第18話 驚愕の事実
カフェにアパレルショップと回ってすっかり放課後の時間を使い果たし不審メールの調査は日を改めることになった。
そして、次の日、再び同じ場所を巡るのか、別の場所を巡るのかそれすらも明かされずに、泉からは今日も俺の家を集合場所として指定された。
どこで知ったのかは知らないが、梓が部活でいない時間を的確に狙っているあたり、なにか盗聴器でも仕掛けられているのではないかと疑いたくなってしまう。
「それで、彩さんも来たし、今日はちょっと別の所の調査に行こうと思うんだ」
彩がやって来てすでに制服姿になっている泉はそう言った。泉が借りている制服は卒業した先輩のものらしいので借り受けている泉は家から制服に着替えてきたらしい。
「どこに行くのかしら?」
彩は怪訝そうにそう尋ねた。普通は彩の心当たりのある場所にいくのだろうから、俺も同じ気持ちだった。
「ふふ、放課後の高校だよ」
泉の言葉に俺は思わず、大丈夫かよ。とつぶやいた。
*
結果から言えば、今、俺達は彩の通っている高校の正門にいた。
「ほんとに大丈夫なんだろうな?」
俺は、横にいる彩に尋ねた。
「大丈夫だと思うわよ。練習試合で他校の生徒もよく来るし、放課後なんか他校の生徒や近所の人たちががうちの部活を応援しに来たりするし」
俺はそう言われて商店街の宣伝CMの舞台となったらしい敷地を見る。
たしかに、ちらほらと、別の高校の制服や私服姿の人らが見えた。
「なんかあったら頼むぞ、彩」
そう言って頼むと彩は面白そうに言った。
「いや、知らない人のふりをするわ。それか、あなたの今着ている、
「いや、本気で捕まるからやめてくれ」
そう言って、マジトーンで返すと、彩は目を細めて笑う。
「冗談よ、多分ね」
「おい……」
久しぶりに中学のときのように話せて、悪くないなと思っていると、珍しく気を利かせてくれていたのか静かにしていた泉が言った。
「じゃあ、彩さんの教室に行ってみようか」
泉の言葉に俺たちは彩の教室へと向かっていった。
*
「というか、犯人が仮に学校関係者だったとして、放課後に犯人を特定できるのか?」
俺たち以外誰もいない彩の教室の中で、俺が疑問に感じてそう言うと、泉はパソコンを操作しながら、言った。
「多分、大丈夫だと思うよ」
そう言うと、泉は俺と彩をちらりと見てから、ニヤリと口角を持ち上げて言う。
「パスワードレスのWiFの中に怪しい通信をしているネットワークを発見したよi
そう言うと、ちらりと教室を見回して続ける。
「この壁の感じだと、おそらく、半径50m以内といったところかな」
そう言うと、泉は確認するように彩に尋ねる。
「それで、捕まらない程度に懲らしめるってことでいいんだよね?」
泉がそう尋ねると、彩はうなずく。
「お願いするわ」
それを聞き遂げると、泉は言う。
「同じネットワークに接続すれば、こちらの防備も手薄になるけど、
そして、泉はパソコンのエンターキーをパチンと押した。
「ぬあああああああああああああああ!!」
少し遅れて、隣の教室から野太い男の声が聞こえて来た。
その声に俺たちは隣の教室へと向かい、教室のドアを開け放った。
「拙者の、拙者のパソコンが!
教室では小太りだが、どこか憎めないような、そんな容姿の男子生徒が真っ赤な画面になったノートパソコンの前で悶ていた。
「お前、自分で開いたネットワークにつないだ人の通信を傍受してただろ」
俺がその男子生徒を問い詰めると、ぽろぽろと涙を流していた男子生徒は首をこちらへと向けてきた。
「なんで、それバレてるの?」
男子生徒が驚愕の眼差しでこちらを見てきたので、俺は専門的なことはなにも分からんと、隣にいる泉に丸投げする。
「君が、通信を傍受できているということは、それなりの技術を持っている人からすれば逆に君の通信を盗み見れるということなんだよ。どうも、君は一般に公開されているツールを使っているだけの人みたいだけどね」
「もしかして君、VTuberのチチちゃん? メールを盗み見て、VTuberの人だと気づいたから応援メールを送ったのを怒ったの?」
その男子生徒はそう言ってがっくりとうなだれる。
「ごめんなさい。本当に応援するつもりでやったんだ」
「いや、文面かなりキモかったぞ。ほんとストーカーとしか思えないくらい」
俺が、そう指摘すると、その男子生徒はさらにうなだれる。
「それで、こいつ許すのか?」
この男子生徒にはどうも危険性はないようだと思ったので、そう言って、俺は確認をとるように彩の方をみた。
「もしや、そちらの髪の短いお嬢さんではなく、こちらの長いお嬢さんがチチちゃんでありますか!? あの癒やし系ロリボイスで、世の男性視聴者を癒やしておられるのがこちらのクール系お姉さまなのですか!?」
その言葉に悩むような表情だった彩は急速に氷点下の表情になると、言った。
「許さないわ」
彩がそう言うと、泉はどこか満足そうな表情になるともう一度エンターキーを押した。
*
「それで、泉は結局何をしたんだ?」
文字通り意気消沈といった風にピクリとも動かない男子生徒を前に俺はそう泉に尋ねた。
「ウイルスだよ。はじめのエンターキーは権限の強奪。許さないとのことだったので次にパソコンの全データの削除をしたってところかな」
泉は恐ろしいことをさも当然のように言った。俺は、それを聞くと、意気消沈した男子生徒から距離を取るように立っている彩を見た。
「これで復讐は済んだな」
「ええ、これでもう悪さをしないでくれればいいのだけれど」
彩がそう言って、男子生徒の方を見ると、泉がその男子生徒に話しかける。
「それで、全てを失った顔をしているけど、君面白そうだから、私のところで働かないかな?」
俺は、おいおい本気でこれを仲間にするのか? と思いながらも泉の性格的にはその選択をとるのも納得だと思った。話しかけられた男子生徒と言うと、
「拙者、拙者の力が必要とおっしゃるのですか! そちらの美しいお嬢さんが!」
俺は、この泉をただの美少女だと思っているこの男に真実を教えてやりたい衝動に駆られた。
そんな気持ちを泉も抱いたのだろうか、泉は、
「そうだよ、僕は君の力が必要だと思った」
泉がそう言うと、彩は驚きの声を上げ、男子生徒は嬉しそうに叫んだ。
「僕っ娘キタコレ!」
男子生徒が喜んでいる横で、自分でも何を聞いているのか分からないといった風に彩が尋ねた。
「ねえ、普通はしないような失礼な質問なんだけど、いいかしら?」
俺がその質問についに心理にたどり着くのかと感慨深い気持ちになっていると、泉は答えた。
「いいよ」
「ねえ、あなたって女の子よね?」
「
その言葉に彩と、男子生徒が驚愕の声を発した。
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