第14話 理由
家に帰った俺は梓に詰め寄られていた。
「なんで、彩ちゃんが来るんだよう」
「いや、そんな事言われたって、毎日会っているようなお前ですら知らされてなかったんだろ」
俺は、しょんぼりする梓にそう言った。
「というか、普段と性格も声も違いすぎて全然気づかなかった。いや、改めて思い出すと、声に関しては少し面影があったような」
考え込むようにそう言うと、梓は先程までの沈んだ態度を一変させて言った。
「ふーん、面影があったんだー。そういえば、お兄ちゃん、チチちゃんが一番好きなVTuberだって言ってたよねえ」
「いや、それはあれだよ。声じゃなくてあのそう、色々なことを肯定して慰めてくれるようなあの感じに惹かれていたわけで、別に彩の声に似ていたからとかそういうわけじゃ」
梓の指摘に俺は慌ててそう返した。
「でもでも心の奥底では彩ちゃんを求めていたということかも?」
「あーもう、それよりさ。お前毎日のように彩と遊んでたくせにVの活動やっているの教えてもらってなかったんだな」
「そんなこと言ったら、それこそ文字通り毎日顔を合わせているはずのお兄ちゃんはコラボがなければ私にVやってること言うつもり無かったんじゃない」
ぐうの音も出ない正論だったので、渋々うなずく。
「それに、涙子おねえさんが言っていたけど、涙子おねえさんは見た目と声のギャップにずっと悩んでいたんだって、それをVで新しい体を手に入れることで自分の中で割り切ることができたみたいなんだ。それってもしかしたら、彩ちゃんもなにか自分の中のモヤモヤするものをVの活動でどうにかしたかったのかもしれないなと私は思ったんだ」
確かに、Vの活動っていうのはある意味現実の自分ではできないことをバーチャルで現実にする側面があるのかもしれない。
VTuberは体型や声に対してのコンプレックスだったり、性別に関する悩みだったり、アイドルや歌手になる夢を別の場所で叶えることだったり、そんな夢を叶える人と夢を見せられる人の利害が一致して成り立つ職業なんだと思う。
「そうだよな。でも彩はどんな理由で、Vの活動なんて始めたんだろうな」
不審メールでも感じたが、彩は別にネットに精通したITリテラシーの高い人間ではないはずだ。それよりかは、高校生活を楽しむような普通の女子高生に近い人物なんだと思う。VTuberの活動を始める動機がわからなかった。
「私は、何となく理由がわかった気がする」
「どういう理由なんだ?」
梓にそう尋ねると、
「そんなの自分で考えるべきだと思うよ。お兄ちゃん。いつまでも中学のことを引きずって彩ちゃんを遠ざけるなんてダサいよ」
妹に言われた言葉に俺は、何も言い返せなかった。
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