアイテムだが、だからといってそれはゲームプレイヤーにとっての話であり、実際には買い手が付くはずもない。


「よし。仕事をしよう。路銀を稼いで帝都に戻るんだ」

「仕事……ですか? 一体何をすれば」

「もちろん、冒険者だ。俺たちのような子どもでも実力さえあればなんとでもなるからな」


 この世界の南東には魔族領と呼ばれる領域がある。

 人類を滅ぼそうと企む魔王が治める地域で、彼が存在する限りこの世界には無限に魔物が湧いてくるという。


 そのため、魔物と戦う冒険者の担い手は貴重だ。

 命を落とす危険も高いことから、高額な報酬が約束されており、素性や年齢を問わず冒険者志望は歓迎される。


 手っ取り早く路銀を稼ぐには最適といえるだろう。


「分かりました。ジーク兄様がそうおっしゃるなら、私もお供します」


 こうして、俺はこの世界で冒険者への道を歩むこととなった。

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