第11話 草食系男子の、弱肉強食な現実。




 アタシはナヨチン一ノ瀬優斗を押し退けて、賊の男3人に、貴重品ストレージから取り出した豪雷砲をぶっ放した。


 豪雷砲はアタシが打った鉄砲だ。

 数打ちの火縄銃とは違って、小型で片手で取りまわせる工夫をしている。

 以前異世界人の賊に向かってぶっ放したら「Oh~! ふりんとろっくシキ……」といって驚きながら蜂の巣になった、アタシの傑作、相棒だ。


 散弾を装填した豪雷砲を貴重品収納ストレージに入れておけば、得物としての鉄砲の弱点「装填に時間がかかる」が解消され、取り出せばすぐに撃てる。


 3人の男共は、豪雷砲の散弾を受けて吹っ飛んだ。


 今回みたいに一発でカタが付くなら、鉄砲の威力は得物としちゃ一番だ。

 打ち漏らしがあったら、次弾を装填するのに随分時間が必要だから、ナヨチン一ノ瀬優斗にも危険が及んだだろう。


 「所詮は賊か。大したことねえな。おい、大丈夫かナヨチン一ノ瀬優斗。オマエにしちゃ頑張ったな」


 アタシは振り向いて、ナヨチン一ノ瀬優斗にそう声を掛けた。

 ナヨチン一ノ瀬優斗は必死の勇気を振り絞ったからか、目に涙を溜めている。

 いや、ホントに炭で書いたマツゲと目に溜まった涙は、どこのお姫様です? って言いたくなる。


 「……こ、殺したんですか……?」


 ナヨチン一ノ瀬優斗が、震える声でアタシに聞く。

 コイツらの世界は、こんな野蛮な、直接的にぶちのめし合うことが無いらしいから、目の前の血まみれの賊は怖いんだろうな。


 「安心しな、死んじゃいねえ。

 魔物や野生動物はきっちり退治っつーか殺せるが、人に関しちゃそうじゃねえ。

 この世界じゃあこうやって鉄砲の散弾受けようと剣でザックリ斬られようと、たとえ体が多少千切れたって、死にゃしねえ。

 単に体力が0になって気絶してるだけだ。

 軟膏塗って体力回復させりゃ、復活するんだよ。

 死ぬってのは、体力0になって気絶してる時に、明確に殺そうって思って止めを刺した時だけだな。

 何かこの世界の守護者の女神トーヨ様のご加護ってことらしいぜ」


 「……嘘でしょう?」


 「いやいや、嘘じゃないぜ? 現にオマエ、大鴉オオガラスに目玉ついばまれても軟膏塗って寝て体力回復したら目治ってんだろ」


 「ええっ、目が見えづらいと思ってましたけど、そんなことになってたんですか……」


 「目が無いオマエって、けっこうwildで良かったぜ」


 「そんな、そのままだったら困りますよ……良かった治って」


 「まあそんな訳でコイツラも死んじゃいねーから安心しろ。

 ただまあこのままにしといたら気が付いた時に襲ってこねえとも限らねえからな。ふん縛って転がしとくか。

 まあ普通はこうやって叩きのめされたら、起きても体力回復し切らねえから病気になって全能力3分の1になってるんで悠々逃げれるけどよ、念のためな。

 あと、てめーで襲ってきて返り討ちに遭ってんだから、当然の報いとしてコイツラの物貰っとくか。オマエと山分けだな」


 「ええ、盗むんですか……?」


 「人聞き悪いな、詫び代だよ詫び代。

 なあ、オマエこの世界に来たばっかの時にこーゆー奴らに襲われてたら、オマエの身ぐるみ全部剥がされてたんだぜ?

 今だってアタシらがやられてたら逆に全部持ってかれてんだ。オマエがコツコツ1日20ゴールドで働いて貯めた全財産と、荷車に乗っけた交易品全部がだよ。

 こうやって意識なくなると金入れるストレージと交易品入れるストレージは全部開いちまうんだ。貴重品入れるストレージはけっこうしっかりしてんのか、全部取られるってこたあないけどな。

 まあ野盗で稼ぐってのもある種この世界の生き方だけどよ、相手から奪うってことは自分が奪われる覚悟もした上でやってるんだろうよ。それがフェアってもんだろ」


 アタシはそう言って倒れた男の一人に近づいた。


 荷車から縄を引っ張り出してふん縛る。

 そんでストレージを探ると……


 「チっ、しけてんな、50ゴールドか」


 他には……ちっちゃい安物のナイフに、火打ち石、釘に金槌……

 大したもんねえな。

 おっと、何か書物持ってんな。


 犬耳のバカでけえ乳の女の絵姿……


 エロ本じゃねえか!


 くそっ!


 倒れたもう一人の賊のストレージも探る。

 やっぱり碌なモンがねえ。


 そして……凛々しい女騎士の凌辱された絵姿……


 またエロ本じゃねえか!


 どんだけエロに飢えてんだ!




 「……危ないっ!」


 ナヨチン一ノ瀬優斗の声に振り向いた瞬間、アタシの左肩から胸にかけて焼けつくような痛みが走った。


 もう一人の賊の男がいつの間にか立ち上がり、剣でアタシの左肩に斬りつけていた。


 賊は更にアタシに向かって剣を振る。

 アタシは横に飛んでかわそうとしたが、アタシの左太腿を賊の剣はえぐった。


 クッソ、これじゃ思うように動けねえ……


 「『止血』ッ!」


 アタシは秘技カードで回復する。

 左太腿の傷は回復した。

 左肩も深手だが、ちびっと回復して動かすくらいは出来そうだ。


 これなら行けるか?


 「ドワーフの姉ちゃんヨォ、ちーっとばかしオイタが過ぎたな? まさかいきなり銃ぶっ放すとは思わなかったぜ」


 賊の男はニヤニヤしながら剣を構える。

 コイツ、賊のクセにやけに構えがしっかりしてやがる。


 「いきなりだったからヨぉ、咄嗟とっさに『死んだふり』使わせてもらったわ。

 姉ちゃんの得物、銃なんだろお? さっき撃っちまったから、もうスグにゃあ撃てねえよなぁ。

 抵抗すると、カワイイ顔に傷が付いちまうぜぇ?

 大人しくしてりゃ、仲間とカワイがってやるからよぉ」


 だーっ、たくよ、こんなチンチクリンなドワーフのアタシでもいいってか?

 穴がありゃあ何でもいいんだろうな。


 「磯でイソギンチャクにでも突っ込んどけってんだよ!」


 「ほー、気が強いねえ。気が強い女を泣き喚かせて命乞いさせてヒィヒィ言わせんの、たまんねえんだよなぁ」


 「ケッ、やれるもんならやってみろよ!」


 アタシがそう言うと同時に、賊の男は踏み込んで剣を振る。

 鋭い斬撃。

 コイツ、何かの流派を齧ってんな! 

 

 アタシはどうにかかわし、握った右拳を賊のミゾオチめがけて振ったがかわされる。


 賊のクセに、意外とやりやがる。


 アタシは目の前の賊から目線を離さず睨みつけたまま、もう一度『止血』で回復しようとした。


 その瞬間、ヒュンと風切り音が背後からした。

 咄嗟とっさに身をひるがえして避けると、矢がかすめた。

 矢は森の中の複数の方向から何本も飛んでくる。


 「仲間がまだ居やがったのか!」


 「何で俺達が3人だけって思ったんだぁ?」


 「どんだけいるんだよ!」


 「わざわざ教えてやるほど俺ゃ親切じゃないぜぇ?」


 賊の男はニヤリと笑って、剣を構えてジリジリアタシに近寄って来る。


 チッ、どうする?

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