バレンタインにやらかしてしまった僕は今、目の前が真っ白です…。
続
〈第1話〉 助けてください。
僕は昔から、女の子が苦手だ。
自覚したのは小学生の時。女子たちが高学年になってからあからさまにグループを作って固まり、ヒソヒソと陰口を言い合うのを見るようになってからは、「男子で良かった」とつくづく思った。
しかし。普段は派閥を組んでいる女子たちは何故か、男子に対抗する時は恐ろしいほどに団結するのだ。忘れもしない小6の夏。男子の1人が女子の一部にケンカを売ってしまった結果…クラスの男子全員が、卒業まで女子たちのパシリにされることになった。
けれど中学生になると、男子と女子の関係はまたちょっと複雑になった。
表向きは普通を装いながら、裏では互いをすごく意識するようになって。女子だけじゃなく、男子もやれ「誰が好き」とか「彼女が欲しい」とか、そういう話題で盛り上がっていた。
かく言う僕も中2の頃、活発で笑顔が可愛い女の子を好きになった。
明るくて気さくな子だった。いたって平凡で気が弱くて軽いノリが苦手な…そんな僕なんかにも、いつも声をかけてくれていた、みんなに優しい女の子。
だが、ある日。
僕は放課後の教室で、その子が仲の良い女子たちとクラスの男子に点数をつけて笑っている場面に偶然出くわしてしまった。
次から次へと止まらない、棘のある言葉。普段の彼女からは想像もできない高笑い。
ショックだった。「好き」という気持ちが、一瞬で「怖い」に変わった。
ちなみに僕の評価は、「キモくはないけど、つまんない奴。加点要素ほぼゼロで45点」だった。
そして、高校生になった今。
僕は女の子とはできるだけ距離をとるようになった。
とは言え、別に女の子を完全に避けているとか全く口をきかないとか、そういうわけじゃない。積極的に話したり、交流をもったりしないだけだ。事務的な会話くらいならできる。
ただ、例外もある。
僕にはどうしても、「怖くて近寄れないタイプ女の子」ができてしまったからだ。
それは……
その一、「目立つ子」。圧倒的存在感で、クラスの中心メンバー。休み時間は机の上に座りがち。
その二、「可愛い子」。美人も然り。大抵裏の顔がある…。
その三、「自由な子」。「強引」とか「横暴」でもいい。目をつけられたら逃げられない。
中学生の時のトラウマが色濃く影響しているのは否めない…この3つのうち、どれかひとつでも当てはまったらもうアウトだ。怖すぎてまともに喋れる気がしない。
にもかかわらず、僕のクラスには恐ろしいことに、全ての特徴に当てはまる「須藤さん」という女の子がいる。
緩めたリボンと大きめのカーディガンでちょっと着崩した制服に、気の強そうなショートヘアがトレードマーク。クールな表情とストレートな物言いで、クラスで一番存在感がある女の子…
……前置きが長くなってしまった。
正直に言おう。僕は今、パニックを起こしている。
なぜこんなことになったのか。
まず今日はバレンタインだ。そして放課後の教室には、僕を入れて2人しかいない。
透明な袋で綺麗にラッピングされた、“粉々になったチョコチップクッキー”を手に、茫然と立ち尽くしている僕。
そしてそんな僕を、無言で至近距離から見つめてくる須藤さんだ。
…怖すぎて彼女の目を見れない。どうしてこうなった?僕がクッキーを落としたせいだ。
もちろん、これは僕がもらったものではない。
須藤さんが、誰かに贈るために特別に用意してきたものらしい――
きれいな顔が、じっと僕を凝視している。逃げ場がない。
1分前の自分を殴りつけてやりたい
けれど、もう遅い。
「……で、どうしてくれんの?それ」
須藤さんの冷ややかな声が、静かな教室に響いた。心臓が大きく脈打った。冷や汗も止まらない。
恐る恐る顔を上げると、須藤さんが首を傾げて目を細めていた。
この表情はどこかで見たことある。どこだろう。
……思い出した。昔テレビで見た、ネコ科の猛獣が獲物をしとめる時の顔だ。
もうだめだ。潔く諦めよう。腹をくくるしかない。
――終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます