第39話あの頃は(西条視点)




☆★☆

中学生の頃。


ミツキと一緒にカラオケで遊んだ時、ミツキが私に聞いてきた。


「カラオケってさー。どう頑張っても80点ぐらいが限界じゃね……。どうやったら初見で90点は軽く超えるんだよ……。何かコツとかってあるのか?」


「コツ? コツってなーに? ちゃんとリズムに乗って音程合わせるだけでしょ? 簡単よ?」


「……簡単じゃないよ」


「そう? じゃあ、次の曲一緒に歌ってあげるわ」


「へ?」


「上手くなるまで一緒に歌ってあげる」


「……あ、ありがと」



☆★☆


テストが返された時、ミツキが私の答案を覗いて恨めしそうに言ってきた。


「数学満点って……すげー……俺なんて63点だぜ。つか、今回のテスト難しかっただろ……。難しかったよな? ……平均57だったし……」


「当たり前よ。私、ミツキよりずっと、ずーーっと勉強したもの。そうだ。今度勉強教えてあげようか? この私が、そしたら次の期末ではいい点とれるでしょ?」


「えー……いーよ。どうせ数学なんて社会に出たらなーんの役にも立たないし……。そんな事よりゲームとかしたい……」


「ダメよ。意味のない事なんか勉強にないわ。教えてあげる」


「……うぃーす……」


☆★☆


テニスの試合、いつものようミツキが私の試合を見に来ていた時。


「ミツキ、ミツキ! また勝ったわ! どう? すごいでしょ?」


「すげー。……もう西条に勝てる相手居ないんじゃねーの?」


「当たり前よ。私、天才だものっ!」


「まじでそう思うわ……」


「ねぇ、そんな事より、この後紅葉ちゃん連れて一緒にどっか食べにいこ! ね、いいでしょ?」


「……りょーかい」


☆★☆


もはや日課のようにラブレターを貰って、ルーティンのように名も知らない誰かの告白を断った後。


「西条、また告られたんだって? 中学入ってこれで何度目?」


「さぁ、数えたことないからそんなの知らない」


「……西条ってモテるよな」


「当たり前よ。私、お母さんと一緒で美人だもん。が他の人とは違うの」


「へ、へぇ…」


「安心して、私誰にもオッケェ出してないから。変な男と付き合うぐらいならミツキと付き合うわ」





☆★☆


――あの頃、私は今よりミツキに好意を素直に伝えることが出来ていた。


なのに、どうして……。


「どうしてこんな事になったのかしら……」


私は気がつけば泥にはまっていた。


そこなしの沼。


「……最悪、最悪、最悪」


あの場にルミが居た何て知らなかった。


「……むかつく、むかつくむかつくむかつく……」


ルミじゃない。


自分に。


一瞬だったけど、ルミが見せてきた映像が今でも脳裏に浮かぶ。


――そこには自分の情けない姿が映り込んでいた。


カラオケ付きパーティールーム。


のだ。


雰囲気作りする為としか思えない程薄暗い部屋で10~20人ほどの大学生ぐらいの人達が、歌を皆の前で歌ったり、お酒を飲んで騒いでいた。


そして私は――あろうことか部屋の隅で、の隣で机に突っ伏して寝ていた……。


(……は? は? どういう事?)


ルミは何も言わなかったけど、背筋が凍った。


しかし、まだ動画はそこで終わらなかった。


次の瞬間、画面は切り替わって、


顔を赤くし、呂律が回らず何言ってるか意味不明の私がアイツの肩に手を回してキスをしていた。



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