直接、愛を囁かれる。臆病になったら負け②

  ——10回負けたら襲われる。


 それは僕にとって罰ゲームなのか?


 そんな悶々とした気持ちを抱きながら、乃寧と希華の誘惑を耐えた。


 乃寧は比較的に、耳かきや膝枕と甘やかしてくる。


 問題は希華だ。スキンシップが多く、耳元で囁くのが好きなのか、よくしてくる。


 もう4回も負けてしまっている。対して僕が2人を負かしたのは、0回……。や、やばいよね……?


 時刻は12時を回った。昼食の時間だ。ここで乃寧が用事があると言って、家を出た。残った希華は昼飯を作ってくれる。ということは、誘惑することはできない。ここで一旦、休憩だな。ちゃんと整理して、2人に負けないように——


「スーくん、見て」

「ん? え……」


 希華の声がして、振り返る。

 見た瞬間、時間が凍ったように思えた。微動だに出来ないほど目を奪われる。


「えへへ、スーくん……どう?」


 両手をお尻の後ろで組んで軽く身体を傾けながらからかうように、少し頬を赤くしながら尋ねてくる。


「どう、じゃないよ! その格好は一体っ!?」


 もっとも、僕が体を硬直させてしまったのは、希華が単にエプロンを着けていたからではない。今の希華の格好は——


「裸エプロン、嫌いだった?」


 そう、裸エプロン。纏っているのは、黒い布だけ。パンツは……履いているだろう。うん、そう信じたい。


「の、希華……その……」

「感想、言ってほしいな」

  

 これも臆病の対象なのか。なら、言わないと負けになる……。


「かわいいと、思うよ……?」

「そう? やったあ!」


 ドキドキしているのを悟られないように答えると、希華が無邪気に喜ぶ。


 それ自体はかわいかったけど、こちらとしては焦りでいっぱいだ。

 

 動くたびに、あらゆるところが見えそうになり、気が気じゃない。


 さりげなく距離を取ろうとする。


 だが、希華の顔が許さないとばかりに微笑み、


「もちろん、料理手伝ってくれるよね?」

「は、はい……」


 この後、しっかり1回負けました。




 料理が完成した頃、乃寧が丁度帰ってきた。並んでテーブルにつき、昼飯をいただく。


 ロコモコにコロコロ野菜のコンソメスープに、パン。うん、素晴らしい昼食だ。


 3人は揃っていただきますをする。それにしても……


「希華、美味しいわ」

「お姉ちゃん、ありがとう〜」


 何故か、希華が僕の隣に座っている。

 今現在も裸エプロンだ。


 嫌でも意識してしまう。


 ちょっと目をやるだけで、素肌が簡単に見える。滑らかな横お腹、優美な腰、椅子の座面に柔らかくなじんでいるお尻や太もも、そこから彼女の裸の足が、足先までが、全部見えてしまう。

 

 またチラッと見ると、乳房の先端、つまるところの乳首に位置すると思われる部分のエプロンの布地が、ポツッと小さく突出していた。


「っ!?」


 いかんいかん……今は目の前の料理に集中しよう。食事だ、美味しい食事。


 野菜がゴロゴロ入ったコンソメスープを飲む。


「濃さはどう?」

「うん、ちょうどいいよ」

「良かった。ロコモコの目玉焼きは半熟にしてみたの。この方がハンバーグと合うでしょ」

「もぐもぐ……うん、うまい!」

「えへへ……」

    

 希華が喜んでくれている。良かった良かった……。


「はい涼夜、あ〜ん」


 それまで大人しくしていた乃寧が、パンをつまんで差し出してきた。


 ……まじか。食事に集中しようとする僕の努力を破壊しにかかってきてる……。


 いやでも、「あ〜ん」に応えるには、希華の過激な格好を見ずに済む。何故なら乃寧だけは僕たちの対面にいるから。


 乃寧の差し出したパンを食べる。


「あーむ。うん美味しいよ」

「良かったわ」


 これはもしや救済だったのでは……?


「じゃあ次は私だね、スーくん」


 などと思った時もありました。


 希華は一口サイズになったハンバーグを差したフォークを差し出す。ソースが落ちないよに手を添えて。


 ……これは刺激が強すぎる。


 今まではなんとかチラ見とか、横見くらいでおさえていた希華を、正面から見る形になる。希華の裸エプロン姿を、さらに直視することになる。


「スーくん……? 遠慮しないで食べて……? それとも私は食べてくれないの?」

「い、言い方!!」

「……お願い」


 ダメ押しとばかりに、おねだり攻撃も追加された。


 うおぉぉぉっ、耐えろっ、僕……!


 仕方なく、素直に口を開ける。


 ジュワリと肉汁とデミグラスソースが口の中に広がる。


「……美味しいよ」

「ふふ、ありがとう」


 満足気な顔で希華はフォークを下ろした。指から見える手、手からつながるほっそりした手首。細いのに、ぷにっと肉感も持ちあわせている二の腕には、うっすらと血管の青さも確認できた。


 エプロンってこんなにも頼りにならないことを僕は今、まさに学んだ。


「あ……スーくん、口元にソースが……」

「うん?」


 希華の指が僕の口もとにぴとっと吸いついた。拭き取ったことで、指先にソースが付く。希華は、それを自分の口に持っていく。そして自身の指先を小さく咥くわえた。


「ん……ちゅ……えへへ、おいしい♪」

「…………」


 あ〜ん攻撃からの、お願いのおねだり攻撃からの、指でソースを拭き取り、口にパクッ攻撃……。連続コンボに僕はタジタジだ。


 悟られないように冷静を装う。うん、食事……食事を楽しんで……。


「涼夜も随分と耐性がついてきたんじゃない? あと希華は早く着替えてきて」

「は〜い」


 希華が席を立って着替えに行った。もっと早く言ってくれても良かったんだけどね。


 それにしても2人とも、誘惑がやけに手慣れてる気がする。そんな恥ずかしがりもしないし……。それ以上の事を体験していて、耐性がついたとか。


 実は僕のこと襲った後だったり……まさかね。




【あとがき】


妹:希華 絶対共依存型ヤンデレ

自分には相手が必要。相手には自分が必要といった、相互同士の依存関係願望が強いヤンデレさん。

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