第18話 料理部復興のための作戦会議

 翌日、料理部の部長に料理の腕前を披露するため、まずは食材の買出しから始めることに。


 昼前に集合する約束だったので、その1時間前に学園の近所にある商店街に行って食材を買おうと予定していた。


 買出しには、部員の鏡桜かがみさくらさんにも手伝ってもらうことになった。あの話し合いの後に自己紹介をして、手伝いを申し出てくれたので。


「何か手伝えることがあれば、私に何でも言って下さい! 佐藤さんの要望を可能な限り叶えますッ!」

「えっと、それじゃあ」


 ということで、事前に準備をしようと思っていると彼女に話した。すると、食材を買うためのお金は部費から出してくれるという。


 予算は、なんと三万円もあるらしい。それだけの金額を提示されてしまうと、逆にどうしようか迷ってしまった。その金額の十分の一もあれば、僕が求める食材は全て買い揃えることが出来るだろうから。


 最初は遠慮して、なるべく安い金額で済ませようと考えていた。だが鏡さんから、その金額を遠慮なく使ってほしいと、お願いされた。部活動では使い時がないので、是非にと押し切られてしまう。




 そして翌日、桜さんと待ち合わせをして初めて訪れた商店街で買い物をしていく。出会った時に彼女から、桜さんと下の名前で呼んでほしいとお願いされたので、その通りにした。


 活気ある八百屋と肉屋でテンションが上がって、お店の人と会話を楽しんで色々と値切ってもらった。


 そして結局、食材を買うのに五千円ぐらいしか使わなかった。これでも、買い過ぎたと思うぐらいだけど。あの予算を使い切ることは不可能。


「重いですよね。持ちますよ」

「あ。どうも、ありがとうございます」


 大量に買い込んだ食材の入った袋を、桜さんが軽々と持ち上げる。そして、学園に到着するまで運んでくれた。僕が持った時、かなり重たかったんだけど。


 女性に荷物持ちをさせて、男性の僕が荷物を持たないのは格好がつかない、なんて思ってしまう。だが、どうやらこっちの世界では、この常識も逆らしい。桜さんが、女性が荷物を持つべきだと強引に持って行ってしまったため、僕は手ぶらで桜さんの後をついていくしかなかった。


 途中、少しトラブル有ったが、無事に解決して何事もなく。桜さんと色々他愛ない話をしながら、学園へ向かう。


 学園で、先に来ていた部長が待っていた。時刻は約束していた11時になる間近。今から調理を開始して、12時前には完成させる。昼食を兼ねて、僕の作った料理を審査してもらう予定だ。


 これから作る料理は肉じゃが。これを作るのは意外と簡単。だが、これを美味しく作ろうと思うと、かなり奥が深い。


 ご飯も一緒に出す予定なので、先にお米を浸水させておく。肉じゃがを完成させるのに合わせて、お米も炊き上げよう。


「え、えっと。これは、ちゃんと切れた?」

「うーん。まず包丁は、こうやって持って。こう切って」

「は、はい!」


「佐藤くん。これで、どうかな?」

「あっ! 煮込む前に、まずお肉と野菜を炒めましょう。絶対って訳ではないので、自由に作っても構わないのですが。この方が、料理の旨味が引き出せるので」

「そうなのか。難しいな」


 途中、調理を桜さんや部長に手伝ってもらった。だが二人とも、僕が想像していた以上に不器用だった。これは、他の部員に教えるのは気合を入れる必要があるかもと思った。


「凄いよ、佐藤くん。キミは本当に、料理が出来るようになったんだね」

「まだ、この料理が美味しく出来ているか分かりませんよ? 食べてみたら、マズイかもしれないです」

「いやいや、美味しそうなこの匂い。食べたら絶対に美味しいと思うよ」


 僕の調理する姿を観察して、部長は感心していた。審査する前に、部長から料理が出来ると認めてもらった。料理も美味しいだろうと思われている。まだ食べていないのに。


 予定していた時間を少し過ぎて、午後12時30分頃に料理が完成した。予定通りには出来ず、ちょっと反省する。


 作った料理を二人に食べてもらう。そして、審査してもらった。


「これ! とても美味しいです、佐藤さん!」

「あぁ。想像していた以上だ。とても美味しいよ。これは、お店で出されるレベルの料理だよ。しかも、高級店だろう。それぐらい美味しいよ」


 どちらも絶賛してくれた。特に部長は、こちらが赤面するぐらいの美辞麗句を並び立てて、コメントをくれた。


 前の世界では、手料理なんて他の人に振る舞う機会なんて無くて、ほとんど自分で食べるだけだっ。けれど今は、家族に毎日作る機会があって、とても喜びながら僕の手料理を食べてくれている。それが、かなり嬉しい。


 そして今、料理部という新たな場で手料理を食べてもらえる機会が出来た。彼らの好みに合うかどうか、不安だった。予想していたよりも、美味しいと言って残さずに全て食べてくれた。


 やはり、自分は料理するのが好きなんだ。作った料理を食べて、喜んでもらうのが何より幸せなんだと感じた。


 昼食が終わって、桜さんの入れてくれた紅茶で一息つく。しばらく、まったりした時間を過ごす。


 どれぐらい時間が経過しただろうか、部長がおもむろに話し始める。


「さて、佐藤くんが料理できることは、とても理解できました」

「そうです! 美味しくて、とても素晴らしい料理でしたッ!」


 今日は、昨日に比べて桜さんが積極的に僕達の会話の間に入ってくる。


 昨日は緊張して、少しこちらを警戒するような雰囲気があった。けれど、午前中に買い物を一緒にして回ったから、距離を縮めることが出来たようだ。


「ありがとうございます」

「これで、料理の先生役を佐藤くんに任せるとして。今後は部活動に参加をすれば、料理の方法を教えてもらえるということを、部員の皆に知らせる必要があるな」


 そんな部長の考えに、桜さんが意見を言う。


「さっきみたいに、佐藤さんの手料理を部員の皆にも一度食べてもらう、というのはどうでしょう?」

「彼女が言うように、部員に佐藤くんの手料理を食べてもらうのが、一番効果的だと思う。だけど、休日じゃあ部員が集まってもらうのは難しいか。全員が集まれるのは平日の夕方。学園の授業が終わってから、になるかな。ただ、放課後となると料理を作っている間、少しばかり待ってもらう必要がある。その間は、どうしようか?」


 皆に料理を振舞うためには、調理する時間も必要だろう。前日に来て、あらかじめ料理を作っておいても良い。だけど、できれば料理は出来立てを食べてもらいたい。作り置くというのなら、お菓子とかどうだろうか。それなら、時間を気にせずに振る舞うことが出来そう。


「じゃあ、何かお菓子を作っておいて、来てくれた部員達に食べてもらうというのはどうですか?」


 僕の提案に、驚く部長。


「きみ、お菓子も作れるのか!?」

「へっ? えーっと。そんなに本格的なのは無理ですが。趣味程度には、ぐらいですけれど」


 お菓子作りと聞いて、テンションが上がる部長。意外と甘い物好きなのかな。


「今、これから何か美味しいお菓子を作ってくれないか?」


 目を血走らせて、部長が聞いてくる。そう言われても、僕は困ってしまう。


「うーん、今からですか? 材料が無いので、ちょっと難しいですね」


 肉じゃがを作るための食料しか用意してなかった、なので、今から何かのお菓子を作るのは無理だった。こうなることを予想して、買っておけばよかったかな。部長は僕の答えを聞くと頭に両手を添えて頭を前後左右へとスウィングした。


「あああ……ッ!! 料理があれだけ上手いのなら、お菓子も期待できるのにな!  なんで過去の私は、お菓子を作れるかどうか聞かなかったのか。食後にはデザートをお願いするべきだったかな!」


 かなり悔しがっているようだった。桜さんが、その理由を教えてくれる。


「部長は、甘いものには目がないんですよ」

「へぇ、そうなんだ」


 やはり、予想した通り甘い物好きらしい。それも、相当好きなようだ。


「いや、すまない。あんなに取り乱してしまって。最近、甘いものを控えてるので、禁断症状が……」

「いえ、大丈夫です」


 あまり、深く突っ込まないでおこうと思った。


「それで、どんなお菓子を作るか案がある?」


 部長に聞かれて、どんなお菓子を作ればいいか考えてみる。定番といえば、やはりプリンかクッキー。少し手間をかけて、ケーキを作ってみるのもいいかもしれない。


 そういえば、桜さんの紅茶を見て思いつく。


「アップルパイなんて、どうでしょうか?」

「アップルパイ! それは、ナイスアイデアだな。ぜひ食べてみたい」




 その後、料理部復興のため部員を呼び戻すための方法を話し合ってから、その日は解散となった。

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