第20話 不死王

宴が催されてから数ヶ月。その間は黒竜戦に向けて魔物を倒し、スキルを獲得することに費やしていた。


今、ノアはエイプの村に住んでいるのではなく、森で野宿をしている。これも修行、もとい訓練の一環として行っているが、そろそろ安全な睡眠というものが恋しくなってきた。なので拠点を定めることにしたのだ。


しかし、この森の中はほとんど全域がSランクの魔物の縄張りになっている。それが"死を呼ぶ森"の由縁でもあるのだがノアにとってはまったくの不都合でしかない。


それを見越してノアがとった行動はその一帯を縄張りにしているSランクの魔物を倒して縄張りを強奪する、という方法だった。


そして今現在ノアはS−ランク不死王リッチとの戦いに臨んでいる。


(やっぱり最初の敵は不死王リッチにして正解だったな)


不死王リッチの周りに湧いている大量のスケルトン達を薙ぎ払いながらそう考える。闘気を込めて剣を振るうだけで何体ものスケルトンが粉砕されていく。


ノアが縄張りを奪うのに不死王リッチを選んだのには理由がある。主な理由としては不死王リッチそのものの戦闘力に起因している。不死王リッチは配下であるスケルトンの数こそ多いが、本体の魔法は基本的にAランクの冒険者と大差がないくらいなのだ。取り巻きさえ倒すことが出来ればそこそこの実力者ならなんとでもなる。それがノアが不死王リッチに下した評価だった。


実際ノアのこの判断は間違っていないが、取り巻きのスケルトンをどうにか出来る人間はあまり多くはない。剣士なら先に体力の限界がくるし、魔法使いならば先に魔力の限界がくるだろう。それほどにはスケルトンの量と質は高い。


スケルトンを倒しながら不死王リッチ本体を叩く算段を整える。風魔法と剣技で周囲のスケルトンをあらかた倒すと、一気に「空歩」を使って飛び上がる。その際、シャドウカメレオンから獲得したスキル[隠密]を使用してスケルトンから気を晒すのも忘れない。

そして、奥にいる不死王リッチ目がけて疾走する。


しかし腐ってもS−ランク。殺気を感じたのかすぐにノアの姿を発見する。


(気づかれた?でももう手遅れ..!)


そう考えて更に速度を上げるも、不死王リッチが何事かを呟くと地面が盛り上がり、巨大な何かが飛び出してくる。


「!...ボーンドラゴン!」


飛び出してきたのはAランクのボーンドラゴン。竜種の死体を不死王リッチが蘇らせたのだろうそれは本物程ではないが凄まじい瘴気を辺りに撒き散らしている。


「.....上等!」


ノアは更に速度を上げる。あまりの速度に体が軋むが加速をやめる気配はない。剣に闘気を込め、[剛腕]を発動させる。そして思い切りボーンドラゴンの顔を突く。


[超刺突]と[剛腕]の効果が相乗した突きの威力は凄まじかった。一撃でボーンドラゴンの顔面を陥没させる程だ。


不死王リッチは一瞬でボーンドラゴンが倒されたことに驚いているのか魔法の発動が数秒遅れる。されど数秒。ノアにとってその数秒は不死王リッチを切り裂くには充分な時間だった。


全身を斬られた不死王リッチが消滅すると周囲のスケルトン達やボーンドラゴンも消えていく。辺りから淡い光が立ち上っていく様子は不死の王を倒したにしては幻想的な雰囲気を醸しだしていた。


「さて、今回獲得したスキルはっと」





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神話級能力ミソロジースキル 叡智之神メーティス


叡智之神メーティスに含まれる権能


解析  身体強化(現在強化率5.5倍)


コピーしたスキル 

・神速  ・鉄身  ・豪脚  ・超貫通

・五感強化  ・剛腕  ・糸操  

・毒精製  ・毒耐性  ・夜目  ・遠視

・天進流武術  ・鍛治  ・隠密  

・同化  ・直感  ・睡眠耐性

死影契約ネクロマンス(NEW)

・魂操(NEW) ・並列思考(NEW)


コピーした魔法

・地槍  ・召喚


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「おお!結構増えた。気になるのは[死影契約ネクロマンス]と[魂操]だな。」


スキル欄をタップし、詳細を確認する。


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死影契約ネクロマンス


自分が、もしくは自分の意思が介在して殺した生物の魂を配下として使うことが出来る


       現在契約数(0/10)


_________________________________________


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魂操


契約を交わした魂を操作することが出来る。また、魂の存在を知覚出来るようになる。


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「契約....ね。どうやって結ぶんだ?やっぱ言えばいいのか?」


不死王リッチの死体があった場所に向かってスキルを唱える。


「[死影契約ネクロマンス]」


すると浮かんでいた光の粒子が集まり、黒く変色しながら不死王リッチをかたどっていく。黒い光が離れて現れたのは生前(?)よりも少し小さくなった不死王リッチ。ノアの前に跪き、頭を垂れている。


「うぉっ!びっくりしたぁ。前とあんま変わらないな....。てかなんで跪いてるんだ?」


「........」


(喋ることは出来ない....のか?)


「あ、そうだ。お前さっきみたいにスケルトンは作り出せるのか?出せるならやってみてくれ」


不死王リッチは僅かに頷き、手を前に掲げる。そこから無数のスケルトンが精製され、あっというまにスケルトン軍団が出来上がった。


「おおー!これができるなら契約したかいがあったってもんだ。お前一人でかなりの兵力が確保できる」


ノアが歓喜に震えていると頭の中でシステム音が鳴る


ピロン!


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不死王リッチに名前をつけてください


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「名前?不死王リッチは...種族名か。んーなにがいいかな?」


なかなか思いつかないのか顎に手を当てて歩き回り始める。


「うーんそうだなあ。んー?そうだ!"モルス"お前の名前は"モルス"だ!」


名付けるとまるで喜ぶかのように顎を震わせる。


「じゃ、名付けも済んだことだし家作り始めますか!モルスはどうする?」


当初の目的通り家作りを始めるが、不死王リッチに筋力的な支援は期待できない。なのでどうしているかを聞くとモルスはノアの影の中に沈んでいく。


「おお!?影の中に入れるのか!?だから[死契約]..。便利だなーこれ」


モルスが影の中に完全に入っていくのを見届けるとノアは家づくりを再開するのだった。






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あれから一年と少し。竜の渓谷の奥で、ノアは黒竜の前に立っていた。身長が伸び、体つきも細身ながらがっしりとしている。この数年間のトレーニングの賜物だろう。


黒竜がノアを認識したのを見て口を開くと


「黒竜。リベンジマッチだ」


と呼びかける。


『矮小な人間ごときが我に勝負を挑むか?』


黒竜は頭の中に直接語りかけてくる。


「やってみなければ結果はわからないだろ?」


返答し、剣を構える。


『愚かな。貴様の傲慢さは破滅を招くだろうよ。その身に我が爪と牙をもって己の矮小さをわからせてやる!』


ここに、戦いの火蓋は切って落とされた。

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