9話 彼と凪の決闘 後編
凪との決闘は、巨大な爆音とともに始まった。
俺の目の前に巨大な光が現れる。
俺はそれを魔術で受けきるのは不可能だと判断し、すぐに回避行動に移る。
だが、その光は一つではなかった。無数の光の線がこちらに向かってくる。
「嘘だろっ!」
俺は驚きながらも、なんとかそれを紙一重で避けていく。
この攻撃は魔術とはいえない。魔術とは自身の魔力に属性を付与して、様々な力を行使するものである。
この光には属性が付与されていない、おそらく、あれはただ自身の魔力を外に出してぶつけているだけなのだろう。
普通の魔術師では、そんな魔力の使い方は無駄でしかない。
なぜなら、その魔力を使って属性を用いた魔術を使った方が効率的であるからだ。
しかし『OVER』である凪によって放たれる魔力の光は、それだけで絶対的な火力をもつ。
一つ一つに込められた魔力の量、密度は計り知れるものではなかった。
あの攻撃の前には俺の少ない魔力で作りあげた魔術はすべて飲み込まれ、かき消されてしまうだろう。
(なるほど、これはやりにくい・・・)
属性を付与した魔術同士がぶつかるとき、決着は、込められた魔力よりもその魔術の持つ属性の特性が優先される。
だからこそ、彼の効率化された魔術でも、凛の魔術に対抗できたのだ。
つまり、ただの魔力の塊である凪の攻撃は橘誠人の天敵とも呼べる存在となっていた。
(こんな無茶苦茶な攻撃、すぐ魔力切れになってもおかしくは―――)
そう思った瞬間だった。再び無数の光の線がこちらに向かってきた。
今度はさっきよりも数が多い。つまりさっきまでの攻撃は彼女にとって全力ではないということだ。
そしてそれが意味するのは、彼女がまだまだ余力を残しているということである。
(まずいな、このままじゃジリ貧だ。)
俺はそう思いながら必死になって避け続ける。
今のところはまだ直撃はしていないが、それも時間の問題だ。
だからこそ、俺は別の方法をとることにする。
***
「さすがですね、誠人先輩。」
私の攻撃が簡単に当たるわけないと思ってはいたが、実際にこれだけの量の攻撃を
すべて避けられてしまうと、こちらは驚嘆するしかない。
誠人先輩の強さは
あの身のこなし、反応速度、身体能力の高さは異常と言ってもいいレベルだ。
魔術師において、身体能力はあまり重要視されないらしい。
身体強化を行えば、それで十分だし、その身体強化もあくまで補助的なものであり、本命はあくまで魔術でしかないからだそうだ。
けど、彼の動きを見れば、それが違うのだと分かる。私の攻撃を魔術一つ使わず避けていく姿は、彼の身体能力の恐ろしさを証明していた。
だが、それでも私は諦めずに攻撃を仕掛け続けた。今の私にできる攻撃はこれくらいしかなく、これが誠人先輩に見せられる私のすべてであるからだ。
誠人先輩は、回避に専念しているように見える。
その中で私の攻撃をどうにかする方法を模索しているのだと思い、
それをさせまいと、私は次なる攻撃を仕掛けようとする。
だがその時だった。先輩の姿が一瞬消え、次の瞬間、先輩が10人ほどに分身していたのだ。
(なっ!?)
突然の出来事に、私は思わず思考を停止させてしまった。
その間に先輩の分身たちが私に近づいてくる。
私は、すぐに気を切り替えて、また攻撃を開始する。
いくら分身したって、私の魔力なら、攻撃が足りないなんてことはない。
私は攻撃を繰り返すと、分身の一体に直撃すると、霧散していく。
(よし!当たる!!)
それに、分身では、さっきみたいな素早い回避はできないのだと分かった。
私は、さらに攻撃の密度を増やしていく。
すべての先輩の分身を倒したと確信した時、私はあることに気づく。
(この中に先輩がいない・・・?)
そんな疑問を抱いた直後だった。突如背後から強い衝撃を受ける。
「きゃあ!!」
どうやらいつの間にか本物の先輩は私の後ろを取っていたようだった
私が地面に着地し体勢を立て直すと、目の前にはすでに先輩が立っていた。
そしてその右手は虹色に光っていた。
私はそれに見惚れてしまい、ただ立ち尽くしてしまっていた―――。
***
俺の作戦はシンプルな物だった。
自身の姿を自然と一体化させる自然の上級魔術『
まず姿を消す。
これだけでは魔力で居場所がばれる為、自身の分身を作る水の上級魔術『
そして凪が分身に対処している間に光の移動上級魔術『
最後は、奥の手以外では最大火力である火と闇の複合上級魔術『
結果としては、最後以外はうまくいったと言えるだろう。
『
魔力の量が多い人ほど魔術に対しての耐性は上がる。『OVER』である彼女ならばその防御力も桁違いなのだ。
しかし、そんなことは想定内である。そのために奥の
「『
俺は虹色の右手を凪にぶつける。
彼女はそれに抵抗する様子もなく、静かに受け入れていた。
そのまま凪はその場に倒れこむ。
すると藤堂先生が決着がついたと判断したのか、声を挙げる。
「勝者、橘誠人!」
すると凛が心配したように凪に駆け寄る。
「凪、大丈夫?」
凪はゆっくりと体を起こし、立ち上がる。
そして俺の方を見ると、笑顔でこういった。
「完敗です。やっぱり誠人先輩はすごいですね。」
俺は、そんな彼女に苦笑いしながら、こう返すしかなかった。
「お前も大概だよ。」
そうして俺たちはお互いを認め合い、握手を交わすのだった。
***
その後、凪を休ませるために学校に戻ったが、
俺は姉妹だけで話せるようにと、藤堂先生と一緒に別の部屋で待つことになった。
「どうだった、凪との決闘は?」
先生はお茶を飲みながら質問をする。
「さすがOVERって感じですね、魔力だけであれだけできるなんて。
けど、問題なく勝てましたよ。最初の一歩にしては簡単すぎたんじゃないですか。」
俺は冗談交じりにそういうと、先生は真剣な顔で言葉を返す。
「君もわかっているんじゃないか?
OVER相手では君の魔術は通用しないという事に。
実際、君の魔術は彼女にはほとんど効かず、君の切り札である『破界の虹』
を当てた後も、彼女はしゃべる余裕があった。」
痛いところである。その通りであり、『地獄業火』は間違いなく直撃したはずなのに、凪にダメージを負った様子もなかった。
俺の奥の手の『破界の虹』で勝つことはできたが、凪は凛の時とは違い、歩いたり、しゃべる力が残っていた。
「決闘前に言ったように、凪は魔術師としては素人でしかない。彼女相手にこの有様では、君の目的である、珠視炎華に勝つなんてことは不可能だ。」
確かに、今回の決闘で改めて理解することができた。
今の俺では珠視炎華にリベンジするには力があまりにも足りない。
だからこそ、俺は強くなる必要がある。今よりもずっと強く。
俺は決意を固めると、先生が口を開く。
「だが安心したまえ。そのために君は私の所に来たんだろう。
遅くはなったが、君に伝説の指導者と呼ばれた私の力を見せてあげよう。
明日からよろしく頼むぞ。橘誠人くん。」
「・・・はい!よろしくお願いします!」
こうして、俺への藤堂紫苑による指導がついに始まったのだ―――、
「けど、久遠凛と凪の指導もよろしく頼むよ。凪は私が指導するつもりだったけど、師匠は君らしいからね。」
・・・俺はその言葉を聞いて、教える相手が増えることを今更ながら実感し、冷や汗を流す。
そして、藤堂先生は少し悪戯っぽく笑うのだった。
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