第33話 家族旅行に行こう
待ちに待った、家族旅行に行く日が計画された休日の朝。
僕はいつものように、朝食の準備をするために早くから起きてキッチンに向かう。すると、一番に起きてきたのは次女の沙希姉さんだった。
いつも家を出る時間ギリギリまで寝ていて、起きるのが遅くなってしまう時などは部活動の朝練に遅れるということで、朝ごはんを抜く時もあるぐらいの沙希姉さん。だけど今日は、早く起きたようだ。
「おはよう、沙希姉さん」
「おーはーよう、優。朝ごはんは?」
目を擦りながら、キッチンを覗き込んで聞いてくる沙希姉さん。その格好は起きたばかりなのか、パジャマ姿。しかも、ボタンを掛け違えているせいで、胸元が大きく開いている。沙希姉さんは、そういう無防備な姿で居ることが多かった。
沙希姉さんは、そういう無防備な姿で居ることが多かった。恥ずかしすぎて最初は注意していた。最近は、注意しても直してくれないのを知った。だから、僕は彼女に言っていない。なるべく胸元などは見ないように、僕が視線をそらしていた。
「もう少しかかるから、先に顔を洗ってきてよ」
「ふぁ~い……、んっ!」
欠伸をしながら返事をして、背伸びをした沙希姉さんの胸がさらに強調された気がするけど、気づかないふりをする。顔を洗うためリビングから出ていく沙希姉さんを見送ると、次は母の香織さんと長女の春姉さんがやってきた。
「おはよう、香織さん。春姉さんも」
「あぁ、おはよう、優。今日も早いな」
「おはよう、ゆうくん。いつも朝食を作ってくれて、ありがとうね」
その2人は着替えた姿でリビングにやってきた。香織さんはスーツでキッチリと、春姉さんはいつものTシャツとジーパンでラフな格好だ。キッチリとラフで対照的な二人だった。
「いえいえ。朝ごはんが出来るまで、もう少し待ってて」
僕は、焼き魚をひっくり返しながら2人に言う。フライパンにある卵をかき混ぜてスクランブルエッグを作った。後は味噌汁だけなので、最後まで焦らずにゆっくりと完成させた。
「おや、沙希もう起きてきたのか。今日は早いな」
「おい、やめろよぉ」
リビングで春姉さんが、洗面から戻ってきた沙希姉さんにちょっかいを出している。そんな光景を見て微笑みつつ、完成した料理を食卓に運ぼうとすると三女の紗綾姉さんと、一番下の妹である葵が静かにリビングに入ってきた。
「おはよう、紗綾姉さん、葵」
「えぇ、おはよう。優」
「……おはよう」
いつものクールな雰囲気で返事をしてくれた紗綾姉さんに続いて、葵も朝の挨拶を返してくれた。
最近、ようやく葵も少しだけ話せるようになってきた。まだ、僕のことを怖がっている節があるけれど、いつか普通に接してくれるように仲良くなれるまで頑張りたいと思っている。
「料理、運ぶの手伝うわね」
「ありがとう、紗綾姉さん」
「ほら、皆も。自分の分は、自分で運びなさい」
『はーい』
それぞれが、自分の席に完成した朝食を運んでいく。全員が席についたところで、いただきますと言って食事を始めた。
いつも時間が合わなくて朝に全員が揃うことはなかったけれど、休日の家族旅行に出発前なので、今日は珍しく家族全員が揃っていた。
朝からいつもと違う賑わいのある食卓で和やかな雰囲気の中、家族団らんの時間を過ごせて、僕は幸せだと感じていた。
食事しながら皆で会話する。話題は、これから行く家族旅行について。
「どこ行くんだっけ?」
「温泉でしょ?」
「旅行といえば、やっぱり温泉だろう」
「温泉は定番だね」
「疲れが癒えそう」
「そうそう。もともと、今回の旅行は疲れを癒やすことが目的だから」
「でも、ちょっと遠いんじゃなかったかしら? 車で3時間はかかるとか……」
「ガイドブックによると、結構有名な老舗旅館らしいわよ」
「男性向けの施設も充実してるから、優も快適に過ごせるだろう」
「でも流石に、優が入れる大浴場は無いから。部屋にある家族用のお風呂じゃないと入れないけどね」
「部屋にあるのなら、私達も入れるかな」
「うんうん。家族風呂だったら、他人は入ってこられないから一緒に入っても問題はないよな。優、一緒に入ろう」
「あー、うん。それも良いね」
僕が風呂上がりに薄着だったり、露出の多い服装だと注意するのに。異性と一緒にお風呂に入るのは、抵抗がないのかな。まぁ、僕としては嬉しいけど。
家族だから、一緒にお風呂に入って疲れを癒やしたい。だから、皆と一緒にお風呂に入ろうと約束した。
朝食も終わって、食後のお茶を飲みながら一息ついた頃に、母から全員に声をかけられた。
「さて、そろそろ出発の準備をしましょうか」
「そうだな。荷物を車に積み込もう」
「はいよっ!」
「了解」
「分かった」
皆が動きだしたので、僕は食べ終わった食器を洗って片付ける。洗い物を終えてリビングに戻ると、準備を終えた皆が玄関前で待っていた。
「さあ行こうか、優」
「荷物は大丈夫?」
「うん、大丈夫だと思う。積み込み済み」
「それじゃあ、行こう」
荷物の積み込みは任せていたので、僕は車に乗り込むだけで問題なさそうだった。そして、待ちに待った家族旅行を出発した。
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