第13話 スピリチュアルが繋ぐFacebook
祖父の3回忌の法要を終え、今日も健人は陽介と一緒に正栄丸に乗り、今が旬の関サバを狙いに伊方原発所沖合を豊後水道に向かっていた。
「関サバ」とは大分県の佐賀関沖の地磯の根に生息する鯖で全国的ブランド魚であり、その生息海域は地元佐賀関漁業組合に登録した漁師でないと漁を行うことができない。
佐賀関の漁師は、豊後水道の速潮に揉まれた品質の良い真鯖を魚体に傷がつかないよう手櫛により一本釣りで釣り上げる。
愛媛からの遊漁船等は、その遊漁禁止海域の外で釣りを行う。
そのため、一定の範囲に多くの遊漁船が密集するため場所取りが重要となった。
今日の客はやはり県庁職員7名が乗船しており、晩秋の豊後水道は風が強く、波も高い上、場所取りのため陽介はフルスピードで船を走らせていたため、皆んな海に落とされないよう船縁に必死に掴まっていた。
伊予港を午前5時に出港し、1時間半かけて漁場に到着した。
まだ、薄暗い中、既に多くの遊漁船が集まっていた。
鯖の仕掛けは鯵と同じであるが、この時期の関サバは丸太棒のように太っており、50cm級の大物もざらではないことから、鯵のような仕掛け10本針を使うと、全部の針に掛かった場合、糸が切れることがあるため、半分の5本針を使用する。
また、鯖は鯵と違い、喰いついたら横に走る(泳ぐ)ことから、上手く竿を立てて上げないと隣の者とお祭り(糸が絡む)になることが多々あった。
陽介は他船と無線でやり取りし、釣り場所を決めた。
今日は底潮の流れが速いため、一定の場所に停留して釣りをすると、仕掛けが潮に流されポイントから外れてしまうため、一度仕掛けを投入し、アタリが無ければ、船を元の位置に戻し、またポイントに船を進め、仕掛けを投入するといった、かなり忙しい釣りとなった。
よって、今日は錨を降ろす必要はなく、健人は早くも竿を握り、いつもの瞑想を行っていた。
陽介が客に仕掛けを投入する合図をした。
皆な急いで仕掛けを投げ入れ、陽介の指示した糸出し38mでリールを止めた。
鯵は海底に住み着くが、鯖は中程を泳ぎ回るため、底を取る必要はなかった。
しかし、その分、速潮に仕掛けを持って行かれないよう糸を張り竿先は撓ったままになり、潮の流れか、鯖のアタリか、初心者には少し難しい釣りではあった。
早速、健人の竿先が大きく海面に引っ張られ、そして、直ぐに糸が緩んだ。
その瞬間、健人は手巻きで素早く糸を巻いた。
先程言ったように、鯖は掛かると横に走るため、走る方角によっては糸が緩む、そのまま、アタリと分からず糸を出していると魚をバラし、お祭りになるのだ。
健人は糸を巻、竿先を突っ張らせると、大きく竿を一回しゃくった。
鯖は鯵と違い口先が硬いため、しっかり針掛しても大丈夫なのだ。
健人は電動リールの速度を落としながらゆっくりと道糸を巻き上げ出した。
竿先が海面に吸い込まれる程、竿が撓っていた。
健人は陽介に言った。
「陽ちゃん、これはあかんわ!針全部に掛かっとるか、大鯖が喰いついたかもしれん!」と
1番最初がバラすと鯖の群れが逃げてしまうので、陽介は健人であったことにホッとして、健人に言い返した。
「何が「あかんわ」や!、喜んでるやないか!」と
健人は4年前、祖父と一緒に大鹿を仕留めた時の心臓の喜ぶ鼓動を感じていた。
健人は思った。おそらく、キロ級が5本掛かっていると。
かなり手こずった。
鯖は横に走ることを止め、根に潜り出した。
ハリス5号を使っているが、5Kgを超えるとなると無茶はできない。
健人は鯖に好き勝手に潜らせないよう、竿置きから竿を外し、力っいっぱい、竿を立て、残り30mは手巻きでやり取りしながら慎重に巻き上げた。
海面に青黒い丸々とした魚影が見え出した、ここまで来れば鯖は口が硬いからもう大丈夫であった。
健人は竿を竿置き固定し、素手で糸を手繰り寄せ、大鯖を一本づつ、船に投げ入れた。
その鯖はデカかった。60cm級、軽くキロは超えているのが、5本であった。
他の客は羨ましそうに見ていたが、忙しい釣りなので、直ぐに陽介から「はい、また、船戻すから皆んな上げて!」とやり直しの合図がなされた。
この釣りは、1回流しの1発勝負であった。
健人はこの先も次々と大物を釣り上げ、釣れない客の保険をしっかり補った。
本日はまずまずの釣果であり、数こそ鯵と比べれば少ないものの、魚体の太さが違った。
正に丸太棒であった。
この時期の関サバは、最高に上手く、刺身醤油につけただけで脂が醤油に滲み出るほど脂が乗っていた。
陽介と健人は意気揚々と帰港し、いつもの如く、一杯やりに居酒屋に向かうこととした。
健人が居酒屋に着いた時、やはり陽介に大将が集り、今日の釣果を仕切りに聞いていた。
大将は健人の顔見ると、「健ちゃん、また、凄いの上げたんだって!」と羨ましそうに言ってきた。
健人は60cmを超える、今日1番の大鯖を携え、「これ、奥さんと食べて」と手渡した。
それを見た大将は、「これはデカイわ!嫁に喰わせるのは勿体無いよ!今から捌くけん、一緒に食べるべ!」とにこにこ顔であった。
陽介もどんな状況でも釣り上げる健人が本当に頼りであった。
それにより、年末まで予約は満杯であり、2人の遊漁船業は軌道に乗り始めていた。
その時、陽介か健人に頼み事を言った。
「健ちゃん、スマホじゃん、正栄丸の釣果の映像、インスタで流したいんじゃわ。
明日頼むは!」と
陽介は未だにガラケーであった。
健人は、「ええよ!インスタ載せるよ!」と快諾した。
次の朝、昨日と同じ漁場で釣りを行った。
昨日より風が強かった。
案の定、今日の客の掛かった鯖が横に走り、隣の船の客の仕掛けに絡まってしまった。
健人は丁度、生簀の魚をスマホで撮っているところだった。
陽介が無線で絡まった向こうの船長に詫びを入れ、船を近づけ、仕掛けを外すため、健人に「健ちゃん、舵を頼む!」と言い、操舵室から出て行った。
健人は舵を握り船が接触しないようエンジンを調整した。
向こうの船は大分県の船で、正栄丸と活動範囲が同じであり、その船長と陽介は顔見知りであった。
大分の船長が陽介に謝りながら、
「すまんのぉ~、今日の客、熊本から来ていてのぉ~、鯖釣りは初めてやから、竿を上げろと言っても、よう上げ切らんでのぉ~、そっちのお客さんの魚はまだ付いちょんみたいやから、魚から外すわ!」と言ってくれた。
陽介も向こうの船長に、「鯖、鰤は横に走るけん仕方ないわ!
それより、熊本からも来てるんかい?」と尋ねた。
大分の船長は、「高速が大分に抜けたけん、熊本、福岡の客が多くなってのぉ~、今日も熊本市役所の人が10人も来ちょるわい!」と仕掛けを外しながら答えた。
陽介は、健人が操舵室に入っていることをいいことに、悪ふざけでこう聞き直した。
「あの有名な市長さんは釣りはせんのかい?嫁さん別嬪みたいやから、今度、市長と奥さん、乗せて来てくれんかのぉ~」と笑いながら言った。
大分の船長も陽介の悪ふざけに付き合うように、
「わしもこん人達にあの若造の市長連れて来て、海に蹴り落としちゃれと言うたんやが、船には乗らんで男女群島に磯釣りに行きよんみたいやわ!」と笑いながら言った。
陽介は客の絡まった仕掛けを外し、大分の船長に礼を言い、操舵室に戻った。
そして、にやにやしながら健人に言った。
「向こうの船の客は熊本市役所の人やって!
健ちゃんの恋敵の市長様は残念ながら乗ってないってよ。男女群島に磯釣りには行きなはるとよ。」と冷やかした。
健人は陽介に、「男女群島に磯釣りとは、流石、金持っとるな。」と言い、操舵室を出て行った。
午後3時過ぎ、正栄丸は帰港した。
昨日より釣果は少なかったが、相変わらず、型は大きかった。
健人は大物を手にした客をスマホで撮った。
陽介に頼まれたインスタに投稿するためであった。
健人と陽介は、今日も居酒屋で飲んでいた。
今日の酒の肴は、どの写真をインスタに載せるかであった。
大将が冷やかした。
「健ちゃんが写っとるのを載せたら女性客が増えるのにもったいないなぁ~」と
陽介と健人は笑いながら、取り敢えず、大物を手にしてバックに正栄丸の船名が写ってる写真を載せることにした。
健人は家に戻り、インスタにその写真を載せた。
アイコンも正栄丸にし、今まで健人が撮った伊予灘等の景色も載せた。
健人は元IT企業に勤めていたので、こんなことお茶の子さいさいであった。
そして、シェアの段階でFacebookがリンクされていたのでオフにした。
その時、今日の陽介の悪ふざけの言葉を思い出した。
「熊本の市長が磯釣りしてる」という言葉を…
健人は詩織と別れてから、LINEもTwitterも Facebookもアプリを削除していた。
健人は何となくFacebookを再インストールし、「城下詩織」と検索をしてみた。
すると、あの詩織がヒットした。
健人はそのプロフィールを見た。
それには市長夫人とかは基本情報に載ってなく、出身高校、在住地、女性としか記されてなかったが、高校は詩織の出身校で、在住地は熊本市であった。
詩織に間違いなかった。
健人は詩織が消えてから、LINEで連絡が取れなかったので、何度かFacebookで検索したことがあったが、「佐野詩織」で検索していた。
その時はヒットしなかった。
今日は市長の妻であることを心得て「城下詩織」で検索したのであった。
健人は、やはり、詩織を憎んでいても好きには変わりがなかった。
ダメ元で「友達申請」をクリックして、スマホの電源を落として、眠ることにした。
その頃、詩織は久々にヘ○インの恍惚感に浸り、英一の裸体の上で、あの「悪夢の絶頂」を何度も何度も迎えていた。
「英一さん、凄い~、凄い~、イク、イク、イク、また、イッチャゥ~~」と喘ぎ続けていた。
覚せい剤とは違いヘ○インは、性行為なくしても多幸感を得られるため、英一の粗チンでも関係なかった。
そして、詩織は英一にお願いするのであった。
詩織は四つん這いになり、自ら手首に手錠を嵌め、英一に目隠しをしてもらい、尻を突き上げ、
「バックから突いてぇ~、子宮に届くように、精子をぶっかけてぇ~」と言い、尻をヒクヒクと振るわせるのであった。
英一もヘ○インを打っていたので、何回射精しても陰茎は立ち続けていた。
「よし、アナルと一緒に突きまくってやる!」と言うと、猿のように腰を振り続け、最後はこれ以上陰茎が入らないぐらい膣の中に押し込み、精液を詩織の膣深くぶちまけた。
詩織は子宮がシャワーを浴びるように感じ、朦朧とし、幻覚が見え出した。
その幻覚は英一ではなく、健人との懐かしいセックスの映像であった。
鏡に詩織をバックから、眼を瞑りながら愛の行為を無言で行う健人の逞しい裸体が映っていたのだ。
詩織は朦朧としながらも、今まで「悪魔の絶頂」で感じまくっていた相手は、実は健人であったと感じたのだ。
英一さんと叫ぶ言葉と違い、詩織は心の中で、
「健ちゃん、愛してる、健ちゃん、愛してる」と叫んでいることに気づいたのであった。
次の朝、英一を送り出した詩織は、徐にスマホを見るとFacebookに通知が来ていた。
それを開いた詩織は、思わず口に手を当て、驚きの声を塞いだ。
健人からの友達申請が来ていたのだ。
何というスピリチュアルな現象であろうか!
昨夜の幻覚が健人に通じたのか!
詩織は迷うことなく、承認ボタンをクリックした。
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