第12話 翼を引き裂かれた堕天使は悪魔となる

 詩織は、今、やっと後悔していた。


 英一に無理矢理に拉致され、監禁され、MDMA、ヘ○インにより錯乱状態され、変質的なセック依存症に調教されたとしても、英一から離れるチャンスは全くなかったとは言い難い。


 それなのに、あの「悪魔の絶頂」の快楽を求めようとし、英一に依存してしまう、寄生虫のように、この傲慢な性欲がそうさせる!


 それは、もしかすると、私が持って生まれた天性的なものであり、それを英一が覚醒してくれたのではないか!

 

 逆に、どうして、健人は私を救いに来なかったのか?

 福岡から熊本まで近いではないか?

 直ぐ来れるのに、電話やLINEなど非人間的な手段を取るだけで!

 たった数ヶ月で私を諦めてしまったではないか!


 それに比べて、英一は、私が何度も求愛を無視しても、手段はともあれ、私を手に入れた!

 その行動力、そして、決して私を離そうとしない拘束力!

 そう思うと、健人より英一の方が私を愛してくれてるのではないか!

 

 そもそも、私は健人のような普通の人間と合うはずがないのだ!あんな平凡な恋物語など!


 私の本質的な人格は強欲であり、それを満たしてくれる財産、手段を選ばない行動力、強引なまでの拘束力、変質的なセックス、幻覚的な薬物、市長という肩書き、御曹司という財力!


 そう、英一は私の欲するものを全て賄ってくれる唯一無二の存在ではないか!


 このように、詩織の気持ちは、過去の平凡な健人との愛に悔悟の念を抱き、現実を正当化しようとしていた。


 正に、堕天使の翼を引き裂かれ、自身の罪として背中残る傷、そして、捥がれる前に生えていた天使の翼を後悔する魔女のように。


 そして、詩織は英一の子を持ちたいと願うようになっていった。


 それは、魔王の花嫁「リリス」の如く。


 「リリス」とは、キリスト教では、アダムと共に地上に最初に現れ、同じ物質から創造されたが、その性欲の強さ故、アダムの元を飛び出し、その後、悪魔たちを相手に性交を繰り返し、サタンの花嫁になった女の悪魔である。


 また、「リリス」は、生まれたての赤子をさらい、睡眠中の男性のもとに現れて性交し、そうして悪魔の子を産むという。


 そして、魔王の花嫁「リリス」と悪魔との間に生まれた無数の子供たちが、聖職者を誘惑する美しい悪魔『リリム』だともいわれる。


 英一の強引なまでの求愛を真の愛と思い至った詩織は、その夜から、一変した。


 あれだけ、英一からの夜の営みを拒絶していたのが嘘のように…。


 詩織は、黒いレースの下着、陰部の箇所だけレースの無い淫靡な下着だけを履き、

 英一が横たわる寝室のベットに妖艶に腰をくねりながら現れ、

 ベットに上がると、黒い艶のある黒髪を靡かせ、

 まるで娼婦のように英一の唇を指でそっとなぞり、

 濃厚なキス、唾液をたっぷり英一の口に含ませ舌を練っとりと絡ませる。


 長い口付けの後は、英一を焦らすように英一の乳首を唇と指で弄び、腹を舌で陰茎に伝えるようになぞり、

 そして、うっとりとした瞳で英一を見遣り、英一の陰茎を宝物であるかのように優しく掌で含み撫で、

 愛しいそうに亀頭にキスを繰り返し、

 やっと、その陰茎を口に含ませ、美味しそうにしゃぶり、

 陰茎の裏筋から肛門まで舌を這わせ、

 また、口に陰茎を咥え込むと、貪るようにフェラチオを行った。


 そして、英一に跨り、自分の下の口に陰茎を咥え込むと、

 ゆっくりと上下に腰を動かし、段々と前後左右に円を書くように腰を回し、

 歓喜の喘ぎ声を上げ、更に中腰となり、自分でその結合部分を除きながら、

 その丸い桃尻を英一の腰に、まるで手毬が弾むように叩きつけるのであった。


 英一が堪らず、射精をすると、


 「奥に!奥に!子宮にひっかけてぇ~」と


 叫びながら、膣の内部で英一の逝き果てた陰茎を乳搾りのように締め付けるのであった。


 セックスの後、英一は詩織の横で煙草を吸いながらこう言った。


 「今夜はどうしたんだ?あんなに嫌がっていたのに?」と


 詩織は英一の方に身体を寄せ、甘えるような猫撫で声でこう言うのであった。


 「私、英一さんの赤ちゃんが欲しい。」と


 英一は、ニヤリと笑いながら言った。


 「あれも欲しいんだろ~」と


 詩織は目を光らせ、英一の萎えた陰茎を摩りながら、こう言った。


 「赤ちゃん作るには、もっと頑張って貰わないとねぇ~、あれを飲んだ、英一さん、凄いから~、

 私、ヘ○インというより、あの凄い英一さんが欲しいの~」と


 英一は、にやけ、詩織の乱れた黒髪を解く様に優しく撫でながら、こう言った。


 「俺もまた、お前の狂乱が見たいよ。」と


 英一は市長となり初めて有給休暇を取り、長崎県五島市福江町に向かった。


 熊本駅から、新幹線に乗り鳥栖駅から特急列車に乗り2時間かけて長崎駅に着き、長崎港から高速船ジェットホイルに乗船し、1時間をかけて福江港に到着した。


 船着場には北野が迎えに来ていた。


 英一が船から降り立ち、北野に手を上げて挨拶すると、北野は深々と頭を下げ、英一に近寄り英一のバックを受け取るとこう言った。


 「英一坊っちゃん、お久しぶりです。ご立派になられて!市長ですか!私も本当に嬉しいです!」と


 英一は北野の肩を抱き寄せ、こう言った。


 「俺にはお前が一番の味方だよ!」と


 北野は現在、福江漁港で漁師をしているが、地元の漁師との付き合いはなく、殆ど漁に出ることはなく自宅兼事務所みたいな家屋でひっそりと暮らしていた。


 北野は英一を事務所に案内する途中、五島列島の名称である鬼岳に案内した。


 鬼岳は標高312mの小高い山であるが、東シナ海を一望できる絶景として、五島市の人気スポットであった。


 2人は鬼岳の展望台から東シナ海を見遣り、まず、北野が英一にこう問うた。


 「英一坊っちゃん、政令指定都市の市長が、私なんかに何の用事で会いに来られたのですか?」と


 英一は北野に言った。


 「お前にしか頼めない要件が有ってね」と


 北野は何かを悟り、東シナ海の領域について説明を始めた。


 「五島列島は、いにしえより、日本と大陸を結ぶ「海の道」の要衝であり、現在でも、東シナ海における日本の領海や排他的経済水域(EEZ)の基点である。

 その分、中国や韓国との海洋紛争を多い。

 そのため、海上保安庁の警備も厳しい。」と


 英一は北野の説明を途中で遮り、こう聞いた。


 「お前は一体、何が言いたいのか?」と


 北野はニヤッと笑い英一にこう言った。


 「英一坊っちゃんが、城下先生に頼らず、私の所に来るのには、理由は一つしかないじゃないですか!

 あれが無くなったんでしょ?」と


 英一もニヤリと笑い、こう言った。


 「まだ、中国と付き合ってるか?」と


 北野は言った。


 「中国とは今でも続いてます。」と


 そして、北野はさっきの東シナ海の話を続けた。


 「この福江港から高速船で3時間で着く男女群島という島々があるんですけどね。

  そして、そこから、国境(海域)まで、僅か60kmしかなく、2時間で海域を越えることができるんですよ。」と

 

 英一は北野に確認した。


 「国境を越えれば、海上保安庁のマークも無いと言うことだな」と


 北野は言った。


 「行きはヨイヨイ帰りはコワイってね、問題は貰った後なんですよ。」と


 英一は確かにそうだと思った。


 北野は言った。


 「海上保安庁が出ない日が有りましてね。

 海がシケると漁船も少ないので、その日を狙って行ってますよ!」と


 英一は「なるほど」と頷いた。


 すると、北野が念押しするようにこう言った。


 「ただ、ヘマをしたら先生に、また、ご迷惑をお掛けすることになります。

 ここは、私の指示に従って頂きます。」と


 英一は頷きながら、


 「分かってるよ!沢山は要らないんだ!

  子供を作るためにいるだけさ。」と


 それを聞いた北野は大笑いしながら、


 「流石、英一坊っちゃん、相変わらずですねぇ~」と言った。


 こうして、英一は、月に一度は有給休暇を取得し、北野に会いに出かけるようになる。


 人に聞かれれば、男女群島に磯釣りに行くと答えるようにし、着々と「ヘ○イン」を手に入れる計画を練っていくのであった。

 


 その頃、愛媛の港町の居酒屋で健人は「悪い酒」を飲んでいた。


 店のカウンターの1番隅っこに陣取り、隣に誰も座るなと言うような目付きをし、ひたすら焼酎と煙草を交互に飲み続けていた。


 健人は、また、東京のアパートにいた頃と同じように、過去を遡っていた。

 どうしようもないことと分かっていながら、何度も何度も同じことを考え続けていた。


 「俺が一体何をしたと言うのか!

 何も悪いことしてないではないか!

 勝手に消えて行きやがって!

 一言も理由もなく、俺から逃げるように消えやがって。

 その挙句、あんな御曹司のボンボン、高校時代の同級生、市長様と結婚しやがって!

 俺は福岡の捨て駒か!間男か!

 人を舐めやがって!

 俺から会いに行けるはずないだろう!

 何度も何度も電話したのに、一度足りとも出ようともせずに、どの面下げて会いに行けばいいんだよ!

 あの女に混ぜくられ、仕事も失い、うつ病になっちまって!

 俺が爺ちゃんとこ行ったから、爺ちゃん、張り切って、責任感じちゃって、行きたくもない猟に行って猪に殺されて!

 くそぉ!

 人を舐めやがって!

 くそぉ!」と


 左手に握るグラスが今にも割れそうになるぐらい強く握り締め、焼酎を生のままかっ喰らい、そして、目を瞑り、また、恨み節を唱えるのであった。


 堕天使ルシファーがサタンになり、堕天使リリスのデビルに憎悪、「怒り」を激らせていた。


 魔王は着々と悪魔の液体を手に入れようとしているのに、そんなことは全く知らず、自ら堕落の底に堕ちようとしていた…。

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