住人を追い払う家
仲仁へび(旧:離久)
第1話
新しく引っ越してきた家は、どこか陰鬱な空気をまとっていた。
中古の家だから、購入を決める前に一度見に来た事がある。
けれどその時は、そんな風ではなかった。普通の家のように見えたのに。
目の前の家からは、言葉に表しがたい、嫌な空気を感じた。
首をかしげつつも、まさかここでやめるなんて言うわけにもいかない。
お金も手間もかかったんだから。
それに、新生活の基盤が得られないと困る。
だから、気にしつつも、さっさと引越の家具や荷物を運びこんだ。
一人暮らしだから、大した量がないのですぐに終わった。
ゆくゆくは家族を増やして、家が狭くなったなんて会話をしたいものだが、それは当分先になりそうだ。
数日後から、新天地での仕事がまっている。
そこで給料を得て、生活を安定させるのが先だろう。
荷物を運び入れて、荷をほどいて、生活環境をととのえた。
そして、新しい生活が始まった。
しかし、家の中の陰鬱な空気が気になった。
しかも、どこにいても視線を感じるようになってなおさら。
日にちが経つごとに、変化は濃い。
知らない土地だというのに、散歩して気分転換している時の方がよほど気が楽だった。
もしやこの家には、何か悪い霊でも憑いているのではないだろうか。
そう思い、その手の人間に相談のメールやら手紙やらをよこした。
おためしとか無料とかで、お払い師なるものや除霊やさんなるものがやってきたが、彼等は全員首をふって帰っていった。
それならただの気のせいだという事になる。
腑に落ちない思いをしつつも、そのうち慣れると結論付けた。
新しい生活が始まって、疲れているからそう感じるだけだろうと思うことにした。
しかし、その日の夜。
その家が、ごうごうと音を立てた。
大きくゆれて、今にも崩れそうだった。
俺は慌てて外に出たが、外は揺れていなかった。
一体なんだったのかと首をかしげて家の中にもどり、眠りにつくが、数時間後にはまたごうごうと音をたてはじめる。
俺は瞬く間に不眠に悩まされた。
そうなると、仕事が手につかない。
華々しい新生活なんてものは、あるはずもなく。
疲れ果て、やつれるばかりの毎日が待っていた。
やがて、俺は引っ越しを決意した。
その家から去る事に決めたのだった。
最後の日、全ての荷物を出して、その家の扉を閉める時、一瞬だけ何か黒い影のようなものが見えた気がした。
それは手をひらひらといっていた。
まるでしっしと何かを追い払うかのようだった。
後から聞いた話によると、その家の前の住人は家を手放す事を散々しぶったというらしい。
けれど、ある日突然反対しなくなったため、家は売りに出された。
その住人の心情に、身に、どんな変化があったのかは誰も知らない。
住人を追い払う家 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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