隣の席のあの子は髪が長いのに理由があった

猫の集会

隣の席のあの子

 オレは中学一年生。

 新しい制服に慣れず肩が凝る。

 あー、早く帰って制服脱ぎてぇ。

 

「よーし、プリント配るぞー」

 先生がプリントを配りだした。

 よし!コレをもらえばもう解散‼︎

 やっと解放される。

「あれ?一枚足りないか、ごめん佐川。先生

 コピーしてくるから少し待っててくれ。」

 うわー…マジかよ。

 やっと帰れると思ったのになー。

 

 トントン。

 隣の席の女子が話しかけてきた。

 佐藤さんだ。

「このプリントどうぞ。私先生待ってるから

 先帰りなよ。調子悪いんでしょ?」

 にっこりしながらプリントを差し出してき

 た。

 あー…

 せっかくだし、ならそうしよっと。

「マジ?わりーな。サンキュー」

 オレはその子からプリントを受け取ってさ

 っさと教室を出た。

 あー、やっと帰れる。

 家に帰ってプリントを見ると…。

 えっ。

 プリントの裏になんか描いてある。

 猫の絵…

 しかもまた明日ねって吹き出しまでついて

 んじゃん。

 これは、オレに向かって描いたのか?

 変な奴

 

「おはよー」

 隣の席の変な奴は、みんなにニコニコしな

 がら教室に入って来た。

 そしてオレにも

「おはよー。」

 なんて天使みたいな笑顔で挨拶してきた。

 なんだ…

 こいつ

 

 ことある事に気さくに話しかけてくる隣り

 の変な奴。

 きっと暇なんだな。

 しっかし隣の女は、いつもニコニコして毎

 朝おはようって挨拶してきやがる。

 おはよう運動よく続くな。

 ある意味感心する。

 

「えー、じゃあ今日は委員会決めるぞー。ま

 ず委員長決めるか。で、委員長司会な」

 先生がクラス全員を見渡して喋りだした。

「やりたい人⁉︎早いもん勝ち‼︎」

「はい‼︎」

「おぉう。いいねー。女子決定!後は、男子

 ?いないかー?」

 あれ?

 手になんか絡んでる?

 みょ〜ん。

 伸びる…

 ナゲーな。

「はい!佐川な。決定‼︎」

 えー‼︎

 手のボタンに絡んでるやつ伸ばしてただけ

 なんっすけどー…

 コレ髪の毛か…⁇

 しかもナゲー。

 

「お隣同士よろしくね」

 ニコッ。

 あっ、こいつよく見たらかわいいな。

 ってか‼︎

 てかさー‼︎

 髪の毛長すぎだろー。

 まさか…

 あの手に絡んでた長いやつこいつの髪の毛

 だったんじゃね⁉︎

「おまえ髪ナゲーな。」

「うん!」

 うんって…。

 なんでこいつはいつも楽しそうなんだよ。

 なんか悩みとかねーのか?

 ねーだろな。

 

 たまに放課後委員の集まりがある。

 佐藤さんは、積極的に発言したりしている。

 元気だなぁ。

 

 とある日

 オレは病院にやってきた。

 なぜかというと春休み自転車で転んで手を

 骨折したのだ。

 もう大丈夫だけど一応完治したかの確認を

 するらしい。

 あー、今日も混んでるなー…。

 ボーッと順番が来るまで椅子にもたれかか

 って座っていた。

 すると受付に髪の長い女性がやって来た。

 あ、佐藤さん。

 佐藤さんも春休み骨折でもしてたのかな?

 なわけないか。

 どうやらたくさんの荷物があるからお見舞

 いに来たようだな。

 

 その一ヶ月後

 オレは佐藤さんを二度見した。

 あの長く綺麗な髪をばっさり切って来たの

 だ。

「ずいぶんばっさりいったねー。」

「うん。なんか軽くなったけど、ちょっとだ

 け寒いかも」

 なんて言って笑った。

 

 それから二年生になり別々のクラスになっ

 た。

 相変わらず佐藤さんは、元気だ。

 なぜか佐藤さんを見るとつい目で追ってし

 まう自分がいた。

「あ、佐川くん!久しぶり。元気⁉︎」

「フッ、佐藤さんほどじゃないけど元気にや

 ってる。」

「そう!よかった。じゃあね!」

 佐藤さんは、元気に手を振ってくれた。

 

 そして三年生になりまた同じクラスになれ

 た。

 一年生の時ばっさり切ってから、また髪を

 伸ばしていたみたいでまた髪が長くなって

 いた。

 相変わらず綺麗な髪だ。

 出席番号がいつも近いためまた隣の席だ。

「また隣だね。よろしく」

「あぁ、うん。よろしく」

 悩みがなさそうな屈託のない笑顔。

 天使か⁉︎

 って思うくらいだ。

 

 だけど最近ふと佐藤さんをみるとどこか哀

 しげな表情をする。

「大丈夫か?」

「あ、うん!なんで?大丈夫だよ」

 慌てて笑顔を見せてくれた。

 無理してんな…。

 放課後相変わらず委員の仕事を積極的にや

 っている佐藤さん。

 忘れ物をして教室に戻ると佐藤さんが机に

 顔を伏せていた。

 完全に溶けてるだろ…。

 ガタッ。

 あー…。

 静かに物を取ろうとしてたのに、うっかり

 机にぶつかってしまった。

 とっさに顔を上げる佐藤さん。

 えっ…?

 泣いてる⁇

「あの…」

「あっ、私お手洗い行ってくる」

 佐藤さんは、慌てて教室を出て行った。

 どうしたんだろ…。

 理由は、わからないままだった。

 

 休日入院してるばあちゃんの着替えを両親

 の代わりに取りに行くことになった。

 ばあちゃんは、腰痛持ちで今入院している。

 でも、だいぶ良くなってきたみたいだ。

 部屋を出ると隣の病室の前の椅子にうなだ

 れるように座っている女性がいた。

 髪ナゲーな…。

 佐藤さんみたい。

 ん⁉︎佐藤さんじゃないか⁉︎

 オレは佐藤さんにお茶を買って渡した。

「えっなんで、なんで佐川くんがいるの?」

「隣の病室ばあちゃんが入院してんだ」

「すごい偶然だね。」

「うん。」

 オレは佐藤さんの隣りに腰を下ろした。

「大丈夫?」

「うん。大丈夫」

 また、笑顔の佐藤さん…。

「無理すんなよ。こんな時まで笑顔つくんな

 くてもいいよ。」

「えっ…」

 佐藤さんは、その言葉を聞いて一気に力が

 抜けたのかボロボロ涙をこぼしながら話を

 してくれた。

「お母さん…もう意識なくて…それで…この

 私の伸びた髪の毛で次どんなカツラ作ろう

 かなって笑って言ってたのに、もう意識な

 くて…だから…」

「うん。」

 オレはそっと佐藤さんの肩を抱き寄せた。

 しばらく二人して無言のまま時間が過ぎた。

 

 お父さんらしき人が来たのでオレはそのま

 ま帰宅した。

 それから一週間後佐藤さんは、髪を肩まで

 切り登校してきた。

「おはよっ、髪もう伸ばす必要ないから切っ

 ちゃった。」

 ニコッ。

「うん。似合ってんじゃん」

「ありがとう」

 佐藤さんは、母親を亡くしたばかりなのに

 相変わらずクラスのみんなに笑顔を振りま

 いていた。

 

 夕方母ちゃんが醤油買ってこいってうるさ

 いから、仕方なく買い物に来た。

 店を出ると、

「佐川くん!」

「あ、佐藤さん。」

「あのさ、この前病院でなんかごめんね。変

 なと見せちゃって。」

「ううん。それになにも変じゃないし」

「うん。」

「もう、オレの前じゃ無理に笑わなくていい

 ぞ。」

「うん!でももう大丈夫‼︎佐川くんが辛いと

 きそばにいてくれたから。だからこれから

 は、笑って過ごせるきがするの。」

「そっか。ならよかった」

 

 

 

 それから十年後

 あの子はオレの隣で今も笑っている。

 

 

 

 

 

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