インスタントフィクション 400文字の物語
蓮見 七月
戦争が続けばいいのに
歓声が辺りに充満していた。
連隊の兵士たちはみな戦車から顔を出し、手を振る娘たちに笑顔を返した。
男も戦車のハッチから顔を出す。
右後方には有名な美術館があって、左前方にはこの街を象徴する大きな塔が建っていた。
男と同じ戦車に乗る兵士がもう一つのハッチから体を出して、レストランの2階にある民家に叫ぶ。
「俺の代わりに母ちゃんに帰って来たって電話してくれ」
兵士が男に向かってウインクをした。男はただ微笑んだ。
別の男は街の女とキスをしていた。結婚しそうな勢いだった。
男には家族も恋人も友人も居ない。戦場に設けられた娼館だけが懐かしかった。
「誰かと話さなくていいのかい?」
「いずれ話すさ」
男は帽子を脱いで後方の戦車に乗る老兵に答えた。戦争のおかげで嘘を吐くのが得意になった。
人々が戦車にまとわりついたり、登ったりしていた。
男は戦車から飛び降りる。戦争が続けばいいのにと思いながら、彼は煙草を買いにどこかへ行った。
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