n=25 足音
Yさんが中学生の頃の話。
塾から自宅への帰り道に、人気のない小さなトンネルがあった。そこを迂回して帰ることもできるのだが、そうしてしまうと自宅までの距離が一気に伸びる。それゆえにYさんは嫌々ながらもそのトンネルを利用していた。
日没の早くなった冬のことだ。Yさんが塾を出たときには、既に日が沈みきっていた。
街灯と往来がまったく無い道を進むと、真っ黒い口を開いたトンネルが見える。10mにも満たない、短いトンネルのはずだが、その奥は伺えない。向こう側の道にもろくに街灯がないせいだろう。
脈打つ心臓を抑え、トンネルの中に足を踏み入れた。
コツ、コツコツと地面を踏む音が反響する。まるで目に見えない何かが、自分の周りを取り囲んで歩いているようだ。
つい、自分の後ろが気になる。目が届かない範囲に何かいるんじゃないか、そんな恐怖が心の中で燃え立つ。
だが振り向きたくはない。振り向いてしまうと、自分が怖がっていることを認めてしまう。後ろに何かがいるかもしれないと認めてしまう。
その時だった。
バタバタバタバタ!
何か重たいものが走るような音がトンネル中に響く。
Yさんは反射的に駆け出した。闇雲に走り、駆け、何度も転びそうになりながらも這々の体で家に帰り着くことが出来た。
今思い返すと、子供に暗い夜道歩かせるなんてどうかしてますよね。
Yさんはそう語った。
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