第16話 通学路
彩の高校の同級生に扮した俺達は、そのまま彩が放課後よく行く場所を回ることにした。
泉は文字通りノート並みに小型のパソコンを片手に何やら確認をしながら彩の通学路を歩いている。
俺と彩は協力しながら泉の左右を護衛するように歩いて、泉がどこかにぶつからないように気をつけていた。
「それで、なにか分かったか?」
彩の通学路を歩きながらそう聞くと、いいやと泉は頭を振る。
「それらしい通信は確認できないよ。彩さん、フリーWiFiにつなぐような場所で心当たりのあるところは?」
そう泉が聞くと、彩はそうねと言って少し考える素振りを見せると、言った。
「通学路の途中にあるカフェやちょっとした食べ物屋、カラオケにアパレルショップといったところかしら」
泉は彩の説明にうなずくと、
「じゃあ、一軒一軒回ってみよっか?」
そうガチ恋泉の口調で言った。
*
洒落た街のカフェといった装いの店に入店すると、平日の微妙な時間もあってか、店内に客はおらず、渋い外装から想像していたよりも若いお姉さんが迎えてくれた。
「あら? 彩ちゃん。今日は一人じゃないのね? 友達を誘って……お、彼氏さん?」
店員のお姉さんは、彩、泉、そして俺と見ていってそう言った。
彩は嫌そうな声音で答える。
「花子さん。彼は彼氏じゃなくて、えーっと友人というか、隣人かしら?」
俺、彩に幼馴染とも友人とも思われず隣人と思われてたのか。中学のあの出来事がある前はそれなりに仲良くしていたはずなのだが、俺はその言葉に少なからず傷ついた。
「というか、こっちのこの娘の彼氏なので……」
彩が小さくそう言うと、泉は否定も肯定もせずに微笑んだ。俺は、否定したところで泉にどんなひどいことをされるか分かったもんじゃないので何も言わない。
「花子さん、ブレンドコーヒー3つお願いします」
彩はそう言うと、店の奥のボックス席に向かう。俺と泉も花子さんに軽く会釈すると、奥へ向かっていった。
「それで、お客がいないからなんとなくは察してるけど、それらしい通信はあるか?」
俺は、花子さんには聞こえないように小声でそう訊ねた。
「そうだね、それらしい通信はないよ。ちなみに彩さん、いつもこの店を利用するときに会うような人に心当たりってあるかな?」
泉がそう尋ねると、彩はそうねと言ってしばらく考えてから首を振る。
「いいえ、思い出してみてもそんな記憶はないわね。いつもあまり客入りの良くない時間に来るし」
「うん、分かった」
泉がそう返事をしたタイミングで花子さんが、ブレンドコーヒーを持ってきてくれた。
「砂糖とミルクはテーブルに備え付けてあるのをセルフサービースで使ってね」
初めて来た俺と泉にそう言うと、花子さんはちらりと彩を見て言った。
「それではごゆっくり」
俺はミルクを入れると少しかき混ぜてから、まだ熱いコーヒーを飲む。
「美味しいな。また来たくなる味だね」
そう言うと、彩は、
「そうね、それには同意するわ。ただ、来るならこの時間帯はやめてもらえると助かるわ」
そうですか、と思いながらも俺ははいよと頷いた。
*
その後、食べ物屋やカラオケでも犯人は見つからずに、彩がよく行くというアパレルショップに向かうことになった。
「なあ、俺も入らないといけないのか?」
俺が、アパレルショップのレディースコーナーを前にそう言うと、泉が言った。
「すーくん、彩さんに秘密してもらう条件として手伝うことを約束したんだからついて来ないとだめだと私は思うな」
泉がそう言って、確認をとるように彩を見ると、彩はどこか楽しげにうなずくと、
「泉さんの言う通りよ。傑も来なさい」
俺は深くため息をつくと、二人について行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます