第33話

 ロイクから魔石が届いてからは身をそぎ落とし魔石へと魔力を注ぐ作業に没頭していた。


「アレット、魔石の準備は終わりましたか?」


いつものように突然転移してきたロイクに私は返事を返す。


「前回作った魔石をすぐにオノレ夫人に渡しました。夫人は妊娠4ヶ月だそうです。一緒に見に行きますか?」


「ええ」


 私達はオノレの執務室に転移する。相変わらずロイクは無遠慮だなと思うけれど、オノレなら急襲しても大丈夫そうだし本人も気にしていなそうだ。


ロイクはそんな奴だと共通の認識なのかもしれない。


「オノレ、夫人の具合はどうですか?」


「あぁ、それなのだが、魔石から出る魔力が強すぎてアイラが弱ってしまった。魔力の流れを見て身につけずに水差しの中に魔石を入れて水を飲ませるように変えたところだった」


「夫人の具合を見せて貰っても?」


「あぁ、こっちだ」


魔力の流れを見極める事が出来るのは私達の発現したスキルの1つ。まさかここで役立つとは考えてもみなかったわ。


夫人と対面し、様子を伺う。


どうやら私の魔力が上手く体内で循環し、妊娠前よりも元気が溢れて仕方がない程だとか。私もロイクもホッと胸を撫で下ろした。


「ロイク、この方法ならいけそうね。オノレ、ヒントをくれて有難う」


「あぁ。産まれてくる子の魔力は紋章持ちの子だからと言い張る事が出来るだろう。隠しておきたいんだろう?あいつらに」


「ええ。数年程度は、ですが。また夫人の様子を見にきますよ。アレット、モルガンの所に向かいますよ」


「オノレも夫人も元気そうで良かったわ。何かあったら言って頂戴。ではまたね」


そうして私達はモルガンのいる店に転移した。




 相変わらずモルガンの店は繁盛しているようだ。


「おう!えらく久しぶりな顔ぶれだな!2人してどうしたんだ?まぁ、中に入ってくれ」


モルガンは従業員に声を掛けて奥へと入っていく。


「まぁ、そこに掛けてくれ。どうしたんだ?2人揃って」


小さいながらも客間のような部屋に案内され、席に着く。モルガンは私達にそう言いながら自らお茶を淹れてくれる。


「いつ飲んでもモルガンのお茶は美味しいですね。見た目とは裏腹に」


「がははは。相変わらずだなロイク!美味いだろう?で、どうしたんだ?」


「これをちょっと裏手の井戸に入れて貰いたいのですよ」


そう言いながら取り出した拳大の魔石。モルガンもスキルを使い確認したようで真面目な顔をしている。


「これは、アレットとロイクの魔力が相当に詰まった物じゃないか。…魔力以外の物も入っているな。どうしたんだこんな物」


「ええ、私達が作ったのです。心血を注いでね。オノレ夫人は妊娠中で既に飲用しています。アレットの魔力で元気になり過ぎて驚きました。この魔石は、私達に代わって魔力の高い子を沢山作り上げていく物なのですよ」


「副作用はあんのか?俺んトコはかかぁが妊婦だ。子供は既に3人居る。かかぁ以外にも効果はあるのか?」


「ええ、もちろん魔力の摂取をしているだけなので副作用は有りませんよ。人間は18歳前後までは身体と共に魔力も成長すると言われています。胎児程ではないにせよ増えると思います」


「そうか、是非お願いするぜ!」


「あぁ、1つだけお願いしたいのですが」


「なんだ?俺に出来る事なら聞くぜ」


「この事は国、王家に黙って貰いたいのですよ。数年程度でいいのです」


モルガンも理解したようで頷く。


「あぁ、増えたって俺の影響だって事にしておくさ!がははは」


そう言ってモルガンは立ち上がり店の裏手にある井戸に案内してくれた。


「モルガン、何にも無いと思うけれど、邪魔ならこの石を取り出して貰っても構わないわ」


「分かった。まぁ、俺は仲間を信じているさ!アレットもロイクも成長は止まってるんだろう?まぁ、これからも長生きするこった」


私はモルガンの言葉に目を見開く。


「成長が止まって、る?」


「気づいて無かったのか。紋章が現れてから5年は経っているだろ?アレットもロイクも出会った頃のままのガキだぞ?俺は紋章を返した時にまた歳を取り始めたようだが、アレットは返してないし、ロイクは賢者の紋になったからな!」


私はロイクの方に視線を向ける。ここ数年ロイクとしか身近な人と会う事が無かったから気づいていなかった。


「モルガン、紋章を返してからの歳はどうなったの?」


「さぁな?今は普通に歳を取ってると思うぜ?」


「モルガンの言う通りですね。これは私の予測でしか無いですが、紋章は一時的に身体の老化を止めているのだと思っています。紋を返せば本来の歳に戻るのか、時が動き出すのかは分かりませんが。


因みに賢者は人より少し寿命が長いだけですよ。老化も遅いようです」


… そうなのね。


私が女神様に願わない限り、老衰は無いのね。


死ぬ時を自分が決める事になる。


それは少し怖い気もする。モルガンにまた来るねと挨拶をした後、ロイクと共に兄の所も同じように転移する。

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