夢が醒めないように

むぎ

第1話 憂鬱

20XX年 4月13日

一面を満開の桜が咲き乱れる校門を、桜庭莉緒は一人でくぐっていた。入学式は3日前に行われていたが仕事の関係で出席出来なかったため今日が初登校だ。

普通の学生なら新生活が始まるというこの季節は胸がわくわくしてたまらないのだろうが桜庭は違った。幼い頃から芸能活動してるためか自分が普通の学生として同学年や先生たちから接してくれないことに仕方ないと理解しているつもりだが心の内では寂しく、どこに行っても芸能人というレッテルのついた桜庭凜桜でしか見てくれないことにうんざりしているからである。

そう考えているうちに自分の席に辿り着くや否や

「おい、本物だぞ!」

「桜庭さんと友達になったら一生自慢できるわ〜」

「もしかしたら他の芸能人とも繋がれるチャンスじゃん」


小声で話している会話も、クラス中が囁けば自然と私の耳に入る。ああ、ここもか。本当の友達も出来ずに、私はここでも一人ぼっちだ。わずか数秒で、憧れている普通の女の子として高校生活を過ごす夢が一瞬に崩れ落ちたのであった。




桜庭は別に芸能活動をすることが嫌いというわけではない。昔は楽しくて仕方がなかった。わずか小学生という身でありながら名高い映画賞を受賞したことをきっかけに、知名度が一気に増え、数々の作品に出演させてもらっては、その度に素晴らしい評価と人気を頂き、芸能人として誰もが羨む花道を歩いていた。それが自分でも誇らしいくらいに満足していた。でも、いつからだろう。ただ笑顔で振る舞い、与えられた仕事を淡々とこなすプログラミングされたロボットのように自分を感じるようになったのは。


席に座り、そんなことをふと考えながら横を見ると隣の席は空席だった。私が通っている学科はトレイトコースだから多分その子は芸能活動かスポーツ関係で休みなんだろう。この学科ではあまり珍しいことでもないので気にすることはなく、授業が始まるまでぼーとしながら時間を潰していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る