奇談n景
@nohouzu
n=1 畑の白バン
Aさんは子供の頃、父方の祖父母の家に預けられていた。そこはかなりの田舎で、同年代の遊び相手などはいなかった。そのためAさんはもっぱら野山を駆け回り、一人遊びに興じていた。
ある日、Aさんは祖父母の畑の近くで遊んでいた。祖父に作ってもらったパチンコ(スリングショットのことを田舎ではそう呼ぶ)で木の実を撃ち出し、柿の木にヒットさせていると、近くの草むらから何かが地面を擦るような音が聞こえてきた。
Aさんは動物かと思い、ゆっくりと草むらに近づいた。畑を荒らしにきた猿なら自分が退治しなければ、Aさんは幼いながらにそんな義務感に燃えていた。
草むらから現れたのは日本人形だった。ズッズズズッ…と音を立て、仰向けになった日本人形が草むらから出てきていた。その動きは非生物的で、まるで背中にタイヤでも付いているかのようだった。
日本人形の長い髪の毛は掻き上げられており、人形本体と草むらの間を繋いでいる。そして、髪の上にミニカーが乗っていた。白い箱バンのミニカーだ。
仰向けの日本人形が動き、その髪の毛の上にミニカーが乗っかっている。あまりに理解不能で不条理な光景に、Aさんは怯えることしか出来なかった。
結局その後、何をどうしたのかよく覚えてないんです。
Aさんはそう語った。
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