2話 彼と凛の出会い 後編
「ふむ、では改めて説明しよう。まず、彼女は私の弟子である久遠凛。
君と同じ高校3年生だ。
私は今まで、教師として働きながら、久遠にのみ指導を行っていた。
そしてこれからは私が橘くんに指導を行い、久遠への指導は橘君に任せたいと思っている。」
藤堂紫苑は腕を組みながら俺の方を見て言う。
「ちょっと待ってくれ! そんな条件、手紙には書いてなかったぞ。」
俺が反論すると彼女は首を横に振る。
「いや、手紙にはこう書いたはずさ。指導のやり方は私に一任すると。」
俺は彼女の手紙の内容を思い出し、
確かにそう書かれてあったが、まさかこのようなことになるとは思ってもいなかった。
そもそも俺が指導する側になるなんて予想外のもほどがある。
そんなやり取りの様子を見ていた久遠さんがイラつきを隠さぬまま口を開く。
「二人で何の話をしてるか知りませんが、私は先生以外から指導を受ける気はありません………
それに、失礼ですが、魔術師未満の魔力量しかない彼が私に何かを教えられるものがあるとは到底思えません。」
どうやら久遠さんは相当怒っているらしい。
無理もない話だ。尊敬する師から突然別の人の指導を受けろと言われたのだから。
しかも魔力量が魔術師に満たない卑護者である他人の人間にだ。
彼女は更に話を続ける。
「私はまだまだ若輩者です。先生から教わりたいことがたくさんあります。
それなのに急に他の人に指導を任せるなんて、いったいどういうつもりなんですか…」
彼女の言葉から悔しさとも悲しみとも取れる感情が読み取れる。
そんな彼女に対して、藤堂紫苑は真剣な眼差しで話し出す。
「久遠の言いたいことも分かるが、私はこの3年間の間に私の教えられるすべてを教えたつもりだよ。だからこそ橘君を呼んだのさ。
彼の力を学ぶことができれば、久遠をさらに成長させることができると思ったからね。それにだ、これは
彼女の説明に納得したのか、それとも『凪』という言葉を出されたからか分からないが、
「……分かりました。彼の指導を受ければいいんですね。」
渋々とではあるが、了承したようだ。
しかし、完全に了承したわけではなく、
「ですが、私は彼の力をまだ認めていません。彼が私に指導できるほどの力を持つか、決闘で確かめさせてください。」
そう言って、彼女は俺に目を向けてきた。
魔術師同士が対立し、戦うことになった時、特殊な資格を持った指導官の管理の元で正式なルールで行われなければならない。それこそが『決闘』である。
それを聞いた紫苑は頬を少し上げる。そして俺の方に向き、話しかける。
「君もそれでいいかい?」
俺は一瞬考える。彼女は納得したようだが、まだ俺は藤堂紫苑の指導を受けることを決めてない、
そもそも俺は彼女に呼ばれた立場だ。藤堂紫苑の説明からすると、この久遠凛への指導が本命だと考えれるが、俺にはここで断る選択肢もあるのだ。だが―――
(俺には俺の目的があってここに来たんだ。)
というよりもすでにこんな片田舎の高校に転校してる時点で後戻りなどできはしない。
俺ははっきりと答えを口にする。
「分かった、その決闘受けてやるよ。」
俺の返事を聞き、紫苑は満足そうな顔をしてうなずく。
「よし、これで決まりだね。なら早速始めようじゃないか。タイミングの良いことに今日は始業式。あと一時間もすれば他の生徒も帰るだろう。場所はあそこを使えばいい。」
そう言って窓の外に見える大きな森を指差す。
そこはこの学校の敷地の中でも奥まったところにある場所で、普段は誰も近寄らない場所だそうだ。
「じゃあ私は教師としての仕事を先に終わらせてくるよ。二人とも1時間後に森の入り口に集合するように。」
そう言って藤堂先生は教室から出ていった。
部屋で二人きりになると、久遠さんがこちらに近づいてくる。
身長差があるため、自然と上目遣いになり、彼女の整った顔立ちがさらに強調される。その蒼みがかった瞳からは強い意志を感じられた。
そして彼女は口を開く。
「先生の手前ああ言いましたけど、あなたを認めるつもりはありません。
忠告しておきます。大怪我を負いたくなかったらそのまま帰ることをお勧めします。」
それだけ言うと彼女は踵を返し、出口に向かって歩き出す。
そのまま帰しても良かったが、言われっぱなしも癪に障る。
「お前こそ、負けても文句言うんじゃねえぞ。」
俺の言葉を聞いた彼女は振り返り、不敵な笑みを浮かべながら一言だけ口にする。
「それはこっちのセリフです。」
そして彼女は教室を出ていこうとして―――扉に頭をぶつける。
どうやら扉の手前で振り返って足を止めたせいで、そのまま扉を開けずに顔を突き出してしまったようだ。
俺が話しかけたのが原因であるが……なんというか、締まらない別れになってしまった。
彼女は顔を赤くさせるが、何事もなかったかように扉を開けて出ていった。
藤堂紫苑の弟子である久遠凛。
少し抜けている所もあるようだが、彼女の強さは、立ち振る舞い、あふれ出る魔力の量を見れば、一目瞭然であった。
おそらく、A級魔術師と遜色のない力を持つ魔術師であり、十回戦えば十回とも負ける。それほどのまでに彼女との力の差は歴然である。
(だけど、彼女は俺の
俺を卑護者と呼ばなかったことからもそれが分かる。
ならば俺が負ける通りはない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます