第35話紅葉の暴走①
「だ、大丈夫か?」
「……痛い。何で道路に電柱なんか……ムカつく」
「いや暴論だろ、それは」
「……」
ぶつけた額を手で抑えたまま、痛みから目に涙を溜めて地面に蹲る紅葉。
結構嫌な音がしたから、俺は嫌がる紅葉の手を一旦どかしてオデコを確認した。
少しだけ赤くなって、たんこぶが出来ている。
多分、放置したら腫れてくるタイプの奴だな。
「ちょっとここで待ってて。コンビニで氷買ってくる」
「……分かった」
こういうのは処置が早い方がいい。
いつもなら文句の一つや二つは絶対に言ってくる紅葉も、素直で、俺は直ぐに最寄りのコンビニに向かった。
☆★☆
結局外食は止めて、家に引き返した。
夕飯は俺が昨日に引き続いて俺が作ることに。
頭を20~30分程冷やした紅葉は、痛みは引いたみたいだけど如何せん元気がないみたい。
ソファの背にぐったりともたれて、魂でも抜かれたみたいに前方をボォーッと定まらない視線を漂わせつつも、俺と目線が合うと、申し訳なさそうに、
「ごめん。私から誘ったのに……」
「まあ気にすんな。……てか、今度からはちゃんと前を向いて歩けよ。危ないって」
「……うん」
やっぱり変だ。
別に俺はドMでも何でもないわけだが、それでもこうも棘のあった紅葉が、素直になられるとどこから調子が狂ってしまう。
「なぁ、紅葉。何かあったのか? 何か変だぞ」
「……」
俺の問いかけ。
ーー紅葉は最初俺の言葉にビクッと何かに怯えたように背中を震わせた。
が、すぐに意を決したかのように、ごくりと喉を鳴らして、ソファから身を乗り出して、
「…………お兄、お兄は私が彼氏できたって言ったらどう思う?」
「へ? 紅葉、お前誰かと付き合ってんの? 初耳なんだけど」
「……違う。誰とも付き合ってないけど。仮定の話をしてるの」
「なんだ仮定かよ。……でも別にいいんじゃね? 紅葉が好きな人なら誰でも。俺が口出しする事じゃないし」
妹の恋愛事情なんかに首を突っ込む気なんかない。
俺はそう考えたのだが、紅葉にはカチンときてしまったみたい。
急に早口で、
「誰でもいいんだ。私がその辺の頭をピンクに染めて、鼻とかおヘソにピアスした不良とか、クズ男と付き合ってもお兄はそれでもいいんだ!?」
「それは……?」
言葉に詰まった。
そもそも紅葉がそんな奴らを彼氏にする事なんて想像できないし、なんでこんな関係ない話を紅葉がしているのかも理解不能。
首を傾げる俺に、紅葉は少しだけ語気を荒げて
「私ならそんな人達を自分の妹が連れてきたら、『やめとけ』って言うよ!? お兄はそうは思わないの?」
「お、おう……そ、そうかもしれないな」
「でしょ!? やっぱりそうだよね! お兄もそう思うよね!」
「???」
あっという間に平常運転に戻った紅葉。
俺は訳が分からなかったが、それを皮切りに紅葉の機嫌は目に見えて良くなった。
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