『不健康JKと吸血鬼ちゃん』
『吸血鬼少女は雷が嫌い』
「ひゃっ!?」
可愛らしい悲鳴を上げて、アイラは目を覚ました。
寝ぼけ眼でベッドサイドの時計を見ると、まだ午前2時だ。
もう一度寝ようと体を横たえると、窓の外が光り、雷鳴が轟いた。
「にゃっ!」
一度や二度どころではない。世界でも終わるのかという程の雷が、いまだに鳴り続けている。
こんな状況で寝れるわけがない。
「……こうなったら」
アイラは枕を抱えると、のっそりとベッドから出て、部屋を後にする。
向かう先はもちろん、同居する少女の部屋だ。
「クレハ~、起きてる……?」
「ん? あぁ。どうした?」
アイラがゆっくりと部屋に入ると、こんな時間にまだゲームをしているクレハが顔を向けずに返事をした。
そんないつも通りの光景に、アイラは静かに胸を撫で下ろす。
「今日こっちにいてもいい?」
「別にいいぞ」
キリのいいところまで行ったのか、クレハはゲームをセーブして、やっとアイラの方を見た。
「なんだ? 吸血鬼なのに雷が怖いのか?」
なんら悪意を含まないクレハの質問に、アイラは少し恥ずかしくなり、
「別に吸血鬼みんなが雷好きなわけじゃないもん! 大体、映画とか小説なんて全部作り物なんだからあんなのの吸血鬼を信じちゃ駄目だよ。私だって普通にお昼に買い物行ってるでしょ」
早口でそんな言い訳を始めた。
吸血鬼と雷のセットは映像作品ではおなじみだが、実際の吸血鬼は十人十色らしい。
「確かにそうだな。……アイラってほんとに吸血鬼? 血とか全然吸わないじゃん」
クレハが言うと、アイラはカッと目を見開いて、
「クレハの! 血が! 不味すぎるの! だから健康的な生活させようとしてるのに毎晩毎晩ゲームばっかりして部屋からも出ないんだから」
日頃から溜め込んでいた不満を吐き出して、アイラはため息を吐いた。
「血を吸われるために健康的な生活させられるJKとは……」
「クレハ、言葉にするとなんかやばそうだからやめて……」
言葉にすると犯罪臭しかしないが、吸血鬼だからセーフである。……多分。
「と、とにかく! 私も今日はこっちで寝るから、クレハも早く寝よ」
アイラが部屋の隅に置かれたベッドに乗りながら言う。
「いや、私はまだゲームしとくから。アイラは先に寝といていいよ」
「夜くらいちゃんと寝ようよ。吸血鬼でも眠い時は寝るんだから」
それでもまだクレハがごねていると、再び窓の外で雷が鳴った。今までのものよりもかなり近いらしく、音も振動も大きい。
「……あ」
布団を被ったアイラの耳に、そんな気の抜けた声が届いた。
「どうしたの?」
恐る恐る首を顔を出してクレハに訊ねる。
「……ブレーカー落ちた」
コントローラーを持ったまま、クレハが床に倒れる。
その様子を見て、アイラは静かに微笑んだ。
「寝よっか、クレハ」
「……寝るか」
諦めてベッドに這ってくるクレハを、アイラが布団でそっと包む。
大きめの布団ではあるが、流石に二人も入ると窮屈だ。
しかしアイラは今、その窮屈さに不思議な安心感を覚えていた。
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