第3話キスの効果①


☆★☆


(やられた……)


俺はアレから数分経っても収まらずにドクンドクンと高鳴る心臓の音を耳奥で感じながら、さっきの自分の不甲斐なさを嘆いた。


キスしてしまった。いやされたといったほうがいいのか……。


皇に流されるがままにされた俺のファーストキスはあっけないものだった。


したのは本当に一瞬で、しばらくはキスされたという実感が湧かなかった。


「ウフフ、先輩。大丈夫ですか?」


「……」


「ダメですねー。そんなに、私のキスが良かったんですか? しょうがないなー……」


何も考えられない放心状態の俺。


皇はそんな俺の様子を、目の前で楽しそうに手をヒラヒラと振って確認し、それでも反応しない俺に対し、コツンとおでこをくっつけて、


「もう一回……やります? 今度は長く。私は良いですよ? ここで先輩ともっと距離を詰めても」


「――ッ。お、おおおれ……。い、今、皇とキ、キキキキス、した!?」


「はい、しましたよ。もう一回しますか?」


「す、するわけないだろう! ってか、何キスしてるんだよ! まだしたことなかったんだぞ! どうしてくれんだよ! クソ……」


「したことがない? それって私が先輩のの人ってことですね! 嬉しいです……」


ポッと顔を赤らめて照れくさそうに言う皇。


「ちょ……そういう風にいうと意味深に聞こえるから止めてくれ……」


「えーなんでですかー? いいじゃないですかー。で、どうです? やることもやりましたし、これで私達付き合うって事でいいですよね?」


まるで「当たり前ですよね?」とでも言いたげに、ウインクする皇だが――。


「……するわけないだろ。俺は皇の事、何も知らないし、好きじゃない。彼氏がほしいなら誰か別の人にしろよ。皇、可愛いし、モテると思うし、すぐに見つかるよ。………………ごめん」


周りに流されたとはいえ、俺はずっと思いを抱いていたみどりに勇気を出して告白し、そして撃沈したばかり。


皇の言う通り、俺は意気地なしで臆病なんだ。


こんなにも好意を寄せてくれる皇にキスされて、心が動かなかったわけではないが、まだ、誰かとやったこともない交際なんかする気分ではない。


断ろう。


――俺はべったりと引っ付いて離れようとしない皇をゆっくりと身体から離して、そう告げて立ち去ろうとしたが、その瞬間。


「待ってください。まだ話は終わってませんよ」


寸前に、ガシッと手首を掴まれた。


思わず、振り返ると皇が俺の唇にスッと人差し指を当てて、キッパリとした口調で、


「一週間待ちます。一週間後に返事をもう一度ココで聞きます。その時に先輩がNoなら私も潔く諦めます」




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