計画的運命には抗えない。毒はすでに侵入済み

「え、なにこれ……」


 授業を乗り換え迎えた放課後。靴箱を開くと四角い封筒が落ちてきた。拾って中身を見る。


『千世涼夜くんへ。放課後、屋上で待ってます』


 どう見ても告白されるような文章じゃない。どちらかというと果たし状?

 

 無視しても良かったのだが、綺麗な文字であることから差し出し人は女子。ラノベとかでよくある嘘告かな?


 興味本位で屋上へと続く階段を登り、ドアを開く。


「あ……」

「え」


 屋上にいたのは1人……柏木希華がいた。


 風で靡く、茶髪の髪が美しい。


 双子とあって、乃寧と希華はよく似ている。衣装と髪型を揃えたら見分けがつく者はいないだろう。幸い学校では髪型で区別できる。


 姉の乃寧は茶髪ストレート。

 妹の希華は左き編み込みがあり、リボンが付いている。

 今、目の前にいるのは後者の髪型。だから妹の希華の方だ。


「柏木希華さんだよね。何かな……?」

「はい、その……この前はありがとうございました」

「あ、ああ……あの事ね。いいよ全然っ」


 わざわざお礼を言うために呼び出したのか。人気者だし、人目が付かないところがいいと気を配っってくれたのだろう。


「その、つきましてはお礼をさせていただいたくて……」

「お礼……」


 お礼

 とても魅力的な言葉だ。全生徒憧れの双子姉妹。その妹がお礼してくれるなんて言われたら、誰もが飛びつく。


 けれど、僕は……


「お礼はいらないよ。希華"さん"」

「え……」

 

 双子姉妹と僕は釣り合わない。

 それで遠ざけていたのに、助けた、という恩でその距離がら近づくのは……あまりにも都合が良すぎないか?

 

 僕がお礼を断ったのが、ショックだったのか、希華が俯く。


「さん……さん付けなんて……そうだよね、スーくんは私たちのこと……」


 ブツブツブツブツ


 僕には聞こえない声で何かを呟く。


「えと……希華さん?」

「うんん。ス………あ、貴方がそうしたいならいいの。そうだよね、私なんかが……」

「……?」

 

 何やら落ち込んでいるような……。


「助けてくれありがとうございました。それじゃあ」

「う、うん……」


 希華はぺこりとお辞儀して、足早と屋上から出た。





 10月も後半になると、残暑もなくなり秋の季節が強くなる。気温も涼しくなり、過ごしやすい。


 あれから双子姉妹とは会話を交わしてない。

 またいつも通りの日々が戻るだけだ。

 幼馴染じゃなくなった僕の日々。


 このまま疎遠に——なるはずだった。


 


「助けてください!!」


 休日。商店街をブラブラしていると、少女の悲痛な声が聞こえた。


「助けろって、ただ楽しくお喋りしてただけじゃーん」

「被害者ぶるなし。こっちはお前のせいで彼氏にフラれたんですけどぉー」


 3人の派手目な女子に囲まれているのは、茶髪ストレートの女の子。見覚えのある顔と髪型から言えば——乃寧だ。


「やめて……やめてください……っ」

「コイツ涙目だしw いつもの上から目線どこいった?w」


 髪を引っ張られ、どう考えても一方な暴力。

 なんでこんな事になったのか分からないが、止めないと危険だ。


 場所は比較的目立たない端だとしても、人目にはつく。だけど誰も止めようとしない。

 ここで通り過ぎるのは簡単だ。

 見て見ぬ振りをして、通り過ぎるだけでいいんだからな。


「チッ、このじゃ人目がつくし、どこか別の場所いくわよ」

「そうね。たーぷりとお説教してやらないと……」

「っ……誰か……助けて……」

  

 乃寧が無理矢理腕を引っ張られたのを見た。


「……アンタ、誰?」

 

 自然と動き、気付いたら3人の前に立っていた。睨んだ顔がこちらを向く。


「そ、その……」


 僕は冷や汗をかきながら、口をパクパクと動かす。


 僕が次の言葉を言うまで、彼女たちが待ってくれるはずもなく……。


「用がないなら帰ってくんね?」

「つーか邪魔なんだけど。なに? お前もコイツに恨みでもあんの?」


 僕は拳を握りしめ、覚悟を決めて口を開く。


「その子と待ち合わせしてたんだけど……」

「は?」


 なんて頓珍漢な言い分だろう。ナンパを助けるんじゃあるまいし、もっと他に言い分があっただろうに。


 途端、女が笑い出した。


「え、まさかコイツが新しいターゲットとか?ww」

「だっさぁw 次はこんなショボい奴とかwアンタ、金づるとしか思われてないよ? やめときなよぉ。コイツが人の彼氏を寝取っていること知らないのw」


 人の彼氏を寝取る? 乃寧が?


 耳障りな高笑いいつまでも続く。


 遠ざけていた最近はろくに関わってない。それでも彼女はそんなことをする人じゃないとは分かる。


 キリッと奥歯を噛めしめ、言う。


「彼女を悪く言うなッ!!」


 つい大きな声が出てしまった。女たちの顔が険しくなる。


「はぁ? なんなの? 彼氏ヅラ?」

「チッ、めんどくさっ……」

「なんか注目集まってきたし……帰るよ」


 僕が大きな声を出してしまったため、何事かと注目が集まった。

 

 視線を気にして女3人は去っていった。


 良かった……暴力とか振るわれなくて……。


「大丈夫だった、乃寧"さん"?」


 後ろにいる彼女に話しかける。

 手が震えてる……普段冷静沈着な乃寧でも集団で言い寄られたら怖いよな。


「……さん、さんか…… 。希華の言う通り、やっぱり涼夜は私たちのこと……」

「乃寧さん?」


 ブツブツと僕には聞こえない声で何か言っている……。

 

「なんでもないわ。助けられてくれてありがとう。貴方が助けてくれなかったら、今頃あの女たちにボコボコにされていたわ。まさに救世主ね」

「そんな大袈裟だよ……」

「ううん、そのくらい貴方の行動は素晴らしいものなの。だから……ね」


 乃寧が僕の両手を握って、僕を見つめて言った。


「ぜひ、うちでお礼をさせて」

「……え」


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