第44話お兄を誑かした女(紅葉目線)

☆★☆


お兄と一緒に登校中。


って言っても、昨日みたいに肩を並べて歩く……みたいなんかじゃなく、お兄が私より1歩か2歩、先を歩いている感じだけど。


家を出てから、ずっと不機嫌で口を閉ざしているお兄。


歩幅もちょっと大きめで、歩くスピードも速め。


(いらいらしているなぁ……。まあ、お兄より私の方がイライラしてるけど!)


だけど、ようやく気持ちが固まったのか、歩きながら、大きく息を吸い込んで、


「……紅葉さぁ」


絶対、何か言ってくるだろうなって思ったから、


「なーに、お兄?」


これでもかというぐらい、満面の作り笑顔を浮かべて(上手くできてるよね?)声のトーンも明るくすることを意識してした。


すると、お兄は少しだけ歩くスピードを緩め、しばらく黙っていたけれど、


「……昨日の事だけどな、お前、皇に言われたからって、母さんに言わなくたって――」


「何の事言ってるの? 昨日、何かあったけ? 私、知らないんだけど?」


おどけた口調で私は言い返す。


「……はぐらかすなよ。そもそもデートだって、紅葉が勝手に…」


「私、知らなーい」


のらりくらりかわす私に、堪らずお兄は、立ち止まって振り返って、再度念を押すように、


「頼むわ。ホント」


「だから何がー? ……あ、もしかして初めてのデートだからって緊張して、私にアドバイス求めてるの? アハハ、無理無理ー。私もお兄程じゃないけど、経験あんまりないから、聞く人間違えてるよ~」


「……あぁ……だりぃ」


埒が空かないと観念してたお兄は、ぼさぼさの髪をくしゃくしゃと乱暴にやって、まだ何かもの言いたげな目を私で睨みつけてくるけど…。


――お兄が私に口げんかで勝とうなんて100年早いんだよ! フンッ!


作り笑顔を浮かべる裏腹で、心の底で吐き捨てる私。


……もっともお兄がもうちょっと私に反撃できるぐらいのタマなら、とっくにみどりちゃんとくっついていて、あんなちょっと可愛いだけの下品な子にお兄が唆されること何てなかったんだろうけど……。


そう思いながら、また無口になって、早歩きしだした私より一回りも二回りも背が高いお兄の背中を追いかけてると――


「おはようございます! 紅葉さん!」


「――!!」


いきなり肩をチョンチョンと突かれ、私は反射的に肩がビクッとなった。


あまり聞き慣れない声。


驚きのあまり、声も一瞬出なくて、後ろを振り返ると……。


(あぁ……やっぱり私、この子嫌い)


そこにはお兄を誑かした女が私に対して、作り笑顔を浮かべて立っていた。























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