赤と青のカチーナ

石井 升

第1話 闇と光の戦い  1

 河岸に捨てられた少年の遺体にシートをかけて、ため息をつきながら現場の騒然とした中をひとりの刑事がゆっくり歩いていく。

 この国でも少年少女の行方不明はかなり多い。数日して遺体安置所で親たちが泣く声が響く。引きつりながら息をして帰る奥さんに付き添う夫、そして、その夫は摩爾市の街の中のマンションに帰っていった。その夫は布川氏でその街の地銀の頭取の息子、五つの会社を経営してその街の主というべき存在だ。もちろん市長選、知事善でも応援したほうが常に勝つという、裏の顔でもある。

 布川は父が頭取である摩爾銀行に、首都から橋宇土(はしうど)探偵を招いていた。

彼の副頭取室で橋宇土が入ると、布川の奥さんがコーヒーを置いて一礼して出て行った。そして布川は重く話を始めた。

「橋宇土さん、お越しいただきありがとう。」

「こちらこそ、お声がけいただき光栄です。」

「あなたのお噂はかねがね新聞雑誌で拝見しておりまして、お若いのに素晴らしい成果を上げておられる。」

「いやあ、まあ運がいいと申しますか、めぐりあわせでしょうか。」

「さて、ご依頼の件はいろいろニュースでも流れており、電話でも申し上げた通り息子を殺した犯人を特定していただきたい。」

「それは警察もやっているでしょうから、我らが出る幕があるものでしょうかねえ。」

まずはこんな話から、仕事内容と、あとは予算を探りあうところから入る。

「私の息子は、十数年前、工業団地に来たZNPC社に連れていかれ、トップのやつらに臓器を剥がれ一部食われたとおもわれるのです。」 

「またいきなりストレートに来ましたね、・・・・」

「回りくどくいっていても、時間の無駄ですからね。あなたは以前、カルト教団、アッハラ快楽教に夢中になって出家した、後藤田姜子を同じく出家侵入して、教団の異常さに気づかせ、退会脱出を三月でやってのけた。その潜入能力と、戦闘力を買っているのです。」 

「なにかそのZNPC社がそうだという証拠はあるのですか。」

「もっとも、確かなのは息子にはGPSを持たせておりました。というより上着に縫い付けてありました。行方不明になった日に、息子の信号はその会社の裏門近辺で消えています。その会社はGPSに妨害干渉する電波を出して時々妨害するんですよね。」

「なるほど。」

「しかし捕まるのは、変態青年とか、寂しい大人とか言われる孤独な変人が挙げられることになり、彼らが誰に子供を渡したのかはわからないまま捜査は終わってしまうというのが、過去2回の小児誘拐事件の結末でした。そしてそれら変人は、似つかわしくなくいい車や、趣味のビデオデッキ、DVDコレクションなどを持ち裕福のように報じられているが似つかわしくないほど、リッチにものを持っていた。つまり報酬を得ていた。」

「それで、犯人を特定するだけでいいのかな、証拠は、その後どうされるつもりです。」

「そのあとのことはまだ未定だがまず相手がわからないことには手が打てない。相手を特定してほしい。」

「私が特定した人に間違いがあったらどうなりますか。」

「そのときは、すぐにわかりますから、やり直していただきます。それと、特定される危険が迫っていると感じると、真犯人はそこを逃げ出すでしょうから、そこに網をかけておきます。」

「なるほど。」

橋宇土はソファーにどっと背中をつけて一息ついた。

「手付金は1億円、犯人特定報酬は一人につき5千万です。」

さらさらと1億と書かれた小切手にサインしている。

「受け取りますか。」

テーブルのコーヒーの横に小切手をひらりと置いた。

「犯人は一人ではないのか。」

橋宇土がソファーから前に乗り出してまた聞く。

「わからない。一人ではできないと思うんですよね。四五人いるのではないかと私は思います。そしたら橋宇土さんに二億三億の報酬をお支払いいたします。」

「少し考えていいですか。」

布川氏はうなづく。

 橋宇土はスマートフォンでZNPC社について調べ始める。過去の小児行方不明事件と二人の犯人、その後の小児誘拐事件を検索して並べる。しばらくの沈黙の後「」「お引き受けいたします。」

「おお、そうですかありがとう。」

そこで握手をして橋宇土は出張のホテルに戻る。

 すぐに首都の事務所に電話する。

「加藤と渡部の二人をこっちに住所変更さして、別々のアパートに入って。ZNPC社の警備課に求人出ているから応募して、警備を外注していないんだよな。仕方ないから採用で入るしかない。俺の名前は橋本にして、口裏合わして。」

 翌日、橋宇土はZNPC社の警備課の求人に応募して採用された。後日、加藤が採用になったが、渡部は落ちたので、そのまま摩爾市にとどまり、アパートを連絡所にして情報を統括するようにした。

 

 加藤は20代の好青年である。仕事はモニター室での防犯カメラによる工場内外の監視と記録、門の出入り口での監視、搬入搬出者の誘導案内、でほとんど歩き回って見回るということはない。警備員は正門二人、南門(裏)一人、東門(社員通用門)一人。モニター室三人で、詰め所がモニター室であるため外で何かあったら、そこから現場に向かうことになるので人員がその時は減ることになる。したがって昼は六人、夜はモニター室二人、正門に夜中の搬入搬出に一人が待機している。十二時間ずつの勤務で二交代のため一日残業4時間、人員が少なくなると勤務日が増えるということで15人でローテーションしているが続かなくてやめていく。

 さてひと月くらいは、東と南の門番から始まる。もっとも簡単だからだ。あとは夜勤の時モニター室でモニターの見方を覚える。そんなこんなでひと月するとモニターの見ているところと、現場の場所がわかるようになってくる。

 アパートの渡部君の仕事は工場見取り図に、モニターの死角と、門や扉の閉鎖される時間帯の記入だ。あとは摩爾市周辺での行方不明事件を検索する。

 ZNPC社に潜り込んでからひと月半くらいして隣町で女子中学生が行方不明になった。明るく快活な女の子だったという。布川氏が言っている、明るく快活な子供が狙われるという条件に合っている。

 ここから工場の警備にできるだけはいるように橋宇土と加藤は工作を始める。

「課長、新しく車かえたいんで、少しシフト増やしてくださいよ。」

と加藤。

「課長、来月3に福島の法事に行くので3日休みもらいたいです。代わりに今週働きますよ。」

と橋本(橋宇土)がたのむ。

課長は

「今でも2交代でやって人足りないのに、24時間勤務というのは無理だしなあ。」

ということで、そこから週3日ある休みはなしで二人の連続勤務が始まり、二人はモニター室の勤務と門番の警備に普通と変わらぬようにだらだらとした外見でピリピリする。

 2日後の夜2時ごろモニター室で見ていると野良犬が南門のあたりに集まっている。橋本が南門になんか野良犬が集まっているので見に行ってくるといい、外に出る。門の前に着くとタイヤの跡がある。モニターの死角の南門から車が入り、車庫の方に行ったあとがある。一般職員は野ざらしの駐車場だが、車庫には重役の車と、特殊な車が入っている。

 その様子をスマホで撮り、門の外の野良犬を追い払おうとしたがなかなか離れない。地面に鼻をつけている。門の外ではあるが会社の用地で車の出入りには邪魔になる。橋本がなかなか追い払えず首をひねってため息をつくと、無線でもういいから戻れとモニター室から声がかかった。

 屋内巡回の方もある。

 屋内巡回は車庫は事務棟の奥にあり、最も遠いからいつもさらりと扉を開けて懐中電灯で照らして見て終わる。そこには加藤が行っている。若いので元気だろうと一番遠いところに行かされている。

 翌日、渡部のところに集まり加藤と橋宇都が送った写真や、モニターの記録をコピーしたものを見て、車庫前のモニターの記録から、車庫内の車で集まっていたのは、会長夫婦・社長夫婦・専務夫婦と社長の長子(経理部長)、次男(生産部長)、長女(社長秘書)、専務の長子(人事部長)であることが分かった。

「ううん家族会議か。」

橋宇土は考え込む。そして

「加藤の話では、彼らはどの部屋を使っていたんだ、社長室は灯りはついていたが人影の動きはなかった。ずっと座っていたのか。10人も集まって夜中に何をしていた。」

 一週間後、女子中学生の遺体が遠くの大きな川のほとりで発見される。加藤と橋宇土の毎日の勤務もここで終わりった、

「課長もうこの辺でいいす、十分稼がしてもらいました。」

「いや、ちょとまて一人、大海君の姪がなくなって葬儀があってな、もう一週間入ってくれないか。」

「ええ、そんなんですか。」

「こないだの行方不明になって、珠川で見つかった、あの子だよ。」

「あ、ああ、お気の毒に、わかりましたやりましょう。」

 二人はまだ休みなしの勤務に入ることになった。

 夜中に社長室の窓ガラスが割れて、警備の加藤と橋宇土が向かう。

「一応警察に連絡しますか。」

橋宇土がモニター室に電話すると、津馬係長が課長に電話して指示を仰いでいる「」「ちょっと待って社長に確認する。」

しばらくして、

「取られたものがないなら、窓に板でも張りつけといて翌日ガラス屋を頼もう、ということなので特に警察に通報せずに処理する、部屋はそのままでよいそうだ。」

橋宇土と加藤はこの騒ぎの間、床にはいつくばって、窓ガラスを割った金具と、床中を這いまわって髪の毛や手掛かりになりそうなものを集めて、ビニール袋に入れて密閉して何事もないように車庫から板を持ってきて窓にガムテープで張り付けた。ゴミ箱と掃除機のごみパックからも集める。

 夜中に社長室の強化ガラスを割ったのはパチンコで夜陰に隠れて工具を飛ばした渡部で、その証拠は加藤たちが持ち帰った。ついでに車庫内の車掃除用のエアバキュームのごみも回収していった。渡部は加藤と橋宇土の持ってきた髪の毛を分けて、首都の大学に持ち込みDNA鑑定を依頼した。結果は3日後に出た。

 社長のクロークの中の着替えについていた髪の毛は、

「この髪の毛は異国人のもの、それも後進国のものだ。おそらく鬘だよ。」と助教に言われる。

「他になんか変わったものはなかったかな、あの誘拐された少女の髪の毛を持ってこれればいいな。どうにかして取って来い。」と渡部が送り出され、被害者宅に行くが既に火葬は終わっていた。身の回りのもの服についているだろうと思ったので部屋に入るしかないだろうと思われた。

 家族が大挙して寺に、家に鍵かけて出た留守を狙って渡部が少女の部屋に鍵を開けて入り、一本だけ髪の毛を持ち帰ってDNA鑑定に持ち込んだが、

「まあこの一本はいいとして、ゴミのようにかき集めたこれ全部読むだけでも一晩かかるしお金もかかる。むりじゃね。せめて、このごみごみの髪の毛から顕微鏡で見て形の似ているのを選び出してきてよ。」と助教に、社長室でかき集めた髪の毛を突っ返された。


 翌週、大海君が仕事に就いた。

モニター室で橋宇土に缶コーヒーを買ってきてくれて、

「ああ休んでいる間仕事変わってくれてありがとう。」

「お互い様ですよ、いい稼ぎにもなりましたし。」

「あんなことになって妹の娘なんだが、可愛そうだ。」

「何が目的だったんですかねえ、やっぱり性的なもんですかね。」

「いや検死の結果そういうあとはなかったらしい。」

「弱いもんを殺すのは人のすることじゃないですね。」

「ああ、殴られてはいないが、大量の鼻血があったらしく、目が陥没していてとてもかわいいときの顔とは思えなかった。」

「目玉を取ったんですか。」

「取られていない、陥没していたんだ。」

二人に間があく。

「いやすみません、いやなこと聞いてしまって。」

「いやいいんだ、話さずにはいられないし。」

「捨ててきます。」

橋宇土は飲み終わったコーヒー缶を部屋の外のごみ回収バケツに入れに、大海の飲んだ空缶とともに持って行き捨てた。

 モニター室の扉を閉めて、携帯で渡部に連絡する。

「今の録音したか、保存しといて。」


 定例の布川氏との会議があって橋宇土と加藤が銀行の副頭取室に行った。

話は進んでいる。布川が言う。

「すると疑わしいのは一家10人か。誘拐の日の後に裏門に犬が集まったのはクロロホルムのせいだろう。はっきりした証拠があれば確定だな。・・・・次の犠牲まで待つか?」

橋宇土が答える。

「とりあえず髪の毛は回収してきたのですが、多すぎて一致するといえるものかを探しあてられないんです。」 

「なるほど、力仕事というわけだね。人海戦術で髪の毛の似たものを探し出してそのあとDNA鑑定にかけるという作業をしていけばいいわけだ。ではその証拠を私に預からせてくれ、摩爾大学の医学部に依頼して学生アルバイトを集めて早急に比較しよう。次の犠牲が出る前に・・・。」


