4-9.もうすぐ



《 B.W.D卒業記念!KAI単独インタビュー☆》



 日本から取り寄せた某有名女性ファッション誌。KAIはこの年末を以ってB.W.Dを卒業する。窓の外には雪がチラチラと降っていて、アトリエの中にいても少し肌寒い。


 かじかむ手でペラペラと雑誌をめくると、早速目的のページが現れる。さまざまな衣装に身を包み笑うKAIの写真――その笑顔は、これまでとは比べ物にならないくらい爽やかだった。



 人生の大きな決断をした櫂。

 その姿に、心から敬意を送りたい。



 ゆっくりと、一つ一つのKAIの表情を噛みしめるようにページをめくっていく。写真の横や下に添えられているインタビューのテキストも、一字一句見逃さないように読んだ。


 インタビューには、これまでのKAIの想いや今後のビジョンなどが描いてあった。読みながら、ウルウルしてしまう。大変なことも沢山あったのだと分かる。それでも、B.W.Dとして過ごした5年間がKAIにとってどれほど充実した時間だったのかが手に取るように伝わった。



 KAIのインタビューも終盤に差し掛かった……ある1ページ。小さな写真と共に、一問一答形式で質問に答える形式になっている。




『好きな動物はなんですか?→うさぎ』


 あれ……?櫂ってうさぎ好きだったんだ……。

 ファン心理なのか何なのか、知らなかったことがちょっと悔しい。




『好きな人はいますか?→いる』

「………………」



……ダメだ。これ以上は、知りたくない。


 5年間も華やかな世界にいて、いろんなお仕事をしてきたKAI。垣内さんに限らず、綺麗な女優さんや可愛いアイドルの子達とも沢山共演していたのを知っている。


 そりゃあ、好きな人くらいいるよね。私のことなんてもう……過去の良い思い出だよね。





「……ふぇっ?」


 読むのを止めてもう次のページに進んでしまおうかと思ったけど、やっぱり気になって読み進めた矢先。ある質問の答えを読んで、思わず突飛な声が漏れた。もう何度目だろうか。心臓がバクバクしてくる。



『最近嬉しかったことを教えてください!→高校の頃に失くしたと思ってたすげー大切なブレスレットが見つかった。久しぶりに古着のジーパンを履こうとしたら丈が不自然なぐらい短くなってて、ロールアップしてた裾を伸ばしたら中から出てきた。失くしてからすげー時間経ってんのに、今見てもやっぱ大切だなぁと思ったよ。あ、どうやら俺、まだ身長伸びてるらしいっす。笑』




「……かいぃ……っ、……っ……」


 一度引っ込んだはずの涙が再び押し寄せて、ポロポロと零れ落ちた。





――プルルル……


 急にスマホの呼び出し音がして、ピクリと身体が跳ねる。画面を見ると、久しぶりの名前が表示されている。なんだろう……?


 驚きと嬉しさで一気に涙は止まり、電話に出た。



「……もしもし?久しぶり!うん、元気にしてたよ。…………え?!嘘?!おめでとう!……うん、うん、もちろん良いよ!……場所と日にち……待って、今メモするね」



 慌ててメモ帳を開く。筆談をするために使っていたそれを開くのは、日本にいた時ぶりだった。


 ふと、ハラリと何かが床に落ちる。


 乾いた桜の花びら――いつだかに、櫂の髪にくっついていたものだ。



 それを見た瞬間、高校時代のあの情景が頭の中に鮮明にフラッシュバックしてくる。


 四人で通った通学路のあの桜並木。

 私の大切な、青春の日々。


 スマホを耳に当て、もう片方の手でメモを取りながら、もうすぐそこまできている帰国の日に、胸が躍る感覚をたしかに感じていた――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る