第3話 タロウの帰る場所
ある日、いつものように走り回っていたボクら。夕日が沈む前に解散するのがボクらのルール。別れた後はそのままお互いの住み家へと向かう。けれど、何気なく振り返ってみると、
「あれ、タロウさん?」
タロウさんは防波堤から夕陽を眺めて、まったく動こうとしない。そして、その瞳はとても寂しそうに感じた。ボクは再び、胸が騒いだ。ボクは再び、タロウさんのところへと向かうと、タロウさんはちらっと、ボクを見て、何も言わずに再び夕日を見た。
「タロウさん、日が暮れちゃいますよ」
「あぁ・・・そうだな」
淡々と言うタロウさん。いつもは付き従うのがボクだったけれど、タロウさんを先導するように、
「さっ、帰りましょ。ねっ」
そう言って、海に背を向けようとすると、
「オレ・・・帰るとこないねん」
とタロウさんは言った。
「マジで?」
ボクは慌ててふり返り、柄にもなく、ツッコミを入れてしまった。
◇◇
タロウさんは理由を話してくれた。
タロウさんを飼っていたお爺さんが昨日亡くなってしまったとそうだ。お爺さんは独居で、遠方から親族が来たそうだが、遠くに住んでいた親族たちがタロウさんを引き取るかどうかの話をしている際、良く逃げ出すタロウさんは手に負えないと言う話をして、保健所で処分するなんて話をしていたそうだ。
「・・・・・・」
ボクはなんて声を掛けていいのか分からなかった。
飼い主が死ぬということは野良ネコのボクにはよくわからないし、タロウさんもボクに気を遣ってか、今まで飼い主のことを多くは語らなかったけれど、それでも、信頼関係が言葉ににじみ出ることがあった。兄弟やお母さんの顔色を伺って生きてきたボクはそういう勘は鋭い方だと思うから、タロウさんが飼い主が死んで本当にショックなのは痛いほどわかるし、それに追い打ちをかけるようにタロウさん自身も邪魔者扱いされて、殺されるかもしれないなんて事実にボク自身も心が苦しかった。
(でも、ボクが・・・)
ボクは勇気を振り絞る。
いつもお世話になっていたタロウさんがこんなに苦しんでいるのだ。
(ひとまず、居場所だ)
「タロウさん、ボクの家に来てくださいよ」
「・・・・・・」
タロウさんは答えずに遠くを見ている。
それでも、ボクはめげなかった。
「そんなに綺麗なところじゃないし、見せるのもお恥ずかしいですけれど、どうでしょうか?」
ボクはタロウさんの返事を待つ。すると、タロウさんの口がゆっくりと開こうとした。けれど、また、ボクの勘が働いた。タロウさんは断ろうとし、そして・・・死を受け入れようとしている。
あの時のボクと同じように。
「一度は、来てくださいよ? ねっ? 一度も来てくれなきゃ悲しいですよ、ボク」
ボクはタロウさんが言葉を発する前にもう一押しする。すると、少し口を開けたタロウさんがボクを見てくれた。ボクは笑って見せた。今のタロウさんに死なないでと言っても、響かない。もしかしたら、もっと惨めな思いをさせてしまって、死ぬことを完全に受け入れてしまうかもしれない。
「あぁ・・・そうだな。一度くらい・・・・・・な」
「やったっ!!」
ボクは飛び跳ねながら、歓びを体で表現する。
(ぜったいに・・・・・・タロウさんを死なせやしない)
ボクはそう心の中で誓った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます