第7話 技術提携!!


そして私達は焚き火にあたった。


「とりあえず、今日は夜遅いし野宿して、そして明日にでも近くの街に行くぞ。」

「分かりました。ヴァン。ところであなたの荷物はどこにあるのですか?」



思ってみればヴァンは持ち物が少なく見える。持っているものは簡単な青色の手提げ一つだ。



「ああ。これは『オブジェクトバッグ』。この手提げに商品だの生活に必要なものなんかは全部入れられるんだ。しかも重さは『オブジェクトバッグ』のぶんだけ!これも商品のうちの一つなんだ。」



そういうとヴァンはその青色の手提げから食料と思われる干し肉と黒パンをだした。



「ほら、これ食え。固くても我慢しろよ。」

「私は時間が戻る前、旅をしていたんです。食料があるだけマシです。」

「おいおい‥‥‥。嘘だろ‥‥‥。食料があるだけましって‥‥‥、旅の準備はどうやってしていたんだ? 食料がなくなるなんて、手提げをなくしたのか? 」

「そもそもこんな便利なもの、なかったのです。」



そう、『旅の準備はかさばるもの』、それが人族の共通認識‥‥‥、だった。巻き戻る前は。


何故ならヴァンが語る商品自体が人族にないものだ。人族には、できなかったことだ。



「嘘だろ‥‥‥。これは旅人の間では必要不可欠だ!! 」

「これは‥‥‥、亜人の技術なんですか? 」



だとしたらなんて恐ろしいものを持っていたんだろう‥‥‥、亜人というものは。


でもそれだったら時間が巻き戻る前にあった、人族との戦いのなかで使われていたはずだ。武器などの搬入も『オブジェクトバッグ』と呼ばれるもので簡単に大量に使えるだろう。その分、戦力もあがり‥‥‥、もしかしたら人族は勇者が魔の皇帝を倒すまでに亜人に負けていただろう。


しかし、その様子を確認されたことはない。人族のような運搬方法をしているようにしか見えなかったのだが‥‥‥。


「いや、違う。これは人族とお前のいう亜人たちの技術提携でできたものだ。」

「人族と、亜人が‥‥‥? 」

「そうだ。色々な種族が力を合わしてできたものだ。決して一つの種族だけではない。」



人族と、亜人が‥‥‥、協力した‥‥‥?



「これで分かったろ? お前の言う亜人と協力するのが一番だ、」

「少し、その手提げを貸してください。」

「おお! 見るか? ちびっ子? 」


私はそれオブジェクトバッグを受け取って一通り見ると‥‥‥、


「‥‥‥こんなもの。」

「は‥‥‥?」


それを焚き火の中にポイッとした。



あ、すぐ燃えた。よしよし、炭になってる。




あ、そういえば話ししてたからご飯食べてなくてお腹すいたな‥‥‥。黒パンと干し肉どっち先に食べよう‥‥‥。黒パンあるなら水がほしいな‥‥‥。



「おいいいいいいい!!!!!!!!! ふざけんな!!!!!!! ちびっ子おおおおおおおおお!?!? 何しとんじゃ我ええええええええええええええ!! 中に入れたもの取り出せないじゃねえかあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

「(もぐもぐもぐ)」

「無視して干し肉を食うなあああああ!!!!!!!!! 質問に答えろよおおおおお!?!? 」

「(もぐもぐごっくん)うるさいです。ヴァン。」

「誰のせいだと思っているんだ!? 」

「明らかにヴァンのせいです。」

「俺のせいじゃないよ! お前のせいだよ!! 」



やれやれ‥‥‥。いきなりうるさくするなんて、全くうるさい人ですね‥‥‥。このうるさい人はどんだけうるさくすればいいのでしょうか。ああ、うるさいうるさい。



「あ、水ください。黒パンを食べたいので。」

「普通に注文オーダーするな!! そして水はお前が火に焚べたあの手提げかばんの中だよ!! 」

「え。先に言ってくださいよ。水を取り出してから火の中に入れたのに。」

「ふざけんな!! なんでオブジェクトバッグを火の中に入れるの前提なんだよ! 」

「使えないな‥‥‥。ヴァンは本当に使い物にならない無能な亜人ですね。」

「なんで俺、こんなこと言われなきゃいけないんだよ! 一番使い物にならないのはお前だからな!! これからどう旅をしていくんだよ!! なんで俺はコイツと旅をしているんだ!? 」



『それはあなたが誘ったからですよ』って言った瞬間、理不尽にはっ倒されそうな気がするから、黙っておこう‥‥‥。



にしても、本当にこの亜人は使えない‥‥‥。私の水さえ用意できないなんて‥‥‥。本当に私と旅をする気があったのかな?



しょうがないから黙って硬い黒パンの一部を乾いた口で必死に噛みちぎった。それにしても‥‥‥、うう‥‥‥。もうちょっとほしい‥‥‥。



「おかわりください。ってああ。手提げの中でしたね。ではヴァンの分をもらいますね。」

「何勝手に俺の分を食おうとしているんだよ!お前は。」

「(ごっくん)美味しかったです。」

「なんでお前はそんな当然そうな顔でそんなひどいことができるんだよ!!」



私よりも少食なのか、私の半分のサイズだったためサラッと食べれた。まあまあ悪くない味だった。そんなことを思っているとヴァンが唖然とした顔でこちらを見ていた。




そう思っていたら‥‥‥、あ〜あ、泣いちゃった。



私はもう知〜らないっ!


だって私悪くないもん。悪いのは私が食べ終わったことをちゃんと見ていたにも関わらず奪われないようにガードしていないヴァンだ。



にしても、時間が巻き戻る前のあの鬼畜だったヴァンが、ね‥‥‥。こんな泣いちゃうなんて‥‥‥、



「‥‥‥ざまあ。」

「‥‥‥なんか、グスッ、言った?」

「いえ、何も。」



さあってと。寝るかな。


私は別に土の上に寝ることなんて構わないし。うるさいのさえいなければ寝心地がいいだろうな‥‥‥。なにせ、凸凹な道で寝ることもあった。そのときは本当に寝心地が悪いし、デモンが時々襲ってくるから散々だった。



「うう‥‥‥、ね、寝ないでよぉ‥‥‥。ちびぃ、子‥‥‥。」

「おやすみなさ〜い。」

「え、グスッ、うう‥‥‥。ひどいぃ‥‥‥。」



ゆらゆら私を泣きながら起こそうとするヴァンを無視してスヤスヤ‥‥‥、といくわけにはいかないよな‥‥‥。当然、泣き声が鬱陶しくて寝れるわけがない。



私は一回起き上がることにした。



「ヴァン。」

「ん‥‥‥? 何‥‥‥? ヒック。うう‥‥‥。」

「女言葉に変わってますけど大丈夫なんですか?」

「‥‥‥もう、寝る。」

「そうですか。」



やっと静かになったか‥‥‥。そう思ったのはつかの間だった。



そう言ってヴァンは私の座っているところの隣に寝転がったけど‥‥‥。なんか、隣で『グスッ‥‥‥』『お腹、すいたぁ‥‥‥。』という言葉が呟かれていることに、なんかこう『むう‥‥‥。』っとなってしまう。言葉ではうまく表せられない感じ。



「はあ‥‥‥。ヴァン。」

「な、何‥‥‥? うう‥‥‥。」

「はい。これ。早く静かになってくださいね。」



辟易した私は黒パンを差し出した。



「えっ‥‥‥? これ‥‥‥、食べたんじゃないの? 」

「干し肉は、ですね。育ち盛りだからもらいましたけど、黒パンは明日食べようと思っていたのでヴァンのぶんと私の分の一部、残してありますよ。まあ、ヴァンの様子が面白かったので、持っていたきれい手拭いで黒パンを隠してたんです。」

「‥‥‥」



それでも恨めしそうに睨むヴァンに私はため息をついた。亜人にこんなこというのはいやだけど‥‥‥、まあ、私が悪かったのも事実だ。



「まあ‥‥‥、悪かったですよ。ごめんなさい。」



そういうと、一瞬うつむいたヴァンが勢いよく、顔を上げて‥‥‥、笑った。



「は?」

「‥‥‥ぷっ! あはははははは!!! まさかこんな簡単に引っかかるなんてな! ぜ〜んぶ泣き真似だよ! お前に謝ってもらうためのな! 」

「‥‥‥寝ます。」

「おうおう! 寝ろよ! そ・だ・ち・ざ・か・りのガキ! ははははは!!! いや〜、ちびっ子にも人間の心があったなんてな!! 」



ああダメだ‥‥‥。滅茶苦茶ムカつく!! バカにしたように、いや、バカにした笑いに私はとてつもなく怒りが湧いてきた。


私がオブジェクトバッグを炭にしたことの仕返しなんだろうけど‥‥‥。 仕返し返しをしたい‥‥‥。このままじゃ今日を終われない‥‥‥!!



‥‥‥あ! ヴァンは普段、男の人の格好をしているけど、『訳あり』ってことは好きでしているわけじゃないんだろうな‥‥‥。なら。



「‥‥‥ヴァン。一ついいですか。」

「ん? 何だよ? そ・だ・ち・ざ・か・りのちびっ子ちゃ〜ん? くははは!」



いらってするのを無視して攻撃を仕掛ける。



「ヴァンは随分女言葉が可愛らしかったですよ。ギャップっていうんですか? とても可愛らしいと思わず思ってしまいましたね。」

「へあっ!? や、やめろよ!! そ、そんな思ってないこと‥‥‥。はは‥‥‥、じょ、冗談でしょう‥‥‥? 」

「いえ、とても愛らしいです。普段のがさつとしか見えないその口から吐き出されるその言葉は小鳥がさえずるが如く‥‥‥。」

「や、やめて!やめてよぅ‥‥‥! は、恥ずかしいから‥‥‥!! 」



よしよし効いている‥‥‥!! きっと女の子の姿を褒められるのにはなれてないだろうなとは思ったけど当たりだった。



「‥‥‥寝ようぜ。ちびっ子。一時休戦だ。」

「はい。そうしましょう。」



お互いにダメージを等しく与えた私達は精神的に疲れていた。


普通はこういうとき、寝ずの番を誰かがするがデモンはこんな草原に現れることも少ないし、こんな見晴らしのいいところで盗賊なんかは現れない。それらの心配もなくゆっくり眠れそうだ。そう思うとなんだか少しウトウトしてきた。すると私の眼前にヴァンが現れた。



「なあ、ちびっ子。」

「私はエリースです。」

「ちびっ子。」



なんなんだ。コイツ。



「そんなに嫌かよ‥‥‥。亜人と人族の共栄っつーの。」

「‥‥‥いや、です。」



ヴァンはきっと気がついていたのだろう。私がオブジェクトバッグを焼いたのは亜人と人族の共栄している象徴のようで嫌になったこと。否定的に思っていることに。



「頑固かよ。でも、こうすれば戦によって死ぬ人がでない。技術が発展する。種族同士が短所を補うことでデモンの討伐も進む。敵対するよりもよっぽどいいと思うがな。」

「でも‥‥‥。」



あ、眠い‥‥‥。視界がグニャリと曲がってヴァンの顔がまともにみれない。それでも必死に見ようと頑張るが‥‥‥、うう‥‥‥、見えない‥‥‥。亜人より先に寝るなんて、亜人にスキを与えるようで嫌、なのだが‥‥‥。



「分かった分かったもう喋るな。眠れよ。今日はいろいろあったもんな、ちびっ子。おやすみ。」

「おや、しゅみ‥‥‥。」








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