 そのあと、橋宇土と加藤は渡部のアパートに行く。

「おそらく、あいつらは社長室の灯りをつけて車とのつじつまを合わせているが、隠し部屋に集まって何かをしているに違いない。ということで、渡部に各建物の外寸とと内寸の差を計算してもらっていた。」 

橋宇都が言うと続けて渡部が報告するように続ける。

「この工場の中で内寸と外寸に3メートルの隙間があるのは車庫です。南門から入りり、中ほどに進んで車庫に北から入るわけですから、南側の内壁と外壁の間に空間があるということになります。」

橋宇土が考える。

「3メートル幅か、まあアパートなら広く使えるがその幅で十分かな。」

加藤が言う。

「階段かエレベーターがあるのかもしれませんね。」

「そうすると地下室か?」

3人でうなづく。

「どうやって地下室を見つける。おそらく駐車場の壁のように見えるパネルの一つが、何らかの信号で自動であくんだろうな。」

「一応、駐車場内部の写真は全部取ってきてますが、電波を受けるアンテナのようなものはないですね。」

と加藤が言う。渡部が答える。

「スマホを介してネットから指令をしているんでしょうね。」

橋宇土が言う。

「ネット経由か、会社のホームページに入り口があればいいが、どこ経由しているかわからないからな。とりあえず地下室を割り出すのを先にするか。」

スケジュール合わせと、工場の地図を広げて3人の打ち合わせが始まる。

「とりあえず、俺と加藤はスマホ30台を分担して明後日、22時に工場内の影になって見えないところに振動計をオンにして伏せて置いてくる。そこから渡部の作業が始まり、俺と加藤は翌日午前3時にスマホをすべて回収してくる。置く場所は間違えないように、またスマホは最も暗くして、黒い小袋に入れて光が見えないようにして拾われないように。」


 2日後、橋宇土と加藤はモニター室に課長と詰めていた。

「巡回の時間なのでまわりに行きます。」

 先に加藤が出ていく。モニターに加藤がごそごそスマホを置くところが映らないか確認しながら橋宇土は警備課長の気をそらす。警備課長は

「先日みたい社長室のガラスが割られるなんてことがないといいのだがなあ。」

と、モニターを見る。加藤がかがんで建物の影の中を見ているのが見える。課長がポインタを伸ばして、回して押しても縮まないようにして、天井の火災報知機のまん中を押すトランプが消える。コーヒーの空き缶を置いて、タバコを吸い始める。

「君もどうだ。」

橋宇土は

「加藤君の巡回の後、外でやります。」

「ああ、そう、カメラに映んないとこですってね。」

「ええ。」

課長がくつろいでしまったので、加藤のスマホ配置は順調だった。ついで加藤がモニター室に戻ると橋宇土が行く。

課長が転寝から覚めると加藤がモニター前に座り、

「橋本さん行きました。」

「ああ、そうか、何もないね。」

「暖かくなってきたので、蚊が寄ってきますね。」

もにゃもにゃと課長は再び寝ていた。

 23時30分、大型車が会社の東の方の道から近づいてきて、走行しながらどしんと何かを落とした。そのあと、その落としたものを回収して、しばらくはしり南へ移動したがまたどしんと落とした。

 さすがにその振動でモニター室でもなんだろうということになった。南から、西に移動して、またどしんと落とした音がする。

「とりあえず、俺見てきます。」 

と、橋宇都がモニター室を飛び出して外に行ってみる。

渡部の運転する鉄球クレーン車が、指定の場所で鉄球を落として、引き上げてまた進んでまた落とす。

 橋宇土が行くころには、南西の端から、西でもおとし、北西でもおとして、北の正門の方に向かう。北の正門手前で一度落として、鉄球を引き上げると、帰っていったが、工業団地の入り口にも一つ落として道路を陥没させていったが、下水管を破ったようでそこから汚水が噴き出している。

 課長は目を大きくして大騒ぎしていたが、まあうちの工場に被害はないしとなだめて、未明にスマホを回収して橋宇土の任務は完了した。

 工業団地内は道路の陥没で大騒ぎだったが、団地内の村上建設がアスファルトを持ってきて埋めたので仕事は差し支えなかったが、下水管が破れたところだけはしばらくは臭うことになった。


 布川氏からの連絡で呼び出され、橋宇土、加藤、渡部の三人で向かう。鉄球クレーンの件でクレームかと思い、恐縮して向かう。

 部屋にはサングラスをした皮のジャケットを着た男が布川氏の隣に座り、布川氏の妻が横にかけている。

「君たちの実持ってきた髪の毛のうち、駐車場のバキュームの中の髪が、先日の女子中学生の髪の毛と一致した。確たる証拠だ。君への依頼はこれで完了だ。報酬を受け取って、次の事件が起こる前にあのZNPC社から立ち去ってくれ。今までありがとう。」

橋宇土は小切手を受け取るとそこには5億と打ち込まれている。

サングラスの男が言う。

「まあこれで証拠としては十分だ。あとは捕獲できるか退治かというところだが。」

「まるで人じゃないような言い方ですね。」

橋宇土が言う。

「ふふ」

サングラスの男が鼻で笑う。

橋宇土が言う。

「先日の騒ぎで、地下室を割り出しました。地震波の伝搬から、工場南側車庫の下はほとんどそのまま地下室があります。おそらく車庫南側の壁の間にエレベーターか階段があるものと思われます。」

「なるほどこれはいい土産だ。」

サングラスの男が、地震波から推定された地下の空洞の図面を見てニヤリとする。

「いつまでも、ZNPCにいると巻き込まれる、さっさと逃げろ。」

そういうと、橋宇土たちは副頭取室を追い出されるように引き取らされた。

 

 その日、加藤は辞職願を出して課長が渋々な顔をしている。

「最近の若者は、三月も持たないのか、日本はおしまいだよ、こんなやつばかり…」

といじけている。橋宇土はそこに自分もとは辞表を出しがたい。橋宇土はしばし様子を見て逃げると加藤と渡部は先に本社に返した。加藤には浮気調査として男の尾行。

渡部には御曹司の恋人の素行調査が御曹司の親から依頼されて仕事がある。


 加藤が去ってから警備課はまた火の車のようなシフトになり休日が月7日から5日に減った。そんな時、津島係長が橋宇土に昼飯いこうと社員食堂に誘いおごりながら頼みごとをした。

「実は次の土日に中体連の試合が始まるので、息子を応援に行ってやりたい、シフト変わってくれないかな。」

「へえ、お子さん何やってんですか。」

「サッカーだよ。」

「いいすよ。」

「ありがとう。頼んでよかった、飯お替りするか。」

「いや、それもいいっすよ。」

そんなことで、この週末は休みがなくなった。


 土曜に津島係長の代わりに夕方正門前の勤務に就く。休日なので特に車の出入りはなく、搬入車がものを運び込むだけだ。

 22時になったころ、街中にパトカーの赤色灯がサイレンなく光り、検問が張られ始めた。工業団地の南側も川向うは農地が続く。その川を渡る橋に検問が張られている。そしてパトカーが街中を巡回している。

 翌日、日曜朝帰りして、橋宇土は一杯ビールを飲んでそのまま寝落ちする。午後3

時頃ネットの地域放送ライブで、中体連帰りの少年3人が行方不明になったことが放送されている。なんと津島という名字の子がいる。今日は決勝戦なのだが摩爾三中の主力選手の行方不明で決勝戦は延期が決まった。そして街は市外に出る道路で検問されている。警察ヘリとドローンも飛び回っている。

 橋宇土は胸騒ぎがする。布川さんに電話してみる。

「どうされました。」

「また子供が行方不明になったようで。」

「あなたこそ、まだおられましたか。なかなか終わりませんねえ。」

「ええ」

「前に彼が言ったように早くこの街を立ち去った方がいいですよ。失礼。」

「それなんですが、」

布川氏は電話を切っていた。

次に津島さんに電話してみる。 

「行方不明になったお子さんてまさか、津島さんまお子さんですか。」

「橋本君、そうなんだすまない詳しく言えない、また後で、」

といってこちらもすぐに切られてしまった。

しばらくも飲みして夕飯を食べて、惰性で警備に出かける。辞表をポケットに入れているが出しそびれている。

パトカーの警告灯の中会社に到着して、今日はモニター室に入る。

課長が早くも火災報知機を切って煙草を吸っている。

「ああ、津島君のお子さんが行方不明になってしまった。・・・・・・ やめたりしないよね。・・・・ ここに勤めてりゃあさあ、ここでこうやっているだけで給料もらえて、楽にくらせんだよね。でも、この街子供がいなくなるところがいまいちなんだな。」

独り言を言ってひなびている。

橋宇土はモニターを見て南(裏)門から入って車庫に行こうとすると車のライトに照らされるところを監視している。もし確実に彼らなら車はここにきて、子供を連れてくる。そして会社の幹部もここに集まる。

 そして夕刻で非常検問は終わった。

 会社の幹部の車が南門から3台入る光がモニターに映った。橋宇土は今日だと確信して目を光らせる。そしてこんな日に限ってモニター室は二人、正門は一人、警備員は3人しかいない。そしてモニター室の課長はもう椅子で寝ている。正門をモニターで見ると正門警備員ももう頭を台に乗せて寝ているようだ。

 日曜の夜だしほとんど搬入もない。周りは水を打ったように静かだ。

 また南門に一台車が入ってきた。南門は自動で閉まってかぎがかかる。その開閉は、警備室には表示されないが、普通にセンサーや暗証番号で開けると警備室に表示される。恐らくネット回線だろうがわからずじまいのままだった。

「時間なので巡回行きます。」

橋宇土が言ってモニター室を出るころ、課長が片眼を開けて。

「頼んだ。といってまた寝ている。」

外に出ると、しーんとしたところに虫の鳴き声だけで何もなかった。

屋内に行き事務棟に行くが今回は社長室も電灯がついていない。そして事務棟から車庫に入る扉はロックされていて開かない。

 橋宇土は確信した。

「今日だ。」

「そして今だ。」

その時、正門の方から激しい破壊音が響いて、重機のような侵入音がとどろく。すぐに車庫前に装甲車が二台着いて、シャッターを突き破って止まる。

 あとから軍用トラックが二台来て40人ほどの軍服の兵士が降り立って整列した。トラックの助手席からあの川ジャケットのサングラス男が下りて、

「北の壁を破壊しろ」

というと、二台の装甲車からそれぞれバズーカで駐車場の北の壁を破壊した。爆音と閃光と煙が立ち上る中、

「いけ、いけ」

と皮ジャケットの男が言うと、隊員たちは破れた壁から地下へ侵入していった。しばらく地下から閃光と爆音が響く。見るとここが見えるところに課長と、正門の護衛登板が来て建物の壁に寄りかかってへたれている。そこに向かって皮ジャケットの男が言う。

「灰になりたくないなら、見るな来るな言うな。判ったか。」

へたれて課長と当番はうなづいている。

 橋宇土は兵隊たちを追って地下に飛び込んでいく。

 中では異様な戦闘が行われている。こちらは中の先に懐中電灯のようなものがついていてどうもそれは兵器らしい。相手の放つ兵器は火炎放射のようなものだが光線銃のように早い。

 こちらは銃もあるから弾も撃っている。誘拐された子供を探すと橋宇土は奥のガラスの向こう側に子供が三人寝かされているのを見つけた。

 這いつくばって橋宇土は子供たちの方に向かう。

 圧倒的火力で軍隊は地下を制圧した。軍隊の数人が子供を背負って階段を駆け上り、橋宇土達に預けてさっさとトラックと装甲車に乗って、皮ジャケットの男の「撤収」という声に従って、速やかに去っていった。

 警備課長は目を大きく見開いたまま腰を下ろしている。彼らが去った後消防車がやってきて、消火活動としてどんどん車庫と地下施設に放水している。

「辞表出すまでもなく会社が終わったな。」 

 橋宇土は制服を脱ぎ捨てて、ZNPC社を後にしてそのまま首都に向かう。車の中ではラジオでZNPCが工場火災になり、会社幹部がなくなった模様とのニュースを伝えている。そして別の項目では行方不明の少年3人が救出されたことも伝えている。

 ラジオの音を音楽に変え、高速道路を首都に向かってひた走って帰った。

 

 

 

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