第25話 神様降臨!!

イチイちゃんを呼びにディーさんが部屋から出ていったあと、私はため息をついた。



「なんで‥‥‥。」



なんでこんな大事な記憶を今まで忘れていたの‥‥‥?



あれは確か、亜人以外で初めて人を殺したときの話だ。


私は人を‥‥‥、殺した。



でも、なんで‥‥‥。なんで私はあんなにも後悔していたの?わからない。あのイチイちゃんのような人は誘拐殺人事件を引き起こした犯人でしょ?だって夢で見たのとかがそれを示していたし、記憶の中でもそんな感じだった。


それなら別に殺されて当然じゃん!なんで‥‥‥?初めてだったから?こんなにも手が震えるの?でも、なんで私はこんなにも死にたい気持ちになるの?



なんで‥‥‥。



そのときだった。



【おや?封印が少しだけとけたようじゃな?】


「っ!?か、神様‥‥‥。」



あの時間を巻き戻した神様の声が再び聞こえてくる。あれはやっぱり幻聴じゃないんだ‥‥‥。



「復讐させてくれてありがとうございます。神様。」


【神?‥‥‥まあ、よかろう。妾への恩を忘れていないようで何よりじゃ。これからも妾への恩を忘れるでないぞ?さて、今日は混乱していることを妾直々に教えてやろうと思ってじゃな。誇りに思うがよい。この妾直々に、じゃぞ?】



誇らしげな様子の中性的な声が聞こえ、私は質問をすることにした。



「じゃあ神様。なぜ私の記憶が消えていたのでしょうか‥‥‥。」


【ふむ。妾が時間遡行したとき、『復讐したい』というお主の記憶が残るように調整した。したのじゃが‥‥‥、どうやらそれがよくなかったようじゃ。】


「というと?」


【ううむ‥‥‥。妾があまり話すとややこしくなってくるのじゃが‥‥‥、まあ、簡単に言えばお主が妾の’’力’’の影響を受けすぎたのじゃ。だから、お主の記憶が婉曲してしまいそうなのを守るためにお主が無自覚に記憶を守ろうとお主の魔力が発動してな‥‥‥。お主の記憶がぼんやりしているのじゃ。】


「で、でも、私が今までに勇者にされたことは覚えています!!」


【ぼんやりと、じゃろ?ほれ。よく思い出してみるのじゃ。】



勇者に、されたこと‥‥‥。私は確かに勇者さまにひどいことをされた。された、のに‥‥‥。あの復讐を決めた日とさっき思い出した内容しか、勇者様の嫌なところを思い出せなかった。


あとは『嫌なことをされた』ということしか覚えていない。具体的な行動を何一つとして思い出せないというのに。



「ほ、本当に、思い出せない‥‥‥。」


【そうじゃろ?おそらく、本当におそらくじゃがお主の根源を表す記憶が特に強く封じられていると思うのじゃ。】


「根源、ですか?」


【そうなのじゃ。お主は今、過去の体に戻っておる。しかしお主の精神はそのさきを知っている、経験しておるじゃろ?この矛盾に加え、妾の力が加わることによって‥‥‥、と難しい話になるため割愛するのじゃが、まあこの矛盾と時間が反発し合っていて、その反発の影響を無自覚にお主が感じ取って先にも述べたようにお主の記憶が、特に矛盾を感じさせるような記憶、つまりお主の精神的に成長させたような出来事が魔力によって封印されているのじゃ。】


「は、はあ‥‥‥。」


【まあ、お主に口頭での説明で理解させようとは思ってないわい。ただ、これだけは覚えておけ。お主の根源となる記憶は封印され、いつ解けるかは妾にもわからぬ。】


「そう、ですか‥‥。」


【まあ、お主に心当たりがあるなら別じゃがな。ほれ?ないのか?お主の記憶が解けた原因じゃ。なぜお主の封印が解けた?】


「‥‥‥わからない、です。あ、でも‥‥‥。‥‥‥確か、夢を‥‥‥、みたん、です‥‥‥。過去の夢を。その後、勇者のことを考えていたら‥‥‥。なんだか知らない記憶が‥‥‥!!」


【ふむ。となると‥‥‥、夢を見て、ある条件が揃ったときに封印が解けるようじゃな。っと、時間じゃ。そろそろ妾は消えるぞい。】


「ありがとうございました‥‥‥。」


【ふむ。まあ色々と自分で検証するがよい。最後の置き土産に一つ教えてやろう。お主の魔力暴走は時間遡行の効果じゃ。上手く活用することじゃな。下手したらその力は世界を壊してしまうからな。】


「っ!!」



『『巫子』様と張り合えるぐらいの大きな力を持ってしまっている。』『それは、この世界にとってよくないことなんだよ。』


いつぞや神父様がおっしゃったことが思い返される。やっぱり私はいちゃいけない存在なんじゃないの‥‥‥?



【こほん、妾が言いたいのは‥‥‥、それじゃない。だからといって気を負いすぎるな、ということじゃ。たとえお主が数多の、それこそ世界中の人間に『化け物』だと罵られようと、『デモン怪物』だと蔑まれようと妾はお主が人族であることを認めるのじゃ。そ、それじゃあ妾は行くのじゃ!!達者でな、なのじゃ!!】


「神様‥‥‥。」



心を読み取ったのか、その神様のフォロー‥‥‥、お母さんのように温かい言葉に不覚にも泣きそうになった。


不安だったのだ。神父様に殺されそうになって、自業自得だけどヴァンも見捨てて。そんななか、声だけだったのに、優しく抱き込まれて頭を撫でられるような、そんな。


神様って、人間っぽいな‥‥‥。神様には申し訳ないが、そう思ってしまった。



でも、私には神様の他にこうやって優しく私を受け止めてくれた人がいた。‥‥‥ヴァンだ。


心の奥底にしまった本音が、神様によって引き出された感傷で出てきまいそうだ。



__本当はヴァンと一緒にいたかった。


ヴァンが捕まるときに思った『人族の騎士団といたほうがいい』なんてはとっさに出た言い訳だ。嘘だとも思いながらもそれを認める自分もいる。私は、ヴァンと旅がしたい。我儘言っても複雑な事情を抱え込んでいても受け止めてくれたヴァンと‥‥‥、たとえ亜人でも‥‥‥、私は、一緒にいたい‥‥‥。


でも、駄目だ。亜人だという差別意識だけで私はヴァンと離れたかった。いつしか私はヴァンのことを好きになってしまうから。ヴァンと旅を自主的にしたくなるから。


それじゃあ駄目だって、プライドが変に出て‥‥‥。


それに、私は‥‥‥。


感傷に浸りすぎたのか、私はノック音に気が付かず、ガチャリというドアでようやく気配に気がつく。


「エリース、ちゃん‥‥‥。騎士さまは用事があって外されていますのです。」

「分かった。ありがとう、イチイちゃん。」



そこにはイチイちゃんの姿があった。記憶を思い出した中、会うのはたいへん気まずいがでも彼女はまだ何もしていないから拒めない。



「イチイは悪い子だったですか?イチイはエリースちゃんにいけないことしたですか?」

「イチイちゃん?何言って‥‥‥。」



言葉の途中で心当たりがでてきて、あっと言ってしまう。


私は‥‥‥、『触らないで』と、何も悪くないイチイちゃんに言ってしまった‥‥‥。きつい言葉だったし、幼い彼女を傷つけてしまったのだろう。



「あ‥‥‥、イチイちゃん、ち、ちがっ‥‥‥!!」

「イチイとエリースちゃんはもう『おともだち』じゃないのですか?」

「違うの!!イチイちゃん!!イチイちゃん!!ごめんっ‥‥‥!!昔の記憶が‥‥‥、イチイちゃんと、被っちゃって‥‥‥。本当にごめんなさいっ!!」



思えば、この町で人が殺されたようなどんよりとした空気はなかった。それに誘拐殺人事件が起こるのは今から3年ぐらいあとの話だったはず。今のイチイちゃんはたとえ犯人でも、今は違う‥‥‥。まだ起こしていないし、それに今回も同じ事件を起こすかはわからない。


『巻き戻る前で起こり得なかったことが今普通に起こるんだ。』


そう、ヴァンが言っていたのに‥‥‥。



「本当に、ごめん‥‥‥。」

「‥‥‥じゃあ、血をくれたら許しますのです。」

「?!‥‥‥血?!」

「そうなのです!!」



え、この子怖い‥‥‥、何血を求めてんの!?やっぱりこの子が犯人じゃん‥‥‥。


すると、イチイちゃんが『しまった』という顔をしてから、唸った。



「うう‥‥‥。エリースちゃん‥‥‥。私の秘密、知ってしまったのですね。」

「いや、知ってしまったと言うか、イチイちゃんが勝手に自爆しただけでしょ!?」

「いいです。こっちに来てください。」

「‥‥‥!?」



でも、事件が起こるのは3年後だから大丈夫、だよね?


それにイチイちゃんに事件を起こさせるのを防げるかもしれない。何がきっかけかはわからないけど、犠牲になる人が少しでも減ればそれがベストだ。




*****


「着いたのです。」

「ここは‥‥‥?」



私が覚悟を決めてついていったのは、門から出てすぐのところにある、いかにも、といった感じの廃墟だった。



「入ってください。仲間がいます。」



な、仲間‥‥‥?もしかしてもう殺人の協力者を!?は、早すぎる!!3年じゃないの!?これは‥‥‥、うかうかしてられない。制圧しなければっ!!



「さあ、入ってください。」

「お邪魔しま〜す‥‥‥。」



廃墟の割には立派な扉を入ってみると‥‥‥、そこには、



「っ!!」



血塗れの子どもたちが目を閉ざして寝転んでいた。



「これはっ!!」



まさか間に合わなかった!?そんな!!事件は3年後のはずじゃないの!?時間が早い!!そうか、巻き戻った前で起きなかったこともあれば、早くなることもある。そんなの当たり前!!


犯人のイチイちゃんは?!


と、振り返ると‥‥‥。



「い、いない‥‥‥。」



どこに消えたの!?後ろをいくら見てもいない‥‥‥!!いつの間に消えたの!?


そのとき、カサリという音がなり私は少しだけピクリと肩を震わせた。


その音のなったほう‥‥‥、前方を見ると、




「わあああああああああああっっっっっ!!!ゆ、ゆゆゆゆゆゆゆ!?!?!」




この世にいないはずの血塗れの子どもたちが一斉に私の目の前、眼前に現れた。

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