第3話 海の解放感と、互いの想い
海水をかけあってはしゃいだ後、コンクリートのブロックにそれぞれ座る。
清和「今日はありがとう。俺今までお前にも家族にも迷惑かけてたのに」ポツン、ポツンと弟に照れくさそうに伝える。
清「別に今言わなくてもいいし迷惑だなんて思っていない」
果歩「よくわからない家族の会話…。なんなら私、部外者だし500m位離れていようか?」と笑いを誘いながら口をはさむ。
海の解放感に誘われてお互いに話しだした。
清和は5年つきあっていた恋人が自殺。そのショックで1年間引きこもりになり、家の外に出たのが1年ぶりだという!
家族は本人の気のすむようにさせておくのが一番だと考えていたが、弟の清はタイミングを外したら長引くような気がしてほっとけなかった。
1週間前いつものように清和のドア越しに三人での海行きを誘ってみた。
もちろん行くとは思っていなかったが…。
清和「わかったよ。運転手が必要なんだろ」と、ドアが開いて久しぶりにみる兄の顔。いや正確には伸びきった髪が顔を覆っていて見えない髭も伸び放題。
それから家族全員がテーブルを囲み食事をしたりお風呂に入ったり当たり前のことが、ありがたく感じられた生活の始まりだった。
饒舌ではないが一家団らんの光景が浮かんだ。
果歩「じゃあ。私もここで聞いてほしいことを言っちゃおうかな。5年間片思いの人に告白してみごと振られました。まだ3ケ月しかたっていないけど仕事のシフトめいっぱい入れてがんばってまーす」あははって、から笑い。でもやっぱり彼のことが脳裏に浮かぶと、つらいなあ。
清「相手は柳沢先輩だろ?しってるぜ」
清和「そうじゃないだろう。こいつでよかったら彼氏候補の一人にしてやって。えっ、柳沢って洋一?」
果歩「な、なんであなた達が知ってるの?」
詳しく聞いてみると柳沢先輩と同級生が兄の清和で、柳沢先輩の弟の同級生が清だった。確かに先輩の家に遊びに行くと弟たちが、遊んでいた。
果歩「えっあの頃にいた子なの?」なんて狭い世の中なの恥ずかしい。
清「俺もよくあの家にはいりびたっていたけど。まったく覚えてないっていうのはどういうもんなの」ちょっと拗ねたような顔をして見せる。
(こっちはコンビニのバイトで、紹介されたときだってすぐ分かったのに…)
「だって先輩しか目に入らなかったもの」ずっとずっーと。やだまた思い出してしまう。
「はいはい、どうせ俺たちは同級生のひとまとめのガキンチョでした」ますます、口をとんがらかして拗ねる
清和 「とにかく俺たちこんな繋がりがあったということで。これからもよろしくね」流石に自分もまだつらいだろうに清和さんは大人だ。
そう、先輩が私のことは妹ぐらいにしか思っていないことはずっとわかっていた。でもこの溢れる気持ちにくぎりをつけたかった。
だから、思い切って告白した。そして思っていた通りの返事が返ってきて、あれからは先輩とはいっさい連絡してない。
いっぱい泣いたし先輩との思い出のものはすベて処分した。くまのぬいぐるみ、お守り映画のチケットもパンフレットも5年分ってかなりの量になっていた。思い切ってすてたらそしたらぽっかり穴があいたようになった。
皆、無口になってただ目の前に広がる海と青空をボーと見ていた。日の光が反射して目に差し込むように鮮やかな色のコントラストが広がっている。海の潮の強い匂いも僅かな風も肌に心地よい。
しばらくして沈黙を破るように清和が「よし写メとっちゃる」と言いながらズボンのお尻を払いながら立ち上がり、携帯を構える。
もっとひっつけ。だとか笑えだとか註文が多い。
それからも入れ替わってふざけた顔やおどけた顔を何枚も何枚も撮った。
ああやっと少しは距離感が縮まったなとカメラをかまえた兄の言葉に、俺の隣で楽しそうに笑う果歩をみて、幸せ気分に浸っている。ずっと俺の片思いだった。柳沢先輩の隣にいる果歩をずっと見ていた。いつかは俺に気づいてくれるかもとか切ない気持ちで、それでもその笑顔をみているだけで満足だったはずなのにその笑顔と眼差しは先輩にいつも向けられていて、それがとても切なかった。
いつごろからか先輩の家に行.かなくなり君の笑顔も見れなくなった。あきらめたつもりはないけれど、時は経っていった。そうだから、コンビニで会えた時はくすぶっていた思いがまた蘇ってきた。シフトが違っていて、すれ違うほんの何分間かだけれど…。
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