その2-02
* * *
ぼんやりと目を開けた先の天井が見慣れなくて、アイラはその天井を見上げたまま、パタパタと瞬きを繰り返した。
サッと横を向くと、全く見知らぬ部屋にアイラがいて、おまけに、記憶にないベッドに自分が寝ているのである。
服を確かめてみても、制服を着たままであるので、また貧血で倒れたのは間違いなかったが、それでも、今いる場所が全くの未知の場所だけに、アイラは気だるげに起き上がり出した。
部屋の内装も全く見知っていないものばかりだ。特別、物が置いてあるようにも見えなくて、ただ、家具が揃っている感じの室内は、ゲストルームなのだろうか?
ドアの向こうで、微かにだが人の話し声がする。
アイラはベッドの掛けを外し、そのままベッドから降りて立ち上がった。
「げぇ、最悪……、今日。もう、やだぁ……――」
視界がふらつくのはアイラの気のせいではないだろう。
ここしばらくの寝不足に続いて、最悪の生理が重なって、おまけに、ヤスキがコキ使うだけコキ使うものだから、ストレスが生理に重なったのは疑いようもなかった。
「ヤスキめ、覚えてろ。絶対に、倍額払わせてやるんだから」
まずは、一体、ここがどこなのか、なぜアイラが見知らぬ場所にいるのかを確認しなくてはいけない。ブレザーがないので、携帯でヤスキに連絡することもできない。
仕方なく、アイラはそのドアを開けて部屋の向こうに歩き出した。
話し声が聞こえる方に足を進めていくと、すぐに居間らしき場所が開けて見えて、アイラはそこに真っ直ぐに進んで行った。
アイラの気配を感じて、そこで一瞬、話し声がピタッと途絶えた。
無表情に居間に進んでくるアイラの前に、まだ制服を着ている少年――青年――どっちでも構わないのだが――が数人その場にいたのだった。
キッチンのカウンターに二人が座っていて、その前にノートらしきものが広げられている。少し視線を動かしたそっちでは、また二人がソファーに座っていた。そして、その前のテーブルの上にもノートらしきものが広げられている。
アイラは口を開かず、その光景を黙って観察していた。
その場の四人もアイラを見返している。
「―――あんた、大丈夫なの?」
ソファーに座っている、かわいらしい少年がじぃっとその瞳でアイラを凝視しているようだった。
アイラはその少年の方に少しだけ向いたが、アイラもまたじぃっとその少年を観察している。
シーン、と沈黙だけが降りていた。
その沈黙に、じぃっとアイラを凝視している瞳が、ちらっとだけ横に移された。
その視線の先の少年――青年の方が正しいだろうが――がアイラを見返しながら、スッと立ち上がった。
「君、大丈夫?」
一応、アイラの前にゆっくりと歩いてくる青年は、実際に立ってみると、日本人にしてはかなり背の高い青年だった。
そこに座っている少年と違って、少年らしくなく、少年――とも呼べる雰囲気というか風格でもなく、なんだか微妙に落ち着いた様相が、学生服を着ている高校生と言った感じではなかった。
「君、大丈夫?」
アイラの目の前で、その青年が少し首を倒すようにした。
アイラはまた口を開かないで、じぃっとその青年を黙って見上げている。
それで、相手側もじぃっとアイラを真っ直ぐに見返してくる。
互いに目もそらさずに、じぃっと観察している様子を見て、カウンターに座っている二人がちょっと顔を見合わせた。
そして、またアイラの方に向き直って、
「君、大丈夫? 倒れたんだろう? 気分は大分良くなったかな」
それで、アイラの視線がスッとカウンターに座っている二人に向けられた。
この顔は見覚えがあった。
生徒会長の
アイラが気を失っている間に、かつぎこまれたのか、連れ込まれたのか――その場に、生徒会長と副会長が揃い、目をつけられるなよ――とのきつい忠告が、この場で全くの無駄になってしまったことに気づいてしまい、アイラは無意識にガックリと肩を下ろしてしまった。
(生徒会長と副会長だって。生徒会って、全校生徒を管理するやつじゃない)
あぁあ、と聞こえぬ溜め息をこぼして、アイラは、さてどうしようか、と次の手を考えてみる。
まさか、この場で無視を続けてさっさと退散――など到底、不可能になってくる。
「――ここ、どこ? あなた達、誰?」
初めて口を開いたアイラに、アイラの目の前の青年がまだじぃっとアイラを見返していた。
「突然、男ばっかりがいたら驚くだろうけど、俺達は危ないものじゃないよ。俺は生徒会長の大曽根司、ね。そして、こっちが副会長の
簡単な説明を受けて、アイラの視線がまた藤波という青年に戻っていく。
「ここ――どこです?」
「六本木」
アイラは顔には出さずに、げげぇ、と胸内で唸っていた。
どうやってここにたどり着いたのかは記憶にないが、まさかアイラをかついで電車に乗ったはずもないので、そうなると暁星高校からタクシーで六本木までやってきてしまったことになる。また、知らず溜め息がこぼれそうだった。
「あの――トイレ、借りたいんだけど」
まだじぃっとアイラを見下ろしている廉が、スッと向きをかえた。
「こっちだよ」
「どうも」
廉に案内されて向こう側のトイレに向かったアイラとは反対に、その場に残っている三人は未だにアイラの背中をじぃっと眺めていた。
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