第36話紅葉の暴走②


夕食後、俺は紅葉に皿洗いを任せて部屋に戻った。


最初は俺がやろうと、食器を台所に運ぼうとしたけれど、それを見た紅葉が、


「あっ、お兄! 洗わなくていいよ! 私のせいで食事にも行けなくなって、お兄に作らせちゃたしさ。私がやるって!」


やる気満々、といった具合に腕をグルグル回して俺にやる気アピールしてきた。


「……そ、そうか?」


まだ安静にした方がいいんじゃないか。


そう思ったが、そんな俺の考えを打ち消すように、紅葉は手をパンパン、と叩いて、


「さぁ、お兄は行った、行った! お風呂も私が沸かしてあげるからお兄は部屋でのんびりしていて! 後で呼んであげるから!」


「? ま、まぁ分かったわ。そういう事ならよろしく……」


「うん、任せて!」


グイ、グイと背中を紅葉に両手で無理やり押されて、リビングから半ば強制的に追い出された。



――そして30分後。


「お兄! お風呂沸いたよ~」


「おっけ。今行くわー」


風呂場から紅葉の声。


どうやら風呂の準備が出来たらしい。


俺は特に勉強することもなく、ベッドの上でゴロゴロと漫画を読んで時間を費やしていたが、紅葉に呼ばれたので、本を閉じ、部屋を出て、風呂場に向かった。



、入る前にバスルームを覗くと、浴槽の7割ほどにちゃんとお湯が入っていた。


そして、紅葉がお湯加減を確かめるために右手を直接突っ込んで、俺が来ると。


「ん。ばっちりだよ!」



お湯から勢いよく手を引っこ抜いて、親指を上に立てて言ってきた。


「おーありがとうな」


入る前に覗いたのはアレだ。


たまにだけど、紅葉は栓を閉めずにお湯を入れる失敗を何度かやらかして、悲惨なことになったことがあるから、念のため……ホッ。


「上がったら教えてねー。そしたら私も入るから」


「わかった」


「じゃ、ごゆっくり〜」


ぶっきらぼうにそう言うと紅葉は手をヒラヒラとさせて出て行った。



☆★☆



(……よし、今のうち! ……本当は外で聞きたかったけど、そんなのもう言ってられないし。お兄が風呂に入ってる今がチャンス!)


バスルームから、ミツキが体を洗い流す音がしたのを確認すると、紅葉はすぐさま早足でミツキの部屋に向かった。


ーー入るなり、何かを探しているのかキョロキョロし出す紅葉。


(どこ!? どこにあるの? お兄が風呂から出ちゃう前に見つけないと……)


焦って中々見つけることが出来ない。


だが、机の横に床に置かれたミツキの使い古されてボロボロの制カバンを見つけると。


(あ、あった!)


ドクン、と心臓の鼓動が高まる。


紅葉は何かに取り憑かれたように、一歩、また一歩とカバンに近づき、そして恐る恐るチャックに手を忍ばせ、ゴソゴソと中を漁る。


そして、赤の弁当箱を手にとると、ぽつりと、


「…………お兄の……バカぁ。やっぱりする気あるじゃんか…嘘つき」


力なくこぼれ落ちた独り言。


と、その時だった。


"ピロン"


紅葉の言葉に返事をするかのように、机の上にあったミツキのスマホから通知音が。


「……何? ママ?」


放心状態の紅葉だったが、不可解な音に首を捻った。


あまりRINEをやらないミツキにこんな時間帯に誰が連絡してくるというのか。


自分か母か、あるいは可能性は限りなく低いが西条か?


疑問を胸に、引き寄せらるように立ち上がった。


この目で見るしかない。


『新着メッセージがあります』


そう、スマホには表示されていた。


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