第016話 無言劇
──翌朝。
メグリはラネットたちを引きつれて再び森へ入り、3人へ剣の稽古をつけた。
今度は3人を並べて、剣の型を確認する。
構え、振り、足さばきを通じて、3人の日常の姿勢や所作が似通うよう指導。
型を教えたあとは個人指導。
念のためにと、ラネットとリムにも剣を握らせ、自分を打たせるメグリ。
基礎体力があるラネットには「腕の力だけでなく、手首や腰の捻りを使って」と、目を閉じて闇雲に木剣を振り回すリムには「とにかく目を開けて、状況をよく見て」と、ひとつの目標を授ける。
そのあとは、武技担当のルシャに好きなように攻めさせる。
体幹がぶれない防御姿勢と、常に相手と中心線を揃える足さばきを、実戦を通じて伝えた。
──昼。
リムを中心に3人を並んで立たせての、歌唱の指導。
音程が外れまくったリムによって、速攻で崩壊する合唱。
メグリは声量が高いラネットを中心に据え、リムに口パクで追随するよう提案。
腹の底から湧くラネットの力強い歌声に、リムの調子が徐々に引っ張られる。
町でウィッグや従者用の衣装を受け取り、その足で揃って公衆浴場へ。
流し場でラネットとリムが、並んでメグリの背中を洗っている。
流し終えた二人は、左右からひそひそと、バストアップ秘術のおねだり。
二つの風呂桶の底で同時に叩かれる二人を見て、湯船で笑っているルシャ。
──夕方。
メグリの家。
リムとメグリによって、明るいブラウンへと染髪されるラネットとルシャ。
染め終わったのち、リムが二人の眉を整え、水性の塗料で軽く色を着ける。
メグリが仕上げのメイクを3人へ軽く施し、顔の印象をさらに近づけた。
パッと見の印象で、同じ顔になった3人。
輪になってお互いを見回し、「おー」と口を開ける。
化粧台の縦長の鏡に、3人縦に顔を並べて収まり、「おー」と口を開ける。
ウィッグを装着し、本来の髪に戻るラネットとルシャ。
ウィッグを交換したり、リムに被せたり、リムの眼鏡を借りてかけたりと、遊びながらいろいろと試す3人。
──夜。
ウィッグは一旦タンスの上へ置かれ、3人娘が同じ顔で夕食を取る。
ベッドの縁に並んで座り、長イスに並べられたとんこつラーメンに食いつく。
向かいでは、化粧台のイスに座ったメグリがどんぶり鉢を抱えており、箸で3人と長イスを交互に差し、「ね、テーブルにもなるでしょ?」と、得意げな表情。
──就寝前。
ホットミルクを並べ、身上を語り合う少女3人と、聞き役に徹するメグリ。
ラネットは、命の恩人の少女、トーンの名を、これまでずっと叫んできたこと。
リムは、実家で来客の子どもの相手をしているうちに、教師に憧れたこと。
ルシャは、父や兄の剣の腕を越えるために、一度家から離れてみたかったこと。
話し終えた3人が揃ってメグリを指さすが、メグリは顔の前で手を振って身の上話を拒否し、まだミルクが少し残るカップを慌てて回収して、部屋中央のランタンの火を落とした。
──深夜。
ほぼほぼ同じ顔の少女3人が、リムを中心にして、一人用のベッドにぎゅうぎゅう詰めになって寝ている。
左右の二人は、ベッドから落ちないようにと、無意識にリムに抱きついている。
ベッドのシーツは、粗い縫い目によって一枚へと戻されていた。
メグリは一人、屋台の長イスにタオルケットを敷いて、その上にいる。
窓の外にある、降るような星空を仰向けで眺めながら、神妙な顔つき。
長い尾を引いた流れ星がひとつ、窓の外を横切った。
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