第10話【庭園雨穂ちゃん】
翌日のこと。
家の外に出ると嫌でも俺の家がどういう家かが分かってしまう。俺としては家を誉められたり感心されたりしても複雑なんだよな。俺そのものは誉められてないし感心されてもいないわけだから。
それについちゃ唯一例外がいるのが心が助かる。やはり候補なんだけど。
さて、道行く近所の通行人が俺達六人を見てしまうわけだがイケメン集団だから振り返っているわけじゃないだろう。異形の男達をぞろぞろと引き連れて歩いていると悪目立ちしてしょうがない。
日本刀や薙刀持って歩かれると警官に職質されるのは確実だから僧兵と美少女ちゃんには得物は置いてきてもらった。二人とも手に武器が無くても髪型で存在感を発揮しているからいいだろう。
唯一ホームレスにしか見えないライフルちゃんには俺の学校の制服に着替えてもらった。身長が向こうの方がちょいと高いわけだがそこは着て着られないわけじゃねえ。
全然隣ってわけじゃないけど、それでもほどよく近所なタワーマンションに庭園家はある。母方の親戚。名字が〝庭園〟なのに庭園無いのはご愛敬。
「着いた」
時間通りの完璧なタイミング。当該タワマンの前でスマホをポン。
「
「一応学校へは行ってるわけですね?」美少女ちゃんが訊いてきた。
「登校拒否寸前だけどね。だからウチに連絡が来たってワケ」
「無理に学校に行かせてるのならその対応も正しいと言えるかどうか」僧兵がそう口にした。
ツルツルの髪型といいカッコだけは奇人変人そのものだが喋らせると案外マトモな事を言う。
「普通の小学校ならそうなったろうなぁ」と返事した。
「どういう意味だ?」
「
「また慶墺なのか⁉」
「せっかく入れたんだし辞めさせたくないみたいよ、親が一番」
「良いところの子弟が行っているんじゃないのか?」
「善男善女だけで構成された学校なんて無いよ」そう言ったとき横から、
「あの子ですか?」と美少女ちゃんの声がした。
自動ドアが開いていてサイドテールの女の子の手を引いた母親がそこにいた。
「おはようございます伯母さん。神酒三郎です」俺はまず挨拶した。
「その方々は?」
そりゃ訊いてくるよなー、と思うしかない。
「僕の友だちです」
と言ったのだが伯母さんの胡乱げな視線は変わらない。
「どうします?」と多少底意地悪く訊いたという自覚はある。
さて————、
「じゃあお願いします」とここで正式な依頼を受けた。
「まず僕だけが行く」そう皆に告げ雨穂ちゃんの方へと歩を進めていく。腰をかがめ目線を合わせる。
「いっしょに行こうか」
「あの人たちは?」と雨穂ちゃんが訊いてきた。
「さっき言った通り友だち。雨穂ちゃんを守るために僕が集めた」
「……」
ヲーイ、なんとか言ってくれ。計画が計画倒れになる。
「もしかして……、怖い?」
ある種禁断の質問を俺はしていた。
「……うん」と蚊の鳴くような声。
ヤバい。
「ちょっと、氷室ちゃん」と俺は銀髪クンを手招きした。
純白の学ランモドキに金銀モールというコスプレ然な出で立ちのイケメンが近づいてくる。僅かに雨穂ちゃんが後ずさりした。イケメン効果ゼロか。
その僅かな動きを察したか銀髪クンは少し距離を取り、やはり目線を雨穂ちゃんに合わせた、
「このお兄ちゃんに頼まれたんだけどやっぱり嫌かな?」銀髪クンは言った。
ヲーイ、〝嫌かな?〟なんて誘導尋問になってるんだけど!
だが雨穂ちゃんは返事はしない。だが何かしらの迷いは感じる。
その時だ、斜め後ろに人の気配を感じた。見るとライフルちゃんだ。
「つらい場所には近づきたくもないよね……」
ヲーイ、登校拒否に誘導すんな!
「……お兄ちゃんたちは
今日初めて雨穂ちゃんが会話らしい会話をしてくれたと言える。
「私はこの人に救われた」ライフルちゃんが口にした。「僕も懐中電灯なのに出て行けなんて言われてない」と銀髪クンが続いた。いや、言ってる意味解らねーだろソレ。
「今日は行く」雨穂ちゃんはそう言った。確かに。
でもなにそれ? 銀髪クンもライフルちゃんも初対面なのに、説得らしい説得もしてないのに、よく分からない事言っただけなのに、もう心をつかんじゃったの? なんつーかイケメンだよなぁ。
〝今日は〟という表現は、引っかかるには引っかかったが前向きの決断を得た。それは間違いない。
よし、今だ。
「じゃあ行ってきますね伯母さん」
「雨穂をよろしくお願いしますね」
こうして一人の女子小学生に六人のイケメン達が付き従うかのように歩き出した。目的地は有名私立小学校。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます