第10話 可愛すぎるんじゃないだろうか
特急あずさに乗った俺達は4人がけのボックス席を3人で座って東京へと向かっていた。
先程から、泉はずっと不機嫌そうに、ノートパソコンをいじっている。
「さっきはごめんね。泉さん」
そんな雰囲気に耐えきれなかったのか、梓はちょっとしょんぼりした様子で泉にそう言った。
「僕は別に怒っていない」
泉は窓側の俺の隣の席に座りながら、斜めまえに座っている梓を見た。
「本当? じゃなにかゲームしようよ」
梓は嬉しそうにそう言って手提げバックからトランプを取り出す。そんな様子を泉はキョトンとした目で眺める。
「やったことないの?」
「やったことはないが、有名所のゲームなら一通りできるはずだよ」
「梓、やるなら記憶力が大事なゲームはやめておいたほうがいいぞ。絶対に勝てないから」
泉にその手のゲームで勝負を挑むのは愚か者のすることだ。この天才には勝てる気がしない。
「いいだろう。じゃあババ抜きでもやろうか」
泉はそう言って、トランプを梓から受け取ると、シャッフルしてすぐに配り始めた。
*
「強すぎる」
すでに何ゲームか行っているが、そのすべてで泉は最適な手札がわかっているかのようにすぐに一番であがっていた。
「僕は、天才のようだからね」
泉はそう言って、ニヒルに笑う。
「お兄ちゃん、さっきからずっと泉さんがトランプをシャッフルしていたよね?」
梓はそう言って、疑いの目を泉に向ける。俺も口には出さなかったが、そうなんじゃないかと思っていた。
「流石に見破られたようだね」
そう言って、泉は切ろうとしていたトランプの束を梓に返す。
「でも、どうやってインチキしたの? どう見ても普通にシャッフルして配ったようにしか見えなかったけど、このトランプに印があるわけでもなさそうだし」
梓の言う通りだった。先程から泉のイカサマを見破ろうと、瞬きもせずに見ていたのに、泉は軽くトランプを確認したあと、高速にシャッフルをしてランダムに配っていたようにしか見えなかったのだ。
「僕ぐらいになるとトランプの札を好きな位置で配ることなんて容易なことさ」
泉はそう言って、広角を持ち上げる。
「でも、泉さんトランプはやったことないって言ってたよね。一人でそんなこと練習してたんだねー」
梓は泉の胸を抉るような威力のある指摘をした。
「そ、そんなこと」
俺は泉が流石に可哀想だと思ったので泉に助け舟をだした。
「あ、そろそろ新宿に着きそうだ。荷物片付けちゃって」
俺がそう言うと、泉は目をうるませながら、俺の顔を見てきた。可愛い。
普通に戻れなくなりそうなので切実にやめてほしいとい思いながら、俺は天才の敵はおバカなのかもしれないという謎の確信を得たのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます