第13話 ネット上で無敵じゃん

 帰りの特急あずさでは4人がけのボックス席に俺、泉、梓、そして彩の4人が掛けた。

 空気は凍りついていて、梓は先程から潤ませた目をチラチラとこちらへと向けている。

 しかし、そんなことをされたところで俺にこの空気をどうにかすることなどできない。というか、自分自身が原因なのに俺が何かをするなんて無理だった。


「それで、二人はどうやって出会ったの?」


 張り詰めた空気の中で彩はそう聞いてきた。


「普通に学校でクラスメイトとしてだよ」


 俺がそう言うと、泉が口を挟む。


「そうなんですよー。私、すーくんとなら面白いことできるかなって思って声をかけたんです」


 泉は強心臓を持っているとしか思えない。きっと、今も自分が面白いと思う展開にしようとわざと彩を挑発しているのではないのだろうか。


「そう」


 彩は泉の言葉になにも言えないのかただそう返した。


「そういえば、不審メールって具体的にはどんな内容が送られてきているんだ?」


 話を変えるためにそうやって尋ねると、彩はスマホを取り出してそのメールの文面を見せた。


『今度涙子おねえさんと美鈴咲とコラボするみたいですね! 楽しみにしてますよ』


 メールの文面にはそういう風に記載されていた。


「他のメールの内容を盗み読まなきゃ知らないはずの情報が書かれているってことか。気持ち悪いな」


「妹を送り込んでVTuberの中身を知ろうとするのも気持ち悪いと私は思うわよ」


「ごめんなさい」


 正論すぎてただ謝ることしかできない。


「ちなみにメールのパスワードは変更しているんだよね?」


 泉は確認するようにそう尋ねた。


「そうね、ちゃんと推測されづらいものに変更済みよ。ちなみにこれは二通目のメールで1つ前のメールも読む?」


「参考になるかもだから一応見せて」


 彩がメールを開くと、泉はメールの内容を覗き込む。


『あなたが、Vtuhberのチチちゃんだということは分かっています』


「ちなみにメールアドレスにチチちゃんと分かる情報は入っているの?」


 泉は更にそう確認する。彩は首をふりながらメールアドレスがわかる画面を泉に見せる。


「キャリアメールかあ。ちょっとスマホの設定画面を見させてもらってもいい?」


 彩はうなずくと泉にスマホを渡す。泉は30秒ほど操作を行うと、彩に聞いた。


「画面にWiFiの通知が出たら接続するようにしていたの?」


「え? うん、だって通信量がもったいないじゃない」


 彩は困惑した様子でそう答えた。


「今後はウェブメールを使うか、フリーWiFiにつなぐことをやめたほうがいいよ」


 泉がそう言うと、よくわかっていなさそうに彩はうなずいた。


「同じWiFiにつなぐ人が悪意を持った人だった場合、暗号化されていない通信はすべて筒抜けになるんだよ。そして意外なことにも普通のメールは暗号化なんてされてないの」


 泉の説明で、やっと俺にも状況が分かった。要するに、彩がつないだどこかのWiFiから情報が抜き取られたということなのだろう。


「それで、私があなたの代わりにこの変態を懲らしめようかと思うんだけど、彩さんはどうしたい?」


 本来のハッカーとしての血がうずくのか、泉は皮を被った声音のまま、そう尋ねる。


「捕まらない程度に、懲らしめてほしいわ」


 彩の了承の声に泉は満面の笑みでうなずいた。

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