第015話 公衆浴場

 ──城下町の公衆浴場。

 ラネットとルシャの断髪を終えた一行は、城下町のウィッグ職人へ二人の髪の毛を託し、必要な備品を買い揃えてから、公衆浴場へ立ち寄った。

 メグリが浴槽の隅を陣取り、後ろ髪をタオルでまとめ上げ、縁に両肘を置く。


「ふうううぅ……。まっ昼間から入るお風呂はいいわねぇ。ほかに客もいなくて、貸し切り状態万歳♪」


 少し離れたところで浸かっているリムは、眼鏡を外した顔を披露していた。

 目を細めることもなく、眉をひそめることもなく、いつも通りの丸い瞳を見せているため、裸眼で過ごすのに慣れているのが見て取れる。


「……ウィッグ、あさっての登城へ間に合うそうで安心ですね。染髪料も、わたしとぴったり合う色があって良かったです♪ アハッ♪」


 ラネットとルシャは流し場に並んで座り、断髪の際に生じた細かい髪の欠片を、ごしごしと洗い落としている。

 ルシャが仕上げの湯を頭から被り、赤いボブカットを左右にぶるぶると振る。


「ふーっ、さっぱりした! 頭が軽いぜ!」


 同じくボブカットになったラネットも、広げた指で金髪をかき上げながら、水を弾き落とす。


「いや~、ボクもさっぱり! 毛を刈られたヒツジって、こんな気分なのかなー?」


 二人が揃って湯船に入り、リムの隣に並ぶ。

 同じ髪型の女子3人が、肩まで浸かってのほほんとしているのを見たメグリは、「ふふっ」と小さな笑い声を漏らしつつ、進言を始める。


「あんたたち、お互いの体よく見ときなさいよー。傷跡とか、目立つホクロとか、消えてないもうはんとか、しっかり口裏合わせしといて。軍の施設ってたぶん共同風呂だから、いろいろ見られちゃうわよー?」


「お師匠。もうこはん……ってなんですか?」


 聞き慣れない言葉に反応したラネットが、考えるより先に質問を飛ばした。


「あー……そっか。ここの人たちって蒙古斑ないんだっけ。っていうか蒙古自体ないし……。ケツが青いって言い回しも、通じないんだったわねー」


「……お師匠?」


「いやいや……なんでもない。蒙古斑ってのは、わたしの故郷で青アザのことよ。あー……あと、乳輪デカいとか、下半身モジャモジャだとか、そういうのも、いまのうちにカミングアウトしといてー」


「それは気軽にカミングアウトできないんじゃ……。ボクは違いますけど」


「替え玉受験する以上、そういう確認って大事よ? きのうツルツルだった子が、きょうモジャモジャだったらヤバいでしょ?」


「一日おきに長かったり短かったりしたら、むしろホラーですね……」


「そ! 弁明利かない状態に陥らないよう、いまきっちり確認しておくべし!」


「……と言っても、みんな目立った特徴なさそう? 強いて言えば、インドア派のリムはやっぱお肌ピカピカだねー。ボクとルシャは、ちょこちょこ傷の痕あるから」


 浴槽の縁に両肩を乗せていたルシャが、左足を水面から高々と伸ばし、脛の周囲の古傷をアピール。


「まーな。うち、剣の道場やってっから、ガキんころから生傷だらけさ」


「へえ~……道場! じゃあうちに帰ったら、跡継ぐんだ?」


「う~ん……わかんね。親父もまだまだ現役だし、兄貴もつえーからな。へへっ」


 父親と兄の話題を口にし、その強さを誇らしげに語るルシャ。

 家族仲が良好なのを伺わせる。


「ちなみにこれでも一応、道場じゃ看板娘で通ってんだ。意外だろー?」


 ラネットはその質問に、ルシャの胸部を横目で見ながら答える。


「いや……。意外なんてこと、全然ないよ……。わかるなぁ……」


 リムも、ルシャの胸元をちらちらと見ながら相槌を打つ。


「ええ、ええ……。ルシャさんってこう……。なにげにセクシー……ですよね」


「……そーか? そーいや華麗の評価も乙だったし、オレも案外悪くねーのかもな。ははっ!」


 ルシャの健康的な胸の膨らみは、明らかにラネットやリムより一回り大きい。

 ラネットとリムが、誰もいない浴槽の角へ揃って移動し、周囲に背を向けて、こそこそ話を始める。


「……夕べ屋台で並んだときは、そんなに差なかったはずだけど?」


「わたし脱いでいるところ見たんですけど、胸、サラシでぎゅっと巻いていました。動きやすいように、普段はきつく締めているんだと思います」


 二人は互いにバストを眺めあうと、揃って振り返り、浴槽の対角でぼーっとしているメグリに向かって突進し始める。

 伏せていた目をふと開いたメグリは、水面に出た二つの顔がしぶきを上げながら近づいてくるのを見て、思わずびくっとする。


「ななな……なによなによ!? 隅から隅への、水槽のザリガニみたいなそのムーブはなによ!?」


「……お師匠。せっかくだから、胸のサイズも揃えたほうがいいですよね?」


「……は?」


「お師匠様なら、効果的なバスト育成法、知っているんじゃないですか? 先ほどのカラコンみたいに、まだこちらに伝わっていない未知の技術を……!」


 二人が目を血走らせてメグリへにじり寄り、控えめなバストを眼前につきつけて、それを大きくする方法を問い詰める。

 同性の体とはいえ、思春期の青い膨らみをあけすけに4つ突きつけられたメグリは、顔に血を上らせて、のぼせそうになる。


「……そういうのはなーい! 色気づくのは、一次試験通ってからになさい!」


 メグリは二人の頭を上から鷲掴みにし、鼻の頭まで湯の中へ押し込むと、その反動で立ち上がって、流し場へ向かった。

 二人はゴボゴボと湯に泡を立てながら、目を合わせる


「……おじじょうお師匠げぶがいね毛深いね


「……げぶががっだでずね毛深かったですね

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