男子高校生、美少女Vtuberになる~美少女JKと面白いことするはずが、色々とおかしいんだが~

桃色レモン

訳あり美少女JKと幼馴染のターン

第1話 それは、出会いから始まった。

 それは高校受験の試験中の出来事だった。

 国語の問題を早々に解き終わって、解答を確かめることもなく窓の外を眺めていたら、カツカツという鉛筆と机が当たった衝撃音の中にどうも規則的な音が混じっていることに気がついた。


「なんだろう?」


 思わずそう言ってしまったが、試験中で無意識の自制心が働いたからなのか、その声は誰にも聞かれることもなく教室の中に消えた。


『・- ・・-・ -・・-・ ・-・-・ -・・・-』


「モールス信号?」


 その規則的な音はどうやらモールス信号のようだった。試験中にモールス信号を発するなどどういった不届き者なのかとは思ったが、俺自身もテストの見直しをせずに屋外を眺めていたのだから人のことは言えない。

 俺は、果たしてどんな意図で信号を発しているのかと、耳を澄ました。


「一問目ねえ」


 どうやらこのフレーズは一問目ということを示しているようだった。とすると、次に示されるのはどう考えても一問目の答えであるので、俺は視線を外の寒々しい桜の木から外さずに耳を澄ます。


・-


「――」


-・-・ -・・-・ ・-・-・ -・・・-


「――」


-・---


 二問目の答えが示されたあと俺は思わず唸り声を上げた。答えが間違っている。それも二択に絞り込めるような答えの中で間違った方だった。

 果たしてこれはわざとなんだろうか。それとも本気なのだろうか。俺は解き終わって今日のお役御免だと机の端において置いた鉛筆を手にとった。

 そして、一拍置くと、この間ちょっとした雑学の気分で習得したばかりのモールス信号を発した。


『---- --- -・・・ -・- -・-・- ・・ ・・-・・ ・-・ ・・-- ・-・・』(これはわざとなのか?)


 俺がそうやって問いかけると、このメッセージを送った犯人なのだろう。右前の席に座っていた女子が肩を震わせた。

 びっくりしたのかと思って見たら、なんとその少女はふぐといった声を漏らして小さく笑い始めている。

 まさか試験中に笑い始める奴がいるとは思わないからなのだろう。すぐさま試験官の先生がその少女のもとへやって来て、その少女の名前を呼んだ。


「泉さん、大丈夫?」


 受験名簿を見ながら、試験官の教師は心配そうにそう言うと、その少女に問いかけた。


「いえ、大丈夫です。少し咳き込んでしまって」


 女子としては少し低めのハスキーボイスでその少女は余裕の態度でもって嘘をついた。

 教師は自然なその言い訳に納得したのだろう。小さくうなずくと、教卓の方に戻っていく。


 その後はいかにも平均的なレベルの高校らしく、不良が暴れだすような珍事も起きず、また、その少女もモールス信号を発することもなく、そのままテストの終了を迎えた。


「終わりにしてください」


 教師の指示でテスト用紙が回収されると、その日の最終科目であったので、教師は解散を伝えた。

 俺は改めて右前の席で筆記用具を片付けている少女を見る。俺の視界に入る周りの男子生徒もその少女に興味があるようでチラチラと見ている様子が丸わかりだった。

 なぜたかが少女一人に男子生徒が揃って視線を吸い寄せられるのかと思うかもしれない。

 その理由を説明すれば、後ろから見ても整っているとわかる彼女の容姿の良さもあるのだろうが、ここが工業高校で、女子の志願者など1割にも満たないのが大きいと思う。

 もし聞けるなら本人になぜこんな学校を志望したのかを聞いてみたいくらいだった。


 そんなことを思っているのがあちらにも伝わったのだろうか、少女は筆記用具を片付け終わると、唐突に勢いよくこちらに振り返った。


「私と面白いことしない?」


 黒いショートヘアー、明るい瞳は爛々として輝いていた。

 その少女に言葉をかけられたとき、俺が感じた気持ちは恋慕だった。

 中学の時にずっと好きだった幼馴染と絶縁状態になって、もう女の子と関わるものかと、わざわざ工業高校を受験したのに、恋っていうのは理屈じゃないのかもしれない。


「うん」


 俺は呆けたような声でそう、返事をしてしまった。


「前に受けた高専の受験じゃ誰も気づかなかったけれど、やっぱり変人は理系にありね」


 少女はそう言って満足そうにうなずくと、そのまま鞄に筆記用具をしまい込む。


「じゃ、また学校でね」


 少女は引き止める間もなくそう言葉を残すと、小さく手を降ってそのまま教室をあとにした。


「全く、とんだ美少女だったよ」


 この時の返事のせいで俺は日本中を相手に大嘘をついていく羽目になるのだから、言葉っていうのは本当に怖いのだ。



 そして時は流れ、入学式から3ヶ月後。

 俺は家の自室のドアを締め切ると、目の前の中学の途中から締め切ったままになっている窓のカーテンを閉め、マイクを前に息を吸った。


「んッ、んッ、んッ」


 少しずつ音程を高くしながら、声の調子を整える。

 準備が整うと、俺はマウスを手に取り、配信開始のボタンを押した。


「こんばんは! 今日もお前らと一緒にゲームやってくぜ~!」


 自分で言うのもなんだけど、完璧に女の子の声で俺は、今日も男性視聴者をVTuberの沼へと引き込んでいる。

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