第33話紅葉の誘い


19:15


あれから2時間ぐらい部屋のベッドで寝ていたが、やっぱりいつもは寝ない時間帯だからか、すぐに目が覚めてしまった。


とは言っても、何かをしようなんてやる気にもなれないし、ただ仰向けで目だけ開けている状態。


所々に天井に点在する謎にできた黒いシミのようなものを、半分ぐらい瞼が閉じた感じで眺めていた。


紅葉は……リビングの方で、テレビの音が聞こえてくるからもう帰ってきてるようだ。


いつもなら、俺の方が先に帰ってきていたら絶対に声を掛けてくるんだけど……。


やっぱり朝の件と言い、まだ怒ってるんだろなぁ。


(はぁ)


悩み事が多すぎて、どこから解決していったらいいのか全く分からない。


と、俺が思っていたその時。


それに反応したのか反応していないのかは分からないが、突然テレビの音が消えた。


(……ん?)


そして、ズンズンと段々部屋の方に足音が近づいてきて、俺の部屋の前でピタリと止まった。


(あw)


こりゃ説教だ、と俺は身を慌てて起こして、一瞬の内に気持ちを固めようとしたのだが。


――シーンと静まり返ったまま、何も起きない。


(?? ……ど、どした? 何故、そこで立ち止まる!?)


絶対、ドアの向こう側に紅葉が立っているはずだ。


それなのに、ノックすることも、勝手に部屋に入ってくることもない。


俺は戦々恐々とドアを見つめるが、時間が経てば経つほどこの謎の沈黙タイムが怖い。


(……心なしか、ドアから妙に殺気のようなオーラが出ている気がするんだが……気のせいだよな……ハ、ハハ……)


すると、ようやくコンコンとノックがされて紅葉が口を開いた。


「……お兄、もう起きてる……よね?」


「お、おう」


良かった。


声の感じからして朝みたいに不機嫌じゃない。


俺はまずその事にホッとしつつ、すぐに返事した。


「……部屋、入っていい?」


「いいよ」


返事と共に白のパーカー姿の紅葉が部屋に入ってきた。


そして、目が合ったが、


(……え?)


何故か目が合った瞬間、目を逸らされた。


でも、何か違う。


怒ってるとかそんなんじゃねぇ。


何ていうか……ちょっとビクビクしてるような。


「……紅葉?」


「……」


朝とは全く違う紅葉に俺は思わず声に出してしまったが、紅葉は何も言わず、そのままスッと俺の真正面までやってきた。


そして、また俺の様子を伺うようにチラッ、チラッと何度か目線を合わせて、口もパクパクと何かを言いたそうに動かしていたが、どれも「……てよ」とか「……そう」とか「こ…なの………だよ」とか辛うじて一部は聞き取れたが、何を言いたいのかは分かんない。


「………ん? 何だよ? 何か言いたいことあるんだろ?」


何時まで経ってもはっきりと言わない紅葉。


何となく、言いたいことは分かるが。


「……まあ、座ったらどうだ?」


俺は苦笑いしつつ、立ったままの紅葉に声を掛けたが、紅葉はそこでハッとしたように目を見開いて、


「お、お兄! 今日私が驕ってあげるから一緒に外食しよ!」


「……外食? 紅葉が? マジで?」


………ま、待て待て待て。朝からの落差激しすぎるわ。


紅葉は続け様に、


「ほ、ほら! 毎日2人で家で食べるのも飽きるじゃん? ね? 朝だって…わ、私もお兄に意地悪したと思うしさ、そのお詫び!」


「……い、いや。お詫びって、紅葉……。別にその事なら俺も悪かったって思ったし…」


「ね? いいよね? 行こ?」


「……も、紅葉が良いなら俺もいいけどさ」


ほ、本当にどういう風の吹き回しだ?


完全に予想外の展開に驚きつつも、俺は何だかんだで外食に行くことにした。






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