第31話 事件前夜!!前篇
*****
‥‥あれは、時間遡行前の話だ。
私達、勇者パーティが教会からの依頼で連続誘拐殺人事件‥‥‥、私が初めて人族に関連する事件に関わったときの話。
私と勇者さま、そして聖女さまの三人で、連続誘拐殺人事件の最初の被害者が発見された街に出向き、白蝶騎士団の待つ宿屋に行った。
「始めまして。エ、エリースと申しますっ!魔術師です!ミュゲ村出身です!」
「おう、嬢ちゃん初めまして。俺は白蝶騎士団の団長のテレザ・スプリングだ。一応言っておくが『テレザ』っていう名前だが、女じゃないからな?で、こっちがディザイア。うちの副団長だ。」
「ご紹介にあずかりました、ディザイアです。どうぞ団長の名前でいじってやってください。」
「おい。ディザイアっ!」
そうして、冗談かしめながら自己紹介する20代後半ぐらいの団長と‥‥‥、20代前半のような若い副団長のディザイアと出会った。
それからディザイアとは犯人を探すための調査のためによくバディを組まされた。結構馬があって、ここにいる間にかなり打ち解けた。
ただ、彼の難点は‥‥、
「また女漁りにいくの?ディザイア。」
「ええ、おこちゃまなリリーは付いてきちゃダメですからね?」
「私は!!おこちゃまじゃないって!!いつも言っているでしょ!?ていうか、本当にいつか刺されるわよ?というか刺されちまえ!!」
まあ、そういうことだった。私のことを『リリー』と呼ぶ
「ふふっ。そう嫉妬するリリーも可愛いですね。」
「嫉妬じゃないしっ!!っていうか口説こうとしないで!このロリコン!!変態!!」
「おや?リリーはおこちゃまではなかったのではないのですか?」
「っ〜〜〜!!!もう刺されろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
「残念。クロエはそんなにお転婆ではありません。」
「ディザイア。前遊んでいたのはゾーイさんじゃなかったの?」
「さあ、どうでしょう?」
「はあ‥‥。」
まあ、万事こんな感じでディザイアは毎回夜遊びをしていたためこいつとは夜の自由時間は別行動をとっていた。
することもなかったし、早く寝るべきだとは思うが初めての事件ということで気になってなかなか寝付けず、時折周辺を一人で散歩した。
殺人現場の廃墟まで行って被害者に祈りを捧げてから戻ってくる、そういう散歩コースだったのだが廃墟にはいつも先客がいた。
「イヴォンさん。こんばんは。」
「あら、こんばんは。今日も来たんですね。エリースさん。この子も喜びます。」
「‥‥はい。」
このイヴォンさんは痩せ細った女性で、よく咳をしながらここにお祈りを捧げに来ている。可愛らしいだろう容姿は痩せていることやいつも浮かべている暗い表情で霞んでしまっている。廃墟にいるときは特に顔色が悪いように感じる。
被害者の女の子との関係性を聞いたことはなかったけど‥‥、資料や状況から大体察することはできる。
「そういえば、イヴォンさんの仕事って‥‥?」
「今は、騎士さまたちが泊まられている宿の経営をしています。」
「そうなんですか。」
「ええ、この街には人族しかいないので、とても観光客のお客様がいらっしゃいますが騎士さまほどお行儀のよい方は稀なので助かっています。」
騎士さまの宿‥‥、今私達が泊まっている宿のこと?
「それは‥‥、よかった、です。でも、私もイヴォンさんの宿をお借りしていますが、イヴォンさんの姿を拝見したことがありませんが‥‥?」
「ああ、表向きは夫に任せているんです。ちょっと私は接客業をできるような調子ではないので、裏方の仕事をさせていただいているので宿でエリースさんともお会いすることはないと思いますよ。」
「なるほど。そうでしたか。」
こうして私達はポツリポツリ会話を交わす。それはなんだか心地よくなって、なんとなくこの時間が楽しいと感じられた。
そして夜が更けきって丁度いい頃合いになったら私はイヴォンさんを残して帰った。
最初の頃はイヴォンさんを送ろうとしたけど、彼女は頑として夜が開けるまで動こうとしないし、見送りも拒否される。
『そんな資格がないので。』と少し悲しげな目で。
そうやって、調査を行いつつ、時々廃墟に行きイヴォンさんと静かに親交を深めていた。
私だけではなく勇者さまや聖女さま、それに騎士団も調査を進めるが犯人の手腕なのか、なかなか上手くいかず、犯人がどんな人物かさえもわからないままだった。
そして滞在期間が後少しといったところで、あの事件は起こった。
_____
そう、それはディザイアと路地裏での聞き込みを行っていたときのこと。
「リリー。」
ディザイアが私を呼び止めた。
「何?女好き変態野郎さん。」
「ひどいです、リリー。俺はただリリーが好きなだけなのに‥‥。」
「普通に気持ち悪い!!ってどさぐさに紛れて頭を撫でようとしないでっ!気持ち悪い!!」
さらっと頭部を撫でようとしているのを察知して、魔の手から逃げる。
「‥‥リリー。そんな反応、悲しくなります‥‥。」
「じゃあ、女遊び止めてよ!!」
「あ、それは無理です。」
「爽やかな顔して何言っているの!?って、いうか用事があって呼び止めたんだよね?どうかしたの?まさか‥‥、犯人が分かったとでも?」
ディザイアの言葉についドン引きしたけど、もしかしたら重大な証拠を見つけたのかもしれないと真面目な顔をすると、ディザイアも同様顔を締めて。
「ああ、すみません。アメリアを見かけたので挨拶に行きたいのですが。」
「ふざけんなあ!!っていうかまた女の人の名前変わってるし!」
「行ってもいいですか?」
「よくないに決まっているよ!!今は仕事中だし!そういうのは夜に!!」
「‥‥やっぱり本当のことを言わなきゃいけないみたいですね。」
「何?本当のことって。」
「お手洗いに、」
「言ってきなさい早く言え馬鹿!!」
私が怒鳴ると、ディザイアが笑ったがそのうち真剣な顔をして言った。
「俺は離れますが、もし犯人がいたら‥‥、殺してください。勇者さまからもいわれているでしょう?」
「うん‥‥。やっぱり殺すんだね。」
「上からも悪質すぎると判断されていますからね。」
「わかりました。殺します。」
「じゃ、俺は行きますね。」
このとき、私はディザイアといるべきだったんだ。
__こんなことが起こるなら。
「エリース、さん‥‥。」
「あれ?イヴォン、さん‥‥?こんにちは。」
ディザイアを待っていると、珍しく日中にイヴォンさんと出会った。
「『エリース』‥‥。」
「イヴォンさん?どうかしましたか?」
「あ、いえ‥‥。なんでもないですよ。」
イヴォンさんは珍しく微笑みながら私を見た。
今日は出かけているためかローブを頭から羽織っている。
「エリースさんは勇者さまと旅をしているって噂で聞きました。」
「あ‥‥。はい、そうですよ。」
「ふふっ‥‥、そうなんですね。」
そういえば自分の正体をイヴォンさんに話したことはなかった。私からイヴォンさんに質問するばかりで自分のことを言わないなんて‥‥、不審者だ。未熟な自分が恥ずかしく思えてくる。
きっと噂話で流れている『私』と廃墟で会う私が一致して私が魔術師『エリース』だと分かったのだろう。
「最近巷を騒がしている連続誘拐殺人事件の犯人探し、進んでいますか?」
「あ、‥‥それが。」
あまり進んでいないなんて言いづらい。
私の予想が当たっていればイヴォンさんは最初の連続誘拐殺人事件の被害者のお姉さんなのだ。
「ふふ。エリースさんは本当に、妹に似ているわ。妹も可愛かったわ。あなたよりもほんの少し上の年齢だけどもね。」
「それは‥‥。」
被害者は私と同じ緑の目をしていたそうだ。『イチイ』という名らしい。きっと彼女はそこを指摘しているのだろう。彼女の特徴を聞いて描かれた絵は、とてもかわいらしかった。
話す内容から彼女が被害者の姉であることはもう確信できた。
「あの子は本当にいい子でね‥‥。私が宿屋を継ぎたくないって言ったら宿屋を代わりに継ごうとしていたのよ。自分の女優になるっていう夢を消してまで。」
「すごく、いい子だったのですね‥‥。」
「なのに、なんで、なんであの子が‥‥!!あんな目にっ!!」
「‥‥。」
私には黙ることしかできない。
妹さんは本当に無惨に殺された。失踪したのは今から3年前。それが見つかったのは2年前だ。この間犯人に誘拐されていたと見られている。
本当に酷かったらしい。弄ばれたかのようなそれがゴミを捨てるかのようにあのイヴォンさんと会う廃墟で見つかったらしい。亜人共との戦争に参加する私も吐き気がするほどひどい扱いだった。
他の子供も同じような状況で見つかっている。ただ、最初の被害者と一線を画しているのは失踪期間が長かった、ということだ。大体3日も持たずに見つかっている。
だから最初の被害者は違う犯人なのではないのかと思われていた。しかし、殺されたのが緑の目の子供であること、殺され方が同じだったのと、どちらにも見つかった『愛のために』という壁に書かれた文字があったため、今は同一犯として見られている。
「あの子はいい子‥‥。いい子なのよ‥‥。」
うわ言のように呟く
絶対に犯人を見つけなくてはいけない。でも見つからない。このジレンマを感じながら、それでも勇気づけなくてはと口を開く。
「大丈夫です。私達が犯人を見つけます。」
こんな気休めにもならない言葉に。
「ふふ‥‥。あははっ!!」
彼女は笑った。
戸惑いつつ彼女を見ると、彼女は口を笑みの形に歪めていた
「違うのよ。エリースさん‥‥。」
「イヴォンさ、ん‥‥?」
「ねえ、あなたの出身村、教えてくださらない?」
「え‥‥?む、村、ですか?」
突然笑いだした彼女を不気味に思いながらも彼女の問に答えようと口を開く。
「ミュゲ村、です、けど‥‥。」
「『ミュゲ村』‥‥。本当に‥‥。『エリース』、なの、ね‥‥。」
「イヴォンさん、さっきから本当に変ですけど、大丈夫‥‥、ですか?」
あははっと笑いながらもその目はどこかしら虚ろだった。
「大丈夫?いや、もう。私は‥‥、妹がああなってしまったときから狂ってしまったかもしれないわね。」
「イヴォンさん‥‥?」
「ああ、変なことを言ってごめんなさい。それじゃあ、私は急いでいるので。」
「は、はい‥‥。」
そう言うと、手をひらひらと振ってイヴォンさんは私が今通っていった道へと歩いていった。
「イヴォンさん、大丈夫かな‥‥。」
’’妹’’という存在がいたことがないから、イヴォンさんの心情そのものを理解は出来ないが‥‥、でも家族が、私にとっての『お母さん』みたいな存在が殺されてしまったと考えるだけでも気が狂いそうだ。
でも、そのままでいることがよいこととは思えないけど‥‥。
そんなことを思っていると、私より少し上ぐらいの年頃の男の子が息を切らしながら私に向かって、
「おいっ!そこのお前っ!!その顔と格好!!お前があの勇者のお供の魔術師か!?」
と叫んだ。
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