第46話約束


☆★☆


勢いで皇の右手を掴んだまま走り出して、そのまま通学路から少し逸れた人通りの少ない裏道に駆け込んだ俺達。


もう紅葉の姿も完全に見えなくなった所でようやく一息。


俺は足を止めた。


「ハァ……ハァ…。アーー、クソッ……」


完全に最近身体を動かしていなかった反動で肩で息をしている俺。


対照的に、皇はニッコニコで、あろうことか頬を分かりやすく赤らめて、


「朝からこういう事するの……何かお付き合いしているって感じがしていいですね!」


「つ、付き合ってねーよ。へ、変な事言うな!」


さらっと既成事実にするな。


俺が即座に否定すると、皇は特に気にする素振りもなく、


「まだ、なだけですよ」


「……何だよそれ。付き合ってらんねー……」


どこからそんな自信が湧いて来るのか。


つーか、大体最初からずっと思っていたことだけど、接点のない男にここまで好意を持つか?


普通に考えてありえねーだろ?


俺、一度も人生で告られた事ないんだが?


ここまで来ると、何か裏があるそうな気がしてきたが……。


世の中には美人局って言葉があるぐらいだしなぁ。


理由も分からない好意を寄せられると、その可能性も考えられなくもないが……。


何度目か分からない思考ループに陥りつつ、訝し気にキャッキャしている皇を見ていると、目線がバッチリあって、ハッと正気に戻ったかのように、


「……なっ、何ですか? そんなに私の顔じっと見て…、て…手! 手、離してください!」


「あ。……わ、わりぃ」


全力疾走しても息一つ上げなかったのに、何で今になって、息を乱すんだ?


見る見るうちに、顔……耳まで真っ赤になっていく皇に、俺はそう思いつつ、無意識でずっと握っていた皇の手を離した。


皇は俺が手を離した瞬間、少し足元がおぼつかない様子で、若干よろめきかけた。


「も、もう急にいきなり……そういうのは止めてください……。び、びっくりするじゃないですか……」



熱に帯びた顔を団扇のように手で仰ぎながら、目を地面に伏す皇。


そして、俺がいつしようかと悩んでいた話題をついに皇が先に切り出した。


「……ところで、少しお話が変わるんですけど……昨日の約束。わ、私と放課後にデートするって話…本当にしてくれますか?」


「……」


やや声を震わせた皇。


それに対して、俺が少し黙っていると、勝手にそうだと解釈したのか、


「い、良いんです。別に。あれは先輩じゃないってのは分かってましたし……まだ先輩がその気じゃないなら無理に…」


早合点し、テンパる皇に俺は遮るように言った。


「良いよ、放課後どこか遊びに行こう」

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