毎日習作小説

輪子綸子

「草花・豚飼い・サイコロ」

 裸電球一つの明かり。葉巻や大麻の煙に乱反射している。仄暗い部屋の中でも皆がその一点を見るのには十分な明かりだった。

 生唾を飲み込む音さえ響く部屋の中で、張り詰めた沈黙を破りカランカランと音が響く。

「半か丁か」

 みすぼらしくも、小ぎれいな様にも見える、麻の甚平を着た男が告げた。その身が剃毛されている様に、善も悪も情さえも感じ取れず、心までもそぎ落としたのではないかと感じるほどに機械的な声だった。

 最初に誰が声を上げたかは覚えていない。連鎖的に音が大きくなり、そして鳴り止んでから1拍あけて、私は声を出した――。


「やっぱり贅沢と言えば牛ステーキ!その中でもヒレは格別に美味ですねえ。あの時のスリルを経たから、より一層この贅沢を享受できるというのもです。」

広大ながらも十分に光が部屋を満たしている。一人で食事を摂りつつ、習慣の煙を吐いている。

 昔、経営が立ち行かなくなったその男は、自らの養豚場を担保にして賭博に参加した。結果的にはその賭博で、愛情をかけていたもの全てを失った。失ったのだが、養豚場に隣した放牧地、そこの一角に茂る草木の中に価値のあるものがあったようで、失った分の差額をもってしても利益が出ている形となった。そこから男は、やれ権利や法律やと方々に奔走し、息をつく前に改めて養豚場を買い戻した。そして、その希少なものを選任としたビジネスを始めて成功したのである。

「この濃厚なコクがありつつも堪能しきる前に脳天にガツンときて目が冴える。うちの葉っぱが最高級な証ですね」

 一服を終え、再び男は細かく、四角くステーキを切り分ける。震える手で切り分けた肉をフォークで運ぶが口内に収まることはなく、音をたてずに床に落ちた。

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