第6話 マイベスト
「なんで・・・・・・」
満月に照らされたボクの身体は傷だらけ、守ろうとしたサカナも少しひっかき傷がある。それでも、今まで争いをしてこなかったボクがサカナを捕まえるために疲弊しきった中、自分より多いネコたちを前に、大きな咥えたサカナを守るというハンデを背負っていた割には素晴らしい成果だ。これも、タロウさんと一緒に街を駆けまわり、海でサカナを取ったりしていた成果だ。
だから、タロウさんにボクの初めての武勇伝を伝えながら、元気を出してもらおうと思ったのに、タロウさんはいなかった。いつからいないのかは分からない。けれど、もう夜なのだから、お腹が空いたから食べ物を探しにっていうことはないだろう。
ボクはタロウさんの家へと走った。
身体はボロボロだし、疲労困憊。それでも、サカナは置いていくという選択肢はなかった。
(あの時に比べれば、なんてことはない・・・・・・それに、タロウさんの悲しみに比べればっ!!!」
「にゃあああああああっ!!!!」
最初はサカナも甘噛みで運びたいと思ったけれど、そんなことを言っていられない。ボクは思いっきりサカナを噛んで、走った。
だって、タロウさんはボクの憧れで、ヒーローで、そして・・・・・・
「タロウさんっ!!」
タロウさんの家に着くと、タロウさんも傷ついた姿で犬小屋にいた。きっと、親族が逃げ出したタロウさんを虐待したのだろう。
「ミーヤ・・・・・・」
タロウさんは後ろめたい顔をしながら、ボクから目を逸らした。そんなタロウさんも初めてだ。ボクはタロウさんへ駆け寄る。
「もう・・・放っておいてくれ・・・」
「嫌です。これっ、食べてください」
「もう、俺には生きる価値がないんだ」
傷ついたサカナやボクに少し目を大きくしたタロウさんは何か言いたそうだったけれど、言うのを止めて、目を逸らす。いつもなら、ボクを心配してくれただろうし、褒めてくれただろう。でも、そんな余裕もないのもボクは十分に分かっていた。
「生きる価値はありますよ、だって、タロウさんはボクのヒーローですもん。ボクの目標ですもん」
「ヒーローなんかじゃない。・・・・・・結局、オレは爺さんのおかげで生きてこれた飼いイヌだ。だから飼い主が死んだのであればオレは・・・・・・っ」
悔しそうなタロウさん。
「だから、ミーヤ。すまない。オレはこれからお前を守ってやることも・・・導いてやることも・・・できない」
その言葉はボクの心に刺さった。
もう援助がないということがショックだったわけじゃない。一緒にいたいと思ってくれないことが悲しかった。でも、そんな泣き言を今言うべきじゃない。ボクは心を保ち、タロウさんに告げる。
「いいです・・・それでも。今度はボクがタロウさんを守ります」
「それは・・・・・・」
タロウさんはボクを見ない。きっと、タロウさんはそれは惨めだと言いたいのだろうが、ボクが傷つくから言わなかったのだろう。タロウさんはボクのことを惨めだとは思っていないけれど、自分が他の動物に守られるのは惨めだと思う方であることは、普段の気高さから考えれば容易だ。
「ボクは、いつも整ったタロウさんの毛並みが物凄いカッコイイと思ってました。それに、気高い性格も憧れてました。でも、でもっ。それが無くたって、タロウさんはタロウさんですっ。ボクの憧れで、ボクのヒーローで、そして・・・・・・ボクの親友ですっ!! だから、ずーっと一緒に居たいですっ!!!」
ボクは目を瞑って、想いを込めて叫んだ。タロウさんに親友なんて言うのはおこがましいかもしれない。けれど、ボクはそう言わずにはいられなかった。
タロウさんから返事は無かった。
ボクは恐る恐る目を開けて、タロウさんを見ると、タロウさんは微笑んでいた。
「そのサカナ・・・ミーヤ一匹で捕まえたのか?」
「はいっ、あの時のサカナですっ」
「あの時・・・?」
「初めて、タロウさんとボクが出会った時に持ってきてくれたサカナですっ」
「そうか・・・」
タロウさんはサカナを食べだした。
ガブッガブッガブッ
骨に気を付けながら、そして、とても旨そうに。
「タロウさん」
「なんだ?」
「ずーっと、一緒に居ましょうねっ!!」
